灸を据える
「いやー、まいったなぁ。フリーライトでモコモコ草を仕入れて、アル婆にお灸を据えたいですからね」
「年寄りを労わるのは素晴らしい心遣いじゃ。だが、杉山先生には悪いが、私の身体を気遣ってくれるならフリーライトにそのまま住み続けてくれる方が、私は元気になるんじゃよ」
表情は笑顔だが、目の奥から拒絶の色が見える。
あー、はいはい、こういうのは日本で業界団体に居た時に馴れっこですから。
「いやいや、お灸を据えるというのは治療だけの意味ではないんです。お灸は乾燥した草に火を着けて肌の上に載せる。心地よい程度の熱さで消すことも可能ですが、性根が歪んだ患者を整えるには親指くらいのお灸を焼き切ってあげるんですよ」
「ほぉ、それはまた中々の所業じゃな」
「年の数ほど据えればアル婆の曲がった根性と腰も真っ直ぐになるかもしれませんよ?」
俺も負けじとフル笑顔で答える。
青い顔をしたクラウスが交互にこちらを見ていた。
「ほぉ、お主なかなかの胆力じゃな、場慣れしておる――クラ坊、その手に持っとる物が飾りでないんなら、今の内にケリをつけた方がええよ」
「……ケリを着ける」
なんてババアだ!
さっきは銃を仕舞えと言っていたくせに都合が悪くなったら撃ち殺せと孫に言うなんて。
その辺の変わり身の早さが、EE組合のトップに君臨するだけの器というわけか。
いや、感心してる場合じゃない! 結構、絶体絶命だぞ!
「俺はフリーライトに亡命して、仲間を見捨てるつもりはないぞ、アル婆」
「仲間と一緒に亡命したら良いと言ったが」
「ピリスやクラウスも当会の会員だ。つまり、当会は会員を見捨てたりはしない!」
クラウスがぴくりと反応したことにアル婆の表情が曇る。
後継者に弱いのはどの業界のトップも一緒といったところだな。
「クラウス! お前、人を助けたいんだろ? だったら、今からでもやればいいじゃないか」
「どうやって?」
急に矛先を向けられたせいかクラウスは困惑の表情を浮かべている。
人を助けたい、魔導器作製A、そして聾唖のサラと俺の会話を助けてくれた事、俺の世界にはそういうことが生業の職業を知っている。




