サクシャは今日もジャンクの山を積み上げる
ここは不思議な世界。
まるで継ぎ接ぎしたように、土地土地で世界のルールが変わる。
そしてその土地は無数にあり、土地毎に大きさは違うが、基本的に解析も理解も諦める程に大きい。
例えば宇宙空間が広がる土地。
数多の星星が輝き、そんな美しい宇宙の覇権を争い、宇宙戦艦による艦隊戦を繰り広げる土地がある。
そうかと思えば、宇宙規模の統一機関が存在し、宇宙を股にかけて一攫千金を狙う荒くれもの達がロマンを胸に大冒険する、そんな土地もある。
それどころかその辺は全て開拓しつくされて、宇宙規模の平和な文明が存在し、日々を楽しく趣味に没頭して生きられる土地だってある。
いわゆる現代らしい土地なら、現代に相応しい、ほぼそのままの土地。
他にはダンジョンを始めとしたファンタジー要素が混じる土地も沢山ある。
魔法が存在する土地では、命が恐ろしく軽いハードな土地や、超魔法文明によって平和を享受する土地もある。
荒野しか無い土地で有名なのは、来る日も来る日もならず者達と保安官や正義のガンマンとやらが、夕日を背景に決闘を繰り返す。
そんな世界で【サクシャ】って仕事をするオレは、今日もサクシャが自然と集まる酒場に入り浸る。
…………あん? 呑んだくれてるんじゃねえ、仕事しろだ?
呑んだくれているのが仕事なんだよ。
分かるか?
サクシャの仕事の大部分ってのはなあ、待つのが仕事なんだよ。
待つのに酒場は都合が良い。
だが酒場に居座るなら、客じゃなけりゃ店に迷惑がかかる。
酒場の客なら、頼むのは酒だ。
な? 待つためには酒を呑まなきゃならねえ。
待つのが仕事なら、呑むのも仕事だろ?
そんな訳で、こうして――――っと。 ほら、向こうからやって来たとびきり美人な姉ちゃんが、オレの待ち人だ。
この姉ちゃんは【テーマ】とか【コンセプト】って呼ばれる、仕事をサクシャへ取り次ぐ事が仕事の……ほら、アレだ。
言わばオレ達サクシャにとっての女神だ。
サクシャは気ままなモンでな。 いくら仕事が有っても、やる気になれなきゃ仕事に取りかかれない生き物なんだよ。
そんなサクシャ達を、やる気にさせてくれるのがこの女神達って訳だ。
女神“達”な。 それぞれに好きなジャンルの範囲が有ってな、その範囲で仕事をくれるんだわ。
……だがな、注意しなけりゃなんねえ事もある。
女神達が持ってくる仕事ってのは、大抵がクセモノ揃いなんだよなぁこれが。
サクシャをやる気にさせるだけさせて、合わない仕事を押し付けてくる女神もいる。
その結果として、引退したり突然居なくなっちまうサクシャも数知れず。
その経緯から彼女達はさながら、運命の女神様ってな。
おっ? 他にもサクシャ達が呑んだくれているだろうに、今回はオレをご指名か。
ふう、やれやれ。 女神様のご意向に従いまして、楽しい楽しいお仕事をやりますよっと。
それでテーマが示した仕事は、
[骨太なファンタジーの土地で目覚めかけている、暴虐の魔王を倒す]
だとよ。
……ふぅ、こりゃまた王道な仕事を持ってきてくれやがって。
こんな王道な話は、飽きられて需要は昔より無いだろうよ。 分かる?
だからさあ「こんな仕事を本当にするのか?」って聞き返そうと………………ってオイ!
あの女神はもう居なくなってやがんの。
あーーーー、これはもう逃げられない仕事なんか……。
はいはい、やりますよ。 やってやれば良いんでしょ?
……ったく。
~~~~~~
はい到着……っと。
仕事の現場に来てみた。
オレ達サクシャには能力が有る。 様々な土地で《確定していない事象をある程度操れる》能力だな。
少し踏み込んで言えば、可能性でしか無いバラバラに散っているモノを、望んだ形で引き寄せて集まりやすくする能力だ。
強力極まりないが、もちろん欠点だって有るがな。
他にも《それぞれの土地へ自由に転移する》能力。 目的の土地へ移動するだけで、年単位かかる移動が必要になる場合も有るからな。
それとついでに《架空も含めて誰かに成りきる》能力もある。
可能性をいくら集めても、どうにもならない場合ってのが有るんだよなぁ。
そんな時に、オレ達がこの能力で可能性のひとつになって、更に違う可能性を引き寄せられるようになるんだ。
そしてこれで操った結果を【ドクシャ】って連中に見せるのが【サクシャ】の一番の仕事になる。
早速始めたい所だけど、まずやるのはロケハンからだ。
思うがまま行動させて、それをアドリブでフォローするやり方も悪かねーが、それは流れがグッチャグチャになって取り返しのつかない展開に進んで、どーにもならずに投げ出すオチになりやすいからな。
展開の迷子はゴメンだぜ?
そんな迷子に良いトシでなりたくないんでな。 ロケハンで確認と下見は重要だ。
こんな継ぎ接ぎ世界でノリでテキトーこいて、更なる継ぎ接ぎを創るってどんな苦行だよ。
いや、冗談抜きでな。
さて、女神にもらったキーワードは“魔法のある骨太ファンタジーな土地”と“復活しかけている暴虐の魔王を倒す”。
復活しかけの魔王と、それを倒すのは良くある奴だから、ロケハンには困らないんよ。
この土地には復活しかけの魔王なんて、山ほど居るし。
それを倒す旅を、山有り谷有りドラマチックに操るなんざ、手本がそこらに転がってるんだから悩む要素にすらならねえ。
問題は王道過ぎる事だ。
手本が多すぎるってのは実は逆に困りもので「○○のパクりですよね?」と言われるのは日常茶飯事な訳だ。
だからって意識しすぎれば、余計にパクり疑惑が深まる厄介モノ。
人によるが、全く意識しない方がオリジナル感が出やすいって聞いたりするな。
ってな所で大体ロケハンしたし、そろそろ操ってみますかねえ?
はい。 ここは毎度お馴染み冒険者の酒場。
いや、冒険者ギルドなんて無ーよ。
冒険者ってのが、完全に個人経営のならず者達扱いされてる世界だからね。
便利屋として普通の人に親しまれるには、暴力の香りが強すぎるからね。 仕方ないよね。
だから冒険者に依頼する奴ってな、大体訳あり連中。
兵士や騎士が手一杯で助けてくれず、オラが村に溢れた魔物を狩ってくれーとかって、切羽詰まったシャバのモンは時々かな?
そんな暴力の世界に生きるならず者達の中に、主人公が居るんだ。
ヤツは歴戦のソロ冒険者。
行動原理は、面白そうならそれでヨシ。
その行動原理から、危険すぎて誰も一緒に行動しちゃーくれない、自由な一匹狼。
つまんねー故郷から飛び出して、夢と野望とロマンを期待して、今日も酒場でクダを巻く。
そんな彼に、魔王討伐のロマンをプレゼント。
~~~~~~~~~~
まずはその冒険者へ依頼しに、酒場にやってくる依頼主。
コイツは家の古びた倉庫から、絶対に暴いちゃならねー遺跡があるって、地図付きの古文書を見つけたと語り始める。
依頼は、遺跡の正体の特定。
期限はとりあえず半年。 調査にどれだけ時間が要るか分からねーからな。
報酬も達成後に相談。 費用は冒険者持ち。
こんな依頼でも、面白いの大好きな危険野郎なら、もちろん乗っちまうよな?
あー、ここで余計な話をちょっと失礼。
この依頼人の遠い遠いご先祖が、魔王を封印した一味な?
だがその辺の伝承はどっかで途切れて、過去の栄光と言う誇りも埃をかぶって意味を失って久しい。
最近の栄誉だと2か300年前に、どっかから超高価なモノを見つけてきて、それで一財産築いた位か。
現在は、昔に大きな財を持った“事もある”一般人……ってね。
それでどんなロマンと出会えるか、意気揚々と出発する危険野郎。
~~~~~~
目標地点を目指し、旅を始めた危険野郎。
1ヶ月の旅程で、小さなトラブルに何度か出会う。
その途中で報酬や情報、売られていた掘り出し物との出会いを重ね、現地で何が起きそうかを予測して準備しながら旅をする。
~~~~~~
ついに辿り着いた現地の周辺には、なにやら沢山のテントが張られていた。
その集団の責任者を探すと、こいつらは何処ぞの国から来た遺跡調査の一団だった。
危険野郎の事情を話せる範囲で話し、共同調査にこぎつける。
危険野郎が暴走して抜け駆けしないよう、調査隊の隊長の娘が監視役に。
~~~~~~
それから3ヶ月。
慎重に慎重を重ねた遺跡調査は、それくらいの時間が軽く過ぎた。
途中でとんでもなく大きくて凄そうな遺産を見つけ、その調査をしようとしたが出入り口の関係で外へ持ち出せずに、態々機材を運び込んだりする出来事もあったり。
何度か隊長の娘と意見衝突したり、些細なトラブルをしたりを繰り返し、いつの間にか軽口を叩き合う仲になったり。
謎だったパーツが揃い、遺跡内部の古代文字とか魔法文字とかを完全に解読したら、何かが遺跡の最奥に封印されていると分かったり。
遺跡自体は、超古代文明の遺跡だと判明している。
危険野郎の脳裏には、依頼人の古文書にあった《暴いてはいけない》の警告。
だが、知的好奇心から調べたがる調査隊と、ロマンを求める危険野郎に、意見の食い違いは無い。
さあ、最奥の封印を御開帳!!
封印されていたのは、古代の暴虐の魔王だった!!!
その姿は禍々しく巨大で、20mはあるだろう。
戦えるものは魔王の前に立ち、非戦闘員を逃がす。
守ろうとして、あえなく果てる戦闘員。
逃げ切れず、巻き込まれて吹き飛ばされる非戦闘員。
そして。
父を守ろうと無茶をして、大怪我を負い動けなくなった隊長の娘。
ついに危険野郎がブチ切れた。
彼は馴れない連携を止め、調査隊側の全員を逃がす事に決めた。
抑えていた力を全て出し、ついに魔王を押し返す。
だが押し返せたのは一時的なもので、魔王は流石に強い。
たまらずと言った流れで、逃走に入る危険野郎。
もちろん魔王は逃がすまいと、しかし肉食獣が戯れで獲物を追うように、ゆっくり追跡してくる。
走る危険野郎は、逃げる先に心当たりがある。
その目的地は…………。
封印した魔王に対抗出来るよう、遺跡が現役だった時代。 超古代文明が造り上げた対魔王決戦兵器の格納庫。
騎士型の20m級。
いわゆる人型の巨大ロボットが、遺跡の一室に保管されていたのを調査隊と危険野郎達は見付けていたのだ!
……あぁ? 骨太なファンタジーに、ロボットは邪道だぁ?
良ーんだよ。 ここらでこの位は入れとかねーと、普通の冒険譚としてその辺に埋もれちまうんだわ。
んで、超古代文明って言葉は便利でな。 ロボットでもビームっぽいものが出るライフルでも空飛ぶ船でも。
その土地や文明や世界に不釣り合いなモノは超古代文明産と言っときゃ、大抵通じる。
まあそんなモンだ。
それに巨大なモノが戦うシーンは、それだけで盛り上がるっつーモンだ。
危険野郎は、サッとロボットに乗り込む。
操縦は3ヶ月の間に把握しており、ロボットの中で実際に体を動かすと連動して動く、ダイレクト式。
起動してロボット用の巨大な剣と巨大な騎士盾を手にした頃に魔王が到着し、そこから最終決戦が始まる。
ロボットはボロボロになり、魔王も片腕を切り飛ばされ全身傷だらけの満身創痍。
これで決着だと、お互いが最後の一撃に全てを賭けた。
結果は、危険野郎が乗るロボットの勝ち。
正確にはほぼ相討ちで、魔王がわずかな差で勝つ寸前に、危険野郎がロボットから飛び出して魔王にトドメ。
魔王の復活は阻止された。
遺跡を去る前に振り返った危険野郎の視界には、地面に突き刺さった巨大剣が墓標みたいに見える、もう2度と動かなくなったロボットが。
危険野郎の口からぽつり。
「最期まで良く動いてくれた。 格好よかったぜ」
ニヒルに口を歪めてから、前を向く危険野郎。
~~~~~~
調査隊と合流した危険野郎。
お互いの無事を祝い、死んでしまった者達の冥福を祈る。
それから、これからの相談。
調査隊は危険野郎をスカウトするが、危険野郎自身は「この気楽な身分が良い」として、あっさり断る。
それを残念がる調査隊の隊長は、何か困ったら頼りなさいと、危険野郎へ身分証代わりになる物をプレゼント。
ニッカリ笑顔でそれ“は”受け取った危険野郎は、隊長の娘の泣きそうな顔を見ないふりして、帰途につく。
~~~~~~
馴染みの酒場へ帰ってきた危険野郎。
依頼してから、きっかり半年。 期間通りに戻った危険野郎は、依頼主が酒場に来るまで酒浸る。
やがてやって来た依頼主には、ロボットの残骸の欠片と一言だけの報告。
何をしても動かない“壊れた”超古代文明の遺産が有っただけだった。
がっくりしている依頼主と、自分の顎を持ち上げて目を瞑り、今回の冒険の思い出に浸る危険野郎。
かくして、魔王復活の危機は人知れず去り、何も知らない人達は平和な日常を今日も送るのであった。
~~~~~~~~~~
【テーマ】に従ってやってみたぜ?
女神様は相も変わらず無茶を押し付けて下さる。
どうだ? 王道テーマに、オリジナルの刺激としてぶっ飛び要素を一摘まみ。
骨太冒険ファンタジーの主人公にゃ、ハーレムは要らねえ。
その時その時に淡い交流で心ばかりの現地妻が現れて、ついでに気の良い仲間達との出会いと別れを繰り返すのが粋ってね。
その出会いと別れに、一流の腕っこきだけどちょっぴりお調子者でトラブルメーカーな、お互いの足りない所を補いあって頼りになる相棒が居たら、もっと良いかも知れねーがな。
っと……どーだい? 今回のデキなら【ドクシャ】は楽しめるんじゃねーかな?
それで、どうよ【ドクシャ】様。
今回の作品は面白かったかい?
…………は? ひねりが無い? つまんねー? ジャンク?
は~~~、まったく【ドクシャ】様のお眼鏡は本当にお高いモンだわな。
はいはい。 これもジャンクなんですね。 分かりました分かりました。
コイツは後でジャンクの山にでも放り投げておきますよ……。
はぁ~~~~~~。
【サクシャ】ってのは、大変なモンだわなぁ……。
~~~~~~
マジモンの蛇足
【サクシャ】のオレさんが作中の登場人物に成りきって出てきたのは、遺跡の正体を調べる依頼を出したキャラだけです。
一応、巨大ロボットを見付けた調査隊員にも成りきって重要な部分へのさりげない誘導とかしていますが、作中では描写されていませんので、ここでこうして言うだけ。
作者がモノを書くには、テーマだのコンセプトだのが必要ってだけの話でした。
それが思い浮かんだり、どっかからやってきたりして、○○を書いてみよう!
となる訳です。
その○○ってのが、テーマやコンセプト。
今回なら、ド王道のハードなファンタジー世界を書いてみる。 がそれにあたる。
で。 どファンタジーにロボットは外道か?
と訊かれれば、自分はNOと全力で否定します。
アニメ化もしてるロボット要素有りのどファンタジーはいくらでも見つかるし、小説や漫画作品ならプロアマ問わずで枚挙に暇が無い。
それにカルト人気が強い五つの星の物語なんかは、ロボットが無きゃ始まらない。
……まあこれは、サイエンスファンタジーって方面のどファンタジーですが。
なお余談だが、SFの略称的には種類がいくつか有る模様。
大元はサイエンスフィクション。
他にも、少し不思議とか。
とにかく略称でSFになるなら、なんでもSFである。
今回の話みたいに、超古代文明の遺産設定も有りだし、その古代の技術を模倣して造ったでも有りだし、狂気の大天才が魔法技術で発明した設定も大歓迎。
ロボットを使ったファンタジー戦記ものや、ロボット要素が入り込んだ日本の戦国時代ものって、燃えますぜ?