3 シア
――また、なんかろくでもないこと考えてるわね、あいつは。
近くのテーブルで不気味な笑い声を漏らした幼馴染のクリスを目にし、ため息を吐いた。
――まったくカッコつけてないで仕事を手伝ってほしいわよ。
シアは一人愚痴りつつも、カウンターで依頼書の整理を進めていく。
火ノ車亭は今日も順調であった。
5年ほど前にパーシルを使って行った日雇い依頼が大当たりしたのだ。
そして魔の領域の混乱が落ち着いた今、平和的な依頼が次々に舞い込んでくるようになっていた。
この波を逃しはしまいとシアは、パーシルを中心に、彼の栄誉を聞きつけやってきた新人冒険者を言葉巧みに言いくるめ、舞い込む依頼を片っ端から割り振っていった。
パーシルのフォローもあってか、依頼は順調に達成されつづけ、今や店の名前とは裏腹に火ノ車亭は大盛況の状態であった。
「それでカッシェル様は無事に―――」
「それは良かった。ところで――」
子供特有の高い声が耳に入りシアはそちらの様子を伺うと、クリスのそばのテーブルでは少年少女は談笑……というよりかは腹を探りあい、何か駆け引きを行っている。
年齢にそぐわない会話の応酬にシアははじめ違和感を感じたが、すぐに慣れた。
パーシルはきちんと言わなかったが、ヴェインはおそらく転生者だと、シアは察していた。
――あんな集団が来れば誰でもわかるわよね。さてと、仕事仕事。
今日分配する依頼を確認し、カウンターそばで待つパーシルのところにシアは向かった。
「お待たせ、それじゃあパーシルは今日はこの依頼をお願い。それとこの3件の依頼なんだけど、フィズとブンド―、ラーナーとロロイに割り振ろうと思うんだけど、どうかしら?」
「荷運びに、害獣駆除、保存食を作る手伝いか。ラーナーとフィズは害獣駆除の経験はないからどちらかを入れ替えてブンドーとペアを組ませた方がいいかも。あとは問題ないと思う」
「なるほど、それじゃそれで行きましょう。
ところであの子、ジュピテルとか言ったっけ? あんたの報告じゃ異世界転生者ってことだけど、何者?」
「報告書したとおりだよ。ムーンレイルの軍属魔術師、あの年齢で部下を持つ実力者だ」
「ふーん」
――となると、目的はヴェインのスカウトか。
シアはジュピテルの目的を察し、少し考えた。
おそらくそのことはパーシルも気が付いているだろうし、思うところがあり動くのはまず彼でないとならない。
シアもヴェインの育児には手を貸した手前、彼には多少の愛着があったがそれ以上のものはなかった。
彼女にとってはこの店を守るのが一番なのだ。
もしヴェインがここを離れる選択した場合もパーシルが納得していればとやかく言うつもりはなかった。
出発するパーシルを見送ったあと、ふと視線を感じ、シアはそちらを向いた。
ぱっちりとクリスと目が合ったが、クリスは慌てたように目をそらした。
――暇みたいだから、何か依頼でも回してあげようかしら。
大方、弟子のヴェインを取られて手持無沙汰なのだろう。
シアは依頼の束から、市場の花屋から来た運搬の手伝いの依頼書を手に取り、クリスの机に叩き付けた。
「クリス、暇なら行ってきて!」
「お、おう!?」
なぜか慌てたようにクリスは依頼書をひったくるように握りしめ、店から飛び出すように出て行った。




