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2 冒険者クリス

『ヴェインに会いに来ました。こちらのお店によくいらっしゃると聞きましたが』

『ヴェ、ヴェインに!?』


 冒険者のクリスは先ほどのやり取りを思い出してため息をついた。

 理由は単純だ。今年で6歳となる弟子のヴェインに彼女がいたのだ。


――それも飛び切りの美少女ときた。こんなんため息をつかずにいられねぇわ。

 

 クリスのテーブルから二つ離れたところで、談笑している例の金髪の美少女とヴェインを眺める。

 先ほどパーシルと共にやってきて、さっそく金髪の美少女につかまりあの様子だ。


――考えてみるとすごいよなあいつ。


 ヴェインは6歳にしては要領はいいし、礼節もわきまえているところが見受けられ、戦闘訓練においてはこちらの教えをどんどん吸収している。

 しかもヴェインは、クリスには使えない魔術が使える。

 それも半端なものではなく、魔術が得意な種族エルフも一目置くようなことをやってのけるのだ。


 見た目もクリスがであった人間の中では悪くはないといったところか。

 子供特有の愛嬌がなくなれば、普通かやや良いかぐらいの見た目で落ち着くだろう。


――俺が師匠でいいのか……。


 弟子のハイスペックぶりにクリスは打ちひしがれていた。


 戦闘技術や体力など、ついついクリスは自分がヴェインに勝てるところ探してしまう。

 ただ、自身が勝てるところを見つけては、相手がまだ6歳児いう事実にぶん殴られ、クリスはため息をついた。

 

――こういうときは依頼とかあればいいんだけどよぉ。


 もやもやした感情は戦いで発散するのが健全だと、クリスは壁に張り出されている依頼の紙を自身が占拠しているテーブルから遠目で眺めた。

 だが、張り出されている紙はどれも賭け出し冒険者向けの簡単な物ばかりだった。

 自称中堅冒険者のクリスとしては新人の仕事を奪ってしまうようで受けるのをためらってしまうものばかりだ。


 クリスは主に遠征での魔物討伐で生計を立てている武闘派の冒険者であった。

 だがそれも、パーシル達が赤い大樹を破壊し、赤い瘴気を散らしてしまったことでめっきり依頼が減ってしまっていた。


――そろそろ冒険者も潮時なのかもしれないな。


 貯蓄はしばらくあるが、こうも情勢が変わってしまうと身の身の振り方をどうすればいいのかとここ最近クリスはそればかりを考えていた。


――そうなるとシアはいつまでこの火ノ車亭をやっていくつもりなんだ?


 クリスはちらりとカウンターでパーシルと話すシアを見る。

 軟らかそうな亜麻色の髪を後ろできれいにまとめ、健康で魅力的な体つきはいつ見ても可憐だ。快活な笑顔は眩しく、時折見せてくれる優しさもよい。

 クリスから見て今日のシアは一段と輝いていた。


――二人でこの火の車亭をやっていくのもいいかもしれない。冒険者の斡旋もしていくが、徐々にレストランにシフトしていって、そしていつしか子供を……


「ふ、ふふ、ふふふ」

 

 クリスは妄想し、そして一つの答えにたどりついた。


 それはヴェインの師匠として、威厳を保つためにとの建前で隠した、ただ単に己の欲であった。


――よし、決めた。シアにプロポーズしよう。この23年間の想いにケリをつけてやる。


 片思い歴23年、シアに初恋をこじらせ続けた男、それがクリスであった。

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