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泣くほどかよ



「あった!ブルーファイヤースネークの抜け殻!」


「レイニアは意外とワイルドなんだな」


「ん?」



今さっき捕まえた薬の材料になるヤマタトカゲのまだビタンビタン動いてる尻尾と、今まさに見つけた蛇の抜け殻を左右の手にそれぞれ鷲掴みにしたからだろうか?


子供の頃から材料集めはしているからこの程度は平気なんだけど。


トカゲは尻尾をグっと掴めば勝手に切り離して尻尾を置いていってくれるから、生物系の材料の中では好きなくらいだ。



今拾った尻尾と抜け殻をマジックバッグの中に仕舞う。


成人祝いでダリアさんからもらったこのポシェット型マジックバッグは私にとって必需品だ。


ポシェット型だからあまり容量は無いけど、見た目の大きさの数十倍は容積がある。


とった材料や荷物が沢山入るし、中に入れた物の重さを感じないから出かける時は必ず持って行く私の必需品。


今こうして手元にあるのも、あの日出かけようとしていたから……


―――あの日は少し遠くまで材料集めに行こうと準備が完了した時に兵士に捕らえられた。不幸中の幸いで、出かける所だったからマジックバッグを斜め掛けにしていた。崖崩れにあった時も、キリルに助け出されたときも斜め掛けにしていたのが良かったのか、紛失せずに済んだ。



マジックバッグ自体ももちろん大切だけど、それよりも中にいつも調薬メモの束を入れてあって、私にとってはこれが1番大切なのだ。 このメモ束が無いと作れない薬も沢山ある。



ただ、あの時は材料集めに行こうとしていただけだから、現金や金目の物を何も入れていなかったのが口惜しい。コツコツ貯めたお金も村の家に置いてきてしまったし。



特殊な材料を探しつつ、必要な薬草をプチプチと採取していく。


暫くすると、ふと視界の端にレアな材料があるのが入った。



(あああ!あれは!―――っ!!!)



今回の薬作りには使わないけど、滅多にお目にかかれないレア植物。


他には目もくれずにレアな材料に向かって一直線に進む。


日中だけ開く花の下で太陽の日は当たらないのに月明かりだけが当たるジメジメした場所に生え、月明かりを浴びた時だけ輝く苔。その他にも何かの要因があるらしく、欲しいと思っても中々見つからない。


それがここにはたくさん生えている!



「ゲットォ!―――…ん?」



思わずニンマリしながら顔を上げると、数メートル先にリスがいた。


レアな苔に夢中になっていて気が付かなかったけど、シマリスの様な縞模様にぷっくりした頬にモフッとした大きな尻尾がくるんと巻いてる可愛らしいリスだ。



「わぁ可愛いぃぃぃ!おいでおいで。チッチッチッ」



私が手を差し出したら、後ろ足だけで立ち上がってつぶらな瞳でこちらを見ている。


逃げるそぶりがないので、警戒しなくても良いよーと思いを込めながら、身を低くしてそーっと手を伸ばす。


手の先がリスまで後1mというところで、急にリスの目が赤く光った。



「!?」



すぐに手を引いたけど、リスはたたたっとこちらに走って来る。


目が真っ赤なのは魔獣の証だ。



(さっきまで普通の黒い瞳だったのに、なんで!?)



1人で材料集めに行く時は小さな魔獣と遭遇してしまう事もあるから、いつもは常に片手に電撃スティックを持っている。



  ―――その名の通り、スティック状で先端から電撃が出る魔法道具。スタンガンのような物だ。


これが当たると小型の魔獣なら死に至るくらいの威力があり、中型でも急所に当てられれば死に至るし、急所を外しても一発でも当たれば数分は麻痺させる事ができる材料集めの際の必需品。



なのに今は片手にレアな苔を掴んでいて、片手はリスに手を伸ばすため電撃スティックを地面に置いていた。


この距離感とあの素早さでは電撃スティックを拾う間もなく襲われる。


リス1匹ならすぐに死に直結することはないけど、魔獣に咬まれたり引っ掻かれると、ただの動物以上の怪我をしたり、種類によっては毒を持っているから油断はできないのだ。


リスにあるまじき牙を剥き出しにして素早い動きで私に向かって跳んで来た。



「ひゃっ!」



咄嗟に手で払ったら、上手い具合にリスの腹部に手が当たってリスが弾かれる。


が、直ぐに体勢を立て直してまた跳んで来た。




と思ったら、私の目の前を大剣が掠めていき、野球のバットのように振り抜かれる。


剣の平面部分にリスが当たって、カキーーーンと弧を描いて飛んで行った。




「……ホームラン」


「ほーむらんってなんだ?つか、何遊んでんだよ?危なっかしいなほんと」


「だって、本物のリスだと思ったの。最初は目が黒かったんだよ!?」


「あぁ。サギオシロリスだからな。奴らは目の色を変えて油断させて襲ってくる。尻尾の先がくっきり白いから覚えとけ」


「そうなんだ。―――…ありがとう。助けてくれて」


「電撃スティックはちゃんと手に持っとけよ?」


「はい」



レアな材料に夢中になったのもあるけど、今日は明らかにキリルがそばにいてくれるという安心感が油断を生んだ。


今日は初めてだから来てくれたけど、これからはまた1人で材料集めをする事になるんだからしっかりしないと。




「もう材料集めは終わったのか?」


「大体ね。後はキノコが必要なんだけど、この辺では見かけないんだよね。違う場所に探しに行ってみようと思う」


「どんなキノコ?」


「傘が真っ青で傘の裏は真っ白なの。で、軸の部分は黄緑色にピンクの斑点っていう遠目でみてもすぐに見つけられるキノコだよ」


「すげぇ毒キノコみたいなキノコだな、おい」


「うん、そう。毒キノコ」


「毒かよ!」


「乾燥させると毒が程よく抜けて薬の材料として使えるんだ。鎮痛作用を出す薬の必須材料なの。木の根元に生えてるし奇抜だから見たらすぐ分かるよ」




見渡す限り例のキノコが見つからなかったので、材料集めを終えて帰る事になった。


まだ太陽も高い位置にあるし、本当はこのままポイントを変えて探したいところだ。


今までなら移動して材料集めを継続していたし、今もひとりだったら間違いなくこのまま探しに行っている。



でも、善意で付き合ってくれてる上についさっき油断してキリルに注意されたばかりで、このままポイントを変えたいとは言いにくい。


大人しく帰って採った物を干したり下準備して、いつでも取り掛かれるように調薬の準備をするか…―――と思っていると、重大な事に気が付いた。




「キリルさん」


「なんだ?」


「お願いがあるのですが…」


「改まってどうした?」


「お、お金を貸してもらえませんか?」


「いくら?」


「3万プレ程あれば足りるかと」


「何を買いたいんだ?」


「調薬に使う道具を買いたいんです」


「あぁ、なるほど」


「何から何まで迷惑かけてばかりで本当にごめんなさい……必ず返しますから、貸してくださいませんか」



出会ってからずっとお世話になりっぱなしなのに、ダイレクトにお金を借りないといけないなんて。


無一文って辛い。



村でも家庭用の鍋や皿を使ってたから特別な道具がなくても良いんだけど、色や臭いがつくから調薬専用にしないとまずいのだ。キリルの家にある道具を使うわけにはいかない。


(はぁ…情けない。面倒見のいいキリルでもこんなに迷惑ばかりかけてたら、そのうち愛想つかされそう…)


「あー、そんな気にすんな。泣くほどかよ」


「泣いてはいないけど。お金がないって何もできないんだなぁと、こんなに迷惑かけてその上お金を借りないといけない自分はなんて不甲斐ないんだ思ったら…」


「気にすんな。それ位貸してやるから。つっても涙目になる程気になるんだったら取り敢えずギルドに登録するか?低級レベルの薬草集めなら採る量によるけど、数回やれば3万プレ位稼げるぞ。自力で稼いだ方が気が楽だろ?」


「そうなの?登録したい!」


「じゃあ決まりだな。これから一回ギルド行くか?まだ時間に余裕あるし」


「いいの?行きたい!」




俄然やる気が出てきた。


宿代とか立て替えてもらってる分はあるけど、現金を直接借金する事にならなくて良かった。





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