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23歳です



翌日から街道を進み、この旅で初めて宿に泊まった。


今まで野宿で一緒に寝ていたのに、宿では一人部屋なのが不思議な感じがする。


キリルには「1人で寝れるか?大丈夫か?」と、凄く心配されたけど。何でだ。まだ魔獣の恐怖の中にいると思われているのかな。



キリルの心配をよそに、久々にベッドで眠れたせいか盛大に寝坊した。



「おい。何かあったかと心配しただろうが」


「ごめん。あまりの寝心地の良さに熟睡しちゃった」


「はぁ。まあいいけど。あれだ、今夜は同じ部屋にするぞ。レイニアが起きて来ないせいでチェックアウトの時間に間に合わなくて追加料金を払うのはもう御免だからな」


「え!そうなの!?ごめんなさい。ギルドに登録して稼いだらちゃんとお金返すから!」



私が寝坊して出発が予定よりも遅れたから怒っているのかと思ったら、延長料金支払わされただなんて。 そりゃ怒るよね。


ただでさえ無一文な私の分も出してくれているのに、申し訳なさすぎる。



「いや、まぁ…それは気にしなくて良いけどよ」


「今までは野宿だからお金かからなかったけど、これからは違うんでしょ?2人分なんて結構お金かかるじゃない。駄目だよ。ちゃんと返すから」


「…レイニアはしっかりしてるな。えらいえらい」


「ちょっと!なんで子供扱い!?」


「ん?レイニアはいくつだ?」


「23だよ。もうすぐ24になる」


「は?嘘だろ」


「どういう意味!?」



私は背が低い。155cm位しかない。日本人的には驚くようなサイズじゃないけど、この世界の人は大きめで成人女性でも165~170cm位ある。だから、155cmはこの世界では子供みたいなサイズ感なのは確かだ。


でも、成人女性として一応胸だってあるのに……。


昨日は慰めるために抱き締めてもくれたのに。


胸……気付かれなかった、のか?


切な…………。




3週間近く旅を続けていたのに、まさかずっと子供だと思われていたとは。




「薬屋で働いてたって言うし、思ったよりしっかりしてるから15~6歳くらいかと思ってた」


「いいえ。23歳です」


「すまん」


「キリルは?」


「俺は26だ」


「えっ?……へぇ~」


「なんだよ」


「ううん!何でもない!」



30代半ばくらいかと思ったら、予想より全然若かった。


モジャモジャの無精ひげのせいだろうか?その顔を覆う髭を剃ったらその下には実は若い顔があるのだろうか?


それとも余裕を感じさせる言動が実年齢より老けた印象をあたえているのだろうか。



もしかして私たち、傍から見ると親子くらいに見えている可能性もある?


あ、だから昨日宿で部屋を取るときに、宿屋の人に私の方をチラッと見ながら「ファミリールームもあるけど1人部屋を2つで良いの?」と聞かれたのかな!?てっきり恋人や夫婦に見てたのかと思っていたのに。




「…………行くか」


「……うん。行こう」



2人の間にはなんとなく微妙な空気が流れてしまった。




整備された街道を進む。


私の歩みが遅いのもあるけど、今まではずっと山の中で道なき道を進んでいたから、1日に進む距離は短めだったみたいだけど、整備された道ってやっぱり歩きやすいんだなぁ。


アスファルトの舗装道路でも石畳みでもなく、ただの砂利道だけど、それでも断然歩きやすい。




「今朝は、宿は同じ部屋でって言ったけど、やっぱり2部屋取るか」


「え?なんで?」


「だってよ、レイニアは年頃の女性だったわけだし」


「15、6歳も年頃の女性って言うと思うけど?結婚だってできる歳だし」


「そうだけど。15、6なんて子供みたいなもんだろ」


「……」


「……どうする?別にするか」


「いいよ、一緒で。ずっと野宿で一緒に寝ていたんだし。今更。壁と屋根があるだけで同じでしょ?」


「……まぁ。レイニアがそれで良いなら良いけど」


「それに、ファミリールームの方が少しだけ割安でしょ?ファミリールームにしよう」



というやり取りを夕方にして、無事にベッドが二つあるファミリールームを確保した私たちは、街の酒場へ来ていた。


キリルがお酒を飲みたいと言ったのだ。昨夜は私が子供だと思っていたから遠慮したらしい。


久しぶりにガヤガヤとうるさく賑わっている場所にきた。というよりレイニアとして生まれて初めて酒場にきた。


(前世では結構飲み行くの好きだったな。小洒落た店もいいけど、高架下の汚めな店もまた良いんだよね。懐かしいな、この感じ)



「あ~久々の酒はうまい!」


「良かったね」


「レイニアも遠慮せず飲んでいいぞ」


「この一杯で十分だよ」


「酒苦手だったか?」


「う〜ん、あんまり飲むことがなかっただけ。でも特に好きなわけでもないかな。ご飯が美味しく食べられれば私はそれでいいから。キリルは好きに飲んで」


「んじゃ遠慮なく。おやっさん!おかわり!」



キリルがご機嫌でお酒を飲んでいる。


どんどんグラスが空になって行くけど、大丈夫なんだろうか?お金も体調も。


もしも寝落ちなんてされたら、私ではキリルを背負って帰ることはできないし、くだを巻かれても困る。


「しかし、あれだな。飯はレイニアの作ったやつの方が美味いな」


「そう?ここのご飯も美味しいよ。やっぱりちゃんと調味料使えると味に広がりが生まれるよね」


「美味いけど、俺はレイニアの作る飯の方が好きだ」


「ほんと?嬉しい。ありがとう」


「おう。また作ってくれ。ちゃんと調味料使えばもっとうまいもん作れるってことだよな?」


「期待に添えられるかわからないけど、喜んで」




野宿で役立つ野草や山菜の知識があって良かった。キリルがそんなに私の料理を気に入ってくれているとは。


この旅では完全にお荷物だと思っていたけど、役に立つ事があって良かった。


喜んでもらえることがあって良かった。



その後もキリルはご機嫌にお酒を飲んでいたけど、少し陽気になるくらいで大きな変化はなかった。お酒に強いらしい。









「ここが、ティング…………!!」


「ようこそティングへお嬢さん」


「おい。恥ずかしいな。行くぞ」



国境の線があったからジャンプして入国したら、検問の兵士が笑顔でようこそと言ってくれて、思わずにっこり微笑み返した。


そうしたら、キリルに恥ずかしいと言われてしまった。


国境線が引かれていて徒歩で超えられるならジャンプで入国したくなるのは、島国日本で育った前世の記憶からか?


これは定番の行為かと思っていたけど、他の人はやらないのだろうか。



「俺の住んでいる街までは後1日かかるけど、どうする?」


「ん?」


「ティングまでは無事に来たけど、俺の住んでいる街まで行くか?この国境の街も結構栄えているから大きいギルドはあるぞ。王都の方がもっと仕事の種類も豊富だから王都が良ければ王都まで送るし」


「あ、そっか…………」




勝手にキリルの住んでいる街まで一緒に行くつもりでいたけど……―――



『行く宛がないなら、とりあえず俺と来るか?ここからちょっと遠い国だけど』



そうだ。とりあえずという話だった。旅の途中でギルドについて聞いて、ギルドに登録したらお金を稼げるって話もした。


でも同じ街まで行くなんて話も同じギルドで働くなんて話も一切していない。


私の勝手な思い込みだ。




「えっと。どうしよう、かな……」




キリルが住んでいる街まで行きたいって言うのはいくら何でも図々しすぎるかな……。


ここまでふたりで旅をしてきたのは成り行きだし。私を助けてくれたのも同情だろう。


でも、急に寂しいな。


それに知らない国でいきなりひとりは不安だし。




ダリアさんが亡くなってからひとりになって、結構孤独で…また一緒に過ごせる人ができたのが嬉しくて、心強くて。


すっかりキリルの存在が大きくなってる。


この3週間程ずっと一緒にいたから、これからもいられるつもりになってた。


離れ難い。




ここまでの旅費を稼いだら返さなきゃいけないって口実で、付いて行くって言って良いかな。


迷惑かな。流石に迷惑だよね。


キリルにはキリルを待ってる人もいるはずだし、私と違ってキリルには私だけじゃないはず。



ネガティブな思考に支配され、どんどん視線が下がって俯いてしまった。



……どうしよう。どうしたらいいんだろう。


やだな。寂しい。私また1人になるのか。





「なぁ……レイニアがよければ、俺の住んでいる街まで一緒に行かないか?そんなに大きな街じゃないから仕事の種類は王都ほど多くないけど。俺の街に来るならギルドも紹介してやれるし、街も案内できるから」


「……いいの?」


「なんだよ、いいの?って。別にいいよ」


「行きたい!……ありがとう。本当にありがとう」


「あぁ……じゃあ行くぞ。メイリスって名前の街だ。これから住むことになるんだから覚えろよ」


「うん。メイリスね」


「ほら、行くぞ」






―――キリルと一緒に旅を始めた頃は後ろや周囲を気にして私を捕らえた兵士が追ってきていないか警戒していたのに、いつの間にか新しい生活の事で頭がいっぱいになっていた。





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