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秘薬


「ローブさん。ところでこの薬って誰が使ってるんですか?」


「あなたが知る必要はありません」


「王様?」


「 あなたが知る必要はありません」


王様なんだ。やっぱりそうか。つむじ辺りが多少薄めだったもんね。



最初に現れて以降、王様は見かけていないけど、必要としているのは王様だよね。そうじゃなきゃ執拗に捜索しないし、監禁してまでたった2つの薬だけを作らせるなんて効率が悪すぎる。


この国が何処にあるのか知らないけど、確認のためにレギーナさんが買いに来れたくらいなんだし、必要ならレギーナさんか誰かが買いに来れば良いだけなのに。


私を監禁までするって事は、もしかしてこれが兵士の言ってた『秘薬』なのか?


毛生え薬で一儲けしようっていうなら分かるけど、毛生え薬は最初に数粒作ったらあとはもうひとつの薬ばかり作らされているし。まぁ、一度フサフサになったら毛生え薬は暫く要らないけど。


てことは、そんなにもうひとつ方の薬が必要なのか?あの王様……。やっぱり男としてはあの薬の使用は他の人にはあまり知られたくないことなのかな。


一国の王が毛生え薬やあっちの薬を使ってるって知られたらやっぱり威厳がなくなるのかな。だから『秘薬』?


こんな事のために捕らえられたなんて…………。




1人分のひとつの薬しか作らないので、かなり暇だ。監禁されているから、他にやることが無くて暇すぎる。


「ローブさん、今日顔色悪くありません?」


「………」


「ローブさん、もしかして風邪ひいてます?」


「………」


「風邪薬作りましょうか?必要なら解熱剤も作れますよ」


「………」


「これは私のひとりごとですよ。今から材料言うので、それを持ってきて貰えます?まずは、―――」



ローブさんはずっと黙っていたけど、私が必要な材料を言い終わると部屋を出て行き、暫くしてから材料を手に戻ってきた。すぐ持ってきたって事は自覚症状あるんかい。素直じゃないなぁ。


ゴリゴリと摺鉢で材料を粉々にして、少量の水で練る。風邪薬は需要があるので、私がメモを見なくても完璧に作れる薬のうちのひとつだ。



「できました。はい、これ風邪薬です。一回1粒で朝昼晩と3回飲んでください。タイミングに決まりはないですけど、飲み忘れないように食後に飲むのをお勧めしています」


「―――…ありがとうございます」


「いいえ〜。よかったらもっと薬作りますよ?何か困っていることありませんか?暇すぎるし、日常的に使う薬なら作れますよ」


「それは不要です。……これも内密にお願いしますよ」


「分かってます」



じゃあ他の薬もよろしくとはならないか。私の言う材料を素直に持ってきたから、違う薬を作る可能性は疑っていないみたいだし、これをきっかけにローブさんを懐柔して、逃げる手伝いをしてくれないかなぁなんて一瞬妄想してみたけど、やっぱりだめか。


ここに来た当初からいるしローブさんって王の右腕とか側近とかそんな感じだったもんな。


それにしても、本当に暇すぎる。


毒を作らないようになのか、薬に毒を混ぜさせないためなのか、その日必要な材料だけ持って来て、あの薬を作る事を指示される。それ以外の時間はご飯を食べるか寝るかボーっとするしかない。



前にレギーナさんが「暇でしょう?」と一冊だけ本をくれたけど、これがまた陳腐な推理サスペンス小説で、最初から犯人がバレバレで面白くなかった。キャストを見たらこの人が犯人だと分かる配役のサスペンスドラマみたいに。


空気の入れ替えのために5センチ位だけ開く窓を開けて部屋で静かにしていると、窓の下で警備をしている兵士の話し声が聞こえてくる。


最初の頃は何かヒントになる情報を言わないかと聞き耳を立てていたけど、それもすぐにやめた。


だって、基本的にくっだらない下世話な話しかしないんだもん。大体は女の人の話。誰が豊満な体をしているとか、どこの店は少し無理をしても怒られないとか、どこそこの未亡人がすぐ誘いに乗るだとか、そんなのばっかり。


声が大きいから聞き耳を立てなくても聞こえてくるし。


一度だけ『ダルティーア国には露出の多い服を着て給仕してくれる店があるらしいぞ』と、どこかの国名を言う会話を聞いた。文脈からこの国の名前ではないし、どこかで聞いた気がする国名だと思ったけど、私の知識の中にはない国名だから何のヒントにもならなかった。


この国の事でひとつだけ分かったのは、どうやらこの国には後宮があってお妃様がたくさんいるらしいということ。一夫多妻の国らしい。


私が元々いた国もティングも王は何人かお妃様を持てたはずだけど、たくさんのお妃様がいる国ではなかった。


誰かが「ハーレムな陛下が羨ましい」と言っているのが聞こえてきたことがあるけど、そうだろうか?


後宮にどれくらいの女性がいるのか知らないけど、毎日あの薬を作らされているということは、あの薬に頼らないと役目を果たせないと言うことだよね。それって辛くない?


だからといってこの国の王様の味方をする気になんてなれないけど。


人をいきなり知らない場所に監禁するような王様なんて許せるはずがない。好んで飲んでいる可能性も考えられるし。



(キリルどうしてるかな。季節的にもう半年くらい経ってそうだけど、まだ探してくれてるかな……)


初めの頃に罰として割れるような頭痛に襲われたけど、何度か経験して暫く大人しく従う事にしてからは、肉体的に酷いことをされないのが唯一の救いだろう。


でも、暴力は受けなくてもやっぱり閉じ込められているのは精神的に参ってくる。



「はぁ。キリルに会いたい…―――」


「キリルさんならきっともうすぐ来てくれるよ」


「っ!?」


「久しぶり。レイニアさん」


「ああああっああべる!?」



キリルに会いたくて泣きそうになっていたら、いきなり耳元で声が聞こえて心臓が止まるかと思った。振り返るとアベルがいた。



「なな何してるのよ。こんなところで。よく私に顔を見せられたね!?」


「ごめん。僕にも事情があって。だから、お詫びと言ってはなんだけど、もうすぐキリルさんがきっと来てくれるって言いに来たんだよ」


「キリルが?来てくれるの!?」


「ティングの第3王子と軍を率いてこっちに向かってるよ。メイリスのギルドメンバーも結構参加してこっちに来てるよ。レイニアさんってギルドメンバーから結構愛されてたんだね」


「軍を!?みんなも!?」


ここから出られる……!?



でも、待って。本当に大丈夫なのかな。この国がどんなところか知らないけど、結構軍事力は高そうな感じがするんだけど。


「ねぇ。ここってなんていう国?キリルは私を助けに来て本当に大丈夫かな?怪我したりしないかな?返り討ちにあったり……」


「どうかな?キリルさんの本当の実力は僕は知らないからなぁ。でも、キリルさんがいないと始まらないよ」


(助けに来て欲しいってずっと思っていたけど、来てくれるって分かったら分かったで急に不安になって来た。もしもキリルが怪我をしたり、負けることがあったら……。どうしよう…………)



「……聞いてる?」


「え?」



助けに来てくれるのは嬉しいけど、心配だ。私がキリルを巻き込んでしまったんだ。


もしも、キリルが怪我をしたらどうしよう。

怪我ならまだしも……!

もしもそんな事になるくらいなら、一生会えなくてもいいから、無事でいて欲しい。



「キリルさんが来てくれないと誰がレイニアさんを助けるのさ?多分もうほんとすぐそこまで来てるよ。レイニアさんが捕らわれているのがこの国だって教えてきたから」


「アベルが教えたの?どうして?あなたはこの国の人じゃないの?」


「そうだけど事情があるんだよ。まぁ、これもお詫びみたいなものかな。あっ、見つかっちゃったかも。じゃあね」


アベルが姿を消してすぐ、レギーナさんとローブさんが来た。


「今誰かいたわよね?」


「えっと」


アベルがいたと言って良いのだろうか?


見つかっちゃったと言ってたって事は、内緒で来たんだよね。多分、私にもうすぐキリルが迎えに来てくれるって教えるために。


アベルはこの国のスパイじゃないの?事情があるって言ってたから、忠誠心が高いわけじゃない?



「魔女様?今誰がいたのか聞いているのだけれど?」


「あ、すみません。知らない人だったので……誰だったんだろうと考えていました」


「そう…―――嘘をついても良い事はないわよ?侵入者は何か言っていた?」


「いえ。特には……」



レギーナさんから訝しむ視線を向けられたので、じっと目を逸らさないようにした。


ここでもしもアベルがいたとばれたら、何をしに来たのか吐かされることになる。アベルのことなんてどうでも良いけど、キリルやティングの軍が来ている事がバレて、対抗策をうたれたら厄介だ。


「まぁいいわ。魔女様には移動してもらうわ。あなたを助けるためにどうやら軍が来ているらしいのよ」


「え、もう?」


本当にそんなにすぐそこまで来ているんだ。


「もうって事はやっぱり知っていたのね?フフッ。侵入者は魔女様の仲間かしら?」


「い、いえ、違います……」


レギーナさんが妖しげに笑って、ローブさんが私に近づいてくる。


「な、なに?」


「…………」


ゆっくり近づいてくるから、私も一歩ずつ後ずさるけど、すぐに壁に追い詰められてしまった。


身を屈めたと思ったら、ゆっくりと首に手が伸びてくる。


「やめて!何するの!?」


伸びてきた手が首輪に触れた感覚があり、するとすぐにピピと音がした。


「制御のデータを少し変えただけです」


驚かさないでよと思って少し気を抜いた瞬間、するりと両腕を取られ、気付いた時には手枷が嵌められていた。


「書き換えたと言っても、その首輪の機能は失われていないから逃げようなんて思わないことね。ちなみにその手枷も無理やり外そうとすると爆発して肘から先が吹き飛ぶから気をつけて頂戴ね。フフッ」


どっちにしても逃げようとしたら爆発するということか。


キリルが無事に助けに来てくれても、これがあったら逃げることもできないって事だよね。


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