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宣戦布告

切りが悪くちょっと長いです。


目の前でレイニアが消えた直後、キリルは第3王子の元へ向かった。


「お待ち下さい!キリル殿!この先は王族居住区です!これ以上は侵入になります!今すぐに攻撃しますよ!?」


レイニアが転移空間へ足を踏み入れる直前に違和感に気付いたキリルは、咄嗟に止めようと叫んだ。


その叫び声を聞いた兵達が駆けつけ、第3王子へ連絡するから待って欲しいと言うのを無視して進んだ。


周囲の制止を振り切り、攻撃予告を無視し進む。部屋から出て最初に出会ったメイドが怒り狂うキリルに怯えて場所を漏らした王族居住区へと。怒りのあまりキリルの身体からは、魔力の溢れによる電気が発せられていたのだ。



今のキリルにとって城の兵士の制止や攻撃など全く効かなかった。


キリルが警告を無視し王族居住区に足を踏み入れたため、『敵襲!』と各所に連絡が行き次々と近衛兵や魔導士が集まってくる。


次々に攻撃をするが、魔導士の放つ魔法は無効化されたり弾き返され、近衛兵の剣はいなされてしまう。それどころかキリルが放った結界術によって集まってきた兵や魔術師が結界の中に閉じ込められてしまう始末。城を守る者たちの立つ瀬がないほどいとも簡単に。


そして、騒ぎを聞きつけて部屋から出てきた第3王子と対面する。



「お前!レイニアをどこにやった!?」


「どうしたのですか急に。魔女殿とは同じ部屋でお休みだったのでは?こんな所まで入る許可はいくら、」


「レイニアをどこにやったって聞いてんだよ!風呂のドアとどこかの空間を繋いだだろ!?風呂のドアからどこかに飛ばされたぞ!お前らがレイニアを転移させたのか、それとも城の守りに穴があったのかどっちだよ!?」


「魔女殿が風呂のドアから転移!?まさか……!?」


「俺の目の前で飛ばされたんだよ!!」


「そ、そんな…………」



第3王子がことの重大さに言葉を失うとキリルの怒声が響いていた廊下に静寂がおとずれた。


結界に閉じ込められていた者達も大変なことが起きたと知って言葉を失っていた。


ギリと音が聞こえるほどに食いしばったキリルが第3王子を睨みつける。



「我々は何もしていません!それは誓って言える!この度の恩人である魔女殿にそんな事をするはずがない!」


「じゃあどうしてこんなことになってるんだ!?」


「城の結界を調べさせます。少し!今暫く時間をください!」



そして早急に調査が行われた。


2人が使っていた部屋や城の結界から魔力の残滓は確認できたものの、そこから行方を辿るまでには至らず、手詰まりの状況だった。



城の中にいた客人がどこの誰とも分からぬ者によって別の場所へ飛ばされたのだ。城の守りに穴があったとしか言いようがない。


城の中に泊めていた客人が、どの部屋に滞在しているのか筒抜けな上に、城を守る結界に脆弱な部分があると証明してしまった事になる。


それは王族がいとも簡単に人質に取られる可能性がある事さえ示唆している。レイニア誘拐事件以上の由々しき事態だった。





「キリル……大丈夫?寝てないんじゃない?ご飯も食べないと、あのこが帰ってきたら心配するわよ?」


「それでレイが帰ってくるならいくらでも食べて寝るけどそうじゃねぇだろ?放って置いてくれ。また暫く出てくる」


「あっ、キリル……」



暫く王都に滞在していたキリルがメイリスへと戻ってきた時には既に少しやつれていた。


第3王子の調査班が何も成果を出せないことに焦れたキリルはレイニアが消えてから直ぐに自ら探しに出ていた。時折メイリスへや王都に戻り新しい情報がないか確認し、またどこかへと探しに行く日々。




「待って!キリル!今日は僕たちも行くよ」


「……何でだよ。レイニアは俺の嫁だがお前らは他人だろ」


「そんな寂しいこと言うなよ。仲間だからだろ?言わないけど、ギルドの皆も任務先でレイニアちゃんがいないか気にして探してくれてるんだぞ」


「私達だって心配なのよ。手分けして探した方が早く見つかるかもしれないじゃない。ね?今日は私達も行くわよ」


「―――……すまん」



この日もキリルが王都へと向かおうとすると、ジーニアス達が声をかけたのだ。そして、ずっと1人で行動していたキリルが初めて仲間と行動を共にした。



王都に着くと、キリルと共にジーニアス達も城へと向かった。


第3王子は今も各地で起こるキルブラッドウォーターを故意に発生させている犯人探しとレイニア誘拐事件のふたつを調査する隊をそれぞれ纏めている。そのため、ジーニアス達がレイニア捜索に加わることを伝えに来たのだ。



「わぁ。僕お城の中に入るのは初めて!緊張してきた」


「中まで入るのは俺も初めてだが」


「私も初めてよ。でも、今はそんな事言ってる場合じゃないでしょう?」


「……」



キリルが無言でティモを見るので、ティモはすぐに素直に謝った。決して観光気分になっているわけではない。彼なりに重い雰囲気を少し軽くしたかっただけだ。



「ごめん、はしゃいでるわけではないから……」



ティモの気遣いは虚しく、ただキリルから一瞥されることになった。




「……あれ??」


「どうしたの、ティモ。まだ何か?これ以上言ったら本当にキリルに怒られるわよ」


「違うよ!今、あっちの下にある廊下にアベルがいた気がしたんだ」


「見間違いじゃないのか?こんな所にいるわけないだろ。薄茶の髪の男なんてこの国にはよくいるし。瞳は緑だったか?」


「そうだよね。一瞬だからそう見えたのかも。瞳の色までは見えなかったし……実家が大変な事になってるって帰っちゃったもんね」


「だろ。他人の空似だ――――――おい、ティモ。置いてかれるぞ」



やっぱり気になってアベル似の男が消えた方向を見ていると、キリル達と逸れそうになってティモは慌てて追いかけた。





重厚なドアが開かれると、テーブルの大きさを無視してテーブルの端で顔を寄せ合っている人達がいた。輪の中心にいるのはこの国の第3王子である。


ティモとマルティナはティング国出身者として、第3王子がいることに気付いて緊張していた。


ジーニアスは他国出身のため、ティング国王族に対してはそれ程畏れを抱かないようだった。


もちろんキリルも今更であるし、初めは仕方ないにしても、第3王子だと分かってからも敬うような態度はとっていなかった。



「何だ?どうかしたのか?」


「あ、キリル殿。これは失礼しました。そちらの方々は?」


「メイリスのギルドメンバーだ。レイニア捜索に加わってくれることになったから面を通すために連れてきた」


「そうでしたか。それは頼もしいですね」


「で?どうしたんだ?」


「実は先日、投書箱の中にタレコミが投書されていまして。タレコミの場所に行くと、今まさに王都の端にある泉に魔獣の血を垂らそうとしている者を発見して捕まえました。その者は垂らそうとしていた血を口み含み、程なく死にましたが、一昨日潜伏先が割れたので行ってみるとこれが見つかったのです」


第3王子が視線で示したテーブルの上には精密な刺繍が施されたスカーフが2枚置いてあった。


「っ!?」


「因みにその時の投書はこちらです」


第3王子が差し出した投書用紙を奪って読んだキリルは、「チッ」と舌打ちし、投書用紙をぐしゃりと握りつぶした。



漸く場の雰囲気に少し慣れたティモがひょいとテーブルの上を覗いた。


そして―――



「あれ?これってアベルが持ってたスカーフ?」


「なん、だって…!?本当か!?ティモ!」


「ど、どうしたのキリル」


「本当かと聞いてんだ!」


「う、うん。一回家に遊びに行った時に隠すように置いてあって。恋人からの贈り物かと揶揄ったことがあるんだ。だから、多分……その時にしか見たことないけど、同じだと思う」


「それは、薄茶の癖毛の髪に緑の瞳の青年ですか?」


突如第3王子から直接問われ、ティモが背筋を伸ばして緊張しながら答えた。


「あ!はいっ!そうです!」


「そうですか……では、その者がタレコミしたのは間違いないですね」


「なぜそう言い切れる?この投書には次にキルブラッドウォーターが発生する場所についてしか書かれてないぞ。投書した者に繋がる事は書いていない」


「魔女殿の誘拐に関与している国について、今しがた無名のタレコミがありました。その投書にはこのスカーフが巻かれていた……無記名式とはいえ、投書箱は城の入り口で人目の多いところにあります。そのタレコミをしにきた男性が兵士に目撃されているのですがキルブラッドウォーターに関するタレコミがあった日にも目撃されています」


「やっぱりか…………さっきティモも見たって言ってたな。あいつが結界を操作したのか?クソッ!絶対に許さねぇ」


「えっえっ?何?どういうこと!?」


ティモは自分の何気ない一言から急に皆の雰囲気が変わった理由が理解できずに戸惑った。


「やっぱり、とは?」


「レイニアがこの国に来た事情は話しただろ。レイニアを助けた場所はその国の近くだったんだ。兵士の軍服に見覚えがなかったから違う国かと思ってたんだが―――でも最初から狙われてたってことだ」


「なるほど。かの国の王は洒落者としても有名で定期的に軍服や制服の意匠を変えるのですよ。他国からするとどこの国の者か分かりにくくて迷惑な話ですがね。ですからキリル殿は見覚えがなくても致し方無いでしょう」


ティモが答えをくれる人を求めてキョロキョロ見渡すが、ジーニアスもマルティナも深刻そうな雰囲気に口を閉ざしていた。


「スカーフのこの柄は、アブドゥヴァ国の国章を模したものです。軍服や制服の意匠はよく変える国ですが、この国章は建国時から変わっていません」


「は、はぁ…………」


キョロキョロしていたティモと第3王子の目が合い、第3王子が説明をしてくれる。第3王子が直接答えてくれた事に恐縮しつつも、ティモはまだ意味が分かっていなかった。



「っ!キリル殿!!お待ち下さい!」


「レイニアの居場所が分かったんだ!待ってられるか!」


「いくら貴方様と言えどあの国に1人で乗り込んで魔女殿を奪還できるとは思えない!あの王は狂王。それでも周辺国が手を出さないのは軍事力の強さがある。それは貴方様もご存じでは!?しかし!これは彼の国が我が国に宣戦布告したのも同然!すぐに出兵の準備を整えますから、我々と共に戦いましょう!魔女殿を確実に助け出しましょう!!」


今にも部屋を飛び出して行きそうだったキリルは第3王子の言葉に足を止めた。床を睨みつけ、爪が食い込み節が白くなるほど手を握り込む。


「……明日の朝までは待つ。それよりも遅くなるなら1人でも行く」


「明日朝までに万端整えましょう。 ―――陛下との面会を急げ」


「はっ」



侍従がバタバタと各所に走り出していく様子をジーニアス達はただ見守った。


ジーニアスは険しい顔をし、マルティナは少し顔色が悪い。ティモだけが相変わらず訳がわからないといった様子で忙しなく動き回る人たちを目で追っていた。


「ね、ねぇ。何が起こったの?僕全然分かんないんだけど」


「恐らく…最近この国で頻発しているキルブラッドウォーターを引き起こしていた国とレイニアちゃんを誘拐した国が同じで、それがアブドゥヴァって国だって判明したんだ。アベルはその国のスパイか実行犯か………」


「そ、そんなっアベルが!?嘘だよ!」


「さっきアベルがいた気がするって自分で言っただろ?この城の中に関係者でもないアベルがいると思うか?いたとしたら、なんてタイミングが良いんだろうな」


「そんな……」


「でも、タレコミをしたのがアベルってことは、スパイだったけど寝返ったって可能性もあるんじゃないかしら?」


「そ、そうだよね!?マルティナ!だってアベルはいい奴だもん!そんな、」


「どうだかな。仲間のふりをして俺らを裏切った…いや、奴からすれば任務をやり遂げただけか。それとも国を裏切ったのか―――それは今のところ分からない。どちらにしてもこれから俺らはレイニアちゃん奪還のために戦うんだ。気持ちを切り替えろ」


「そうね」


「そんな…………」


「マルティナはメイリスに戻ってこのことをギルドの皆に伝えてくれ。ティモはキリルに付いて俺と明日の朝発つぞ。アベルのことを信じたいなら自分の目で確かめるんだな」


「分かったわ。私は急いで戻って皆に伝える。絶対に小娘を無事に取り返してきてちょうだい」



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