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再び発生


「こんにちは」


「あ、こんにちは。いらっしゃいませ」


「あのお薬、できましたか?」


「はい。できています。こちらです」


「これが」


「はい。こちらの薬は1回の効果は長くても数時間です。その、使用者のやる気次第というところもあるようですが……で、これ位のスプーン1杯分が1回の量で、この瓶で大体20回分はあるかと」


「おいくらですか?」


「すべてお買い上げでよろしいですか?」


「はい。全て買います」


「分かりました。では100プレ頂戴します。ちなみに、1回の使用量の上限は守ってください。強い効果を期待して多く飲んでしまうと興奮状態が続いて危険ですので。逆に効果がありすぎる場合に量を減らすのは構いません」


「わかりました。本当にありがとうございます!これで、またきっと夫婦円満に戻れますわ」



うふふと妖艶に微笑んで、裕福そうなご婦人は大切そうに薬を抱いて帰って行った。


薬の中身を知っている私としては、そんな堂々と胸に抱いて帰るようなものではないのに……と複雑な気持ちで見送った。




その日の午後、王城から来たという使者がギルドを訪ねて来た。



「こちらに魔女がいると聞いて来た。魔女殿に用がある」


「はい。私ですが」


「貴女が?」


「はい」


たまたま一般のお客様から頼まれていた薬を渡して見送った直後に、ギルド関係でも一般の人でもなさそうな雰囲気の人が入ってきたから声掛け対応すると、使者は訝しげに私を見た。じろじろと不躾にこちらを観察してくる。



「他に魔女殿はおられるか?」


「このギルドには私だけですが」



今度は目を細めて私の事を見始めた。

失礼な態度だ。そんな疑うなら帰ってくれないかな。


しかし、「では、魔女殿に話があります。できれば個室で話がしたい」と言われてしまった。



「個室ですか……」


「一刻を争う状況です。早くしてくれませんか」


「分かりました」



数日前にキリルが言っていた言葉が思い出される。


少々居丈高な態度にはイラッとするけど、私にお城から使者が来ることの意味を考えると、失礼な奴は帰れとは言えなかった。



「単刀直入に伺います。キルブラッドウォーターを治す薬が作れるというのは本当ですか?」


「はい」


「何故、貴女がそんな薬を知っているのですか?」


「何故と言われましても。師匠から一通り教わった薬の中にあったので」


「貴女の師匠は何故そんな薬を知っていたのですか?」


「さあ?そんなこと私に聞かれても知りませんけど。師匠の師匠が知っていたんじゃないんですか?薬の作り方って受け継がれるものなんですよね」


「貴女の師匠は今どちらに?」


「もう亡くなっています」


「そうですか……」



少々居丈高な使者に、どうして私がそんな態度を取られなければいけないのかと、イライラして私も少し喧嘩腰の話し方になってしまった。



「―――1カ月ほど前に王都近くの村でキルブラッドウォーターが発生したのはご存知でしょうか?」


「あー、なんか数日前に食堂で旅人が噂しているのを聞きましたけど、それの事ですか?」


「住民150人程度のごく小さな村ですが、新しく出来た食堂で出していた魚が、その村に伝わる水神様の御使いとされていて、呪いだ祟りだと言っていたそうです。

ですが、呪いでももちろん祟りなどでもなく魚を獲った沼がキルブラッドウォーターになっていたのです」


「やっぱり、そうですか」


「そして、魚を介して感染。その食堂を利用した100人近い村人は全て亡くなりました。他に飲食店が少なく、新しい店で大盛況だったのが災いしました。さらに少し閉鎖的な村だったのも災いし、村人は呪いだと思い込んでいたようで、我々の元に報告が来た時には患者は亡くなっていました」


「……それは、痛ましいですね」



本当に痛ましい…―――


でもあの日、旅人が噂話をしていた事を考えると、日数的にもう亡くなっていても不思議ではない。


むしろ、薬も飲まずに生きている方が奇跡であり、定説を覆す発見になる。



「魔女殿には来ていただきたい場所があります」


「何故ですか?」


「キルブラッドウォーターに効く薬など聞いた事がない。恐らくどこを探しても貴女以外には作ることのできない薬でしょう。あなたには兄弟子はいましたか?」


「え……私だけなんですか?」


「えぇ、私の知るところでは貴女だけです。兄弟子はいましたか?」


「私と同時期にはいませんでしたけど、私が師事する前のことは聞いたことがないのでわかりません」


「ではやはり貴女には来ていただかなければなりません」


「だから、それは何故?もう村では手遅れだったって仰いましたよね」


「国内でキルブラッドウォーターが再び発生しました」


「えっ……」



そんな短期間にまた?


キルブラッドウォーターは通常人のいる場所に近づくことのないある魔獣の血が水の中に混ざるとできる。


自然界では手負のその魔獣が水場に来て、傷口から血が滴ってしまうことで発生すると言われている。


でも、その魔獣は警戒心が強く生息場所は山の奥深く。人のいる場所には近付かないし、その魔獣自体大型だから人里に近付けば絶対に分かる。


それなのに、人の生活圏でキルブラッドウォーターがこんなに頻繁に発生しているという意味は、故意に行っている人がいるという事。


一体、誰が何のために……。



それに、効く薬を作れるのが私しかいないってどういう事?ダリアさんからは他の薬を教えてもらう時と同じように普通に教えられたから、魔女の薬を作れる人ならみんな作れる薬だと思っていた。


この使者の態度を見ると素直に付いて行こうという気にならないけど、苦しんでいる人がいるなら助けたい。私しか作れないと言うなら尚更。



その時、個室のドアが勢いよく開いた。



「何ですか、貴方は?」


「あ。あの、私の夫です」


「結婚してらしたのですか」


「だったらなんだ?レイニアに何の用だ?誰だよ、お前」


「ちょ、キリル。どうしたの?いきなり」


「別に」



別にって……なんで苛立ってるんだろう?もしかして、私が男の人と個室でふたりきりになったから?



「キリルさん……と仰るのですか。

―――御夫君というなら丁度いい。とある場所でキルブラッドウォーターが発生したため、魔女殿に来ていただけるようにお願いしていたところです」


「あ?それって、あれか。王都近くの小さい村の祟りとか旅人が言ってたやつか?」


「その村での患者は全て亡くなりました。別の場所で今朝発生が確認されたのです」


「は?キルブラッドウォーターがまた別の場所で?どういうことだ……やっぱり作為的にやってるやつがいるって事か?だからって、なんでレイニアを連れて行く。レイニアは関係ないぞ。それに王都にも魔女はいっぱいいるだろうが」


「キルブラッドウォーターに効く薬が作れるのはこちらの魔女殿だけのようです」


「……そうなのか?」


「よく分からないけど、そうみたい」


「ですから、こちらの魔女殿に来ていただかなければ困るのです」


こちらを見たキリルが「行くのか?」と聞いてきた。効く薬が作れるのは自分しかいないと言われたら、行くしかないだろう。


「うん……私しかいないなら行かなきゃ」


「分かった。俺も行く」


「え、キリルも?」


「こいつを信用したわけじゃないからな。俺も一緒に行ったって良いだろ?」


「魔女殿に来ていただけるのであれば、構いませんよ」



こうしてキリルと一緒にキルブラッドウォーターが再び発生したという場所に向かう事になった。


ロラさんに事情を話してギルドを一旦離れることを了承してもらった。


「症状が出て48時間が勝負なので、多分3〜4日は留守にします。いつもの薬は2週間分はストックがあるので足りるはずです」


「分かったわ。こっちは大丈夫よ。レイニアちゃんはあまり無理しないようにねぇ。キリルがついているなら大丈夫だと思うけど、気をつけていってらっしゃい」


「はい。ありがとうございます」



薬に使う材料を、今あるだけ全てマジックバッグに詰める。私のマジックバッグは容量が小さいので、ギルドに置いてあった着替えも入れるとあっという間にいっぱいになってしまった。



私が準備している間に、ロラさんは使者と話をしていた。私はギルド職員として働いているので、職員を貸し出すのだから私への報酬とは別にその間の補償金を出せという話らしい。ギルドの女将はしっかりしてる。



そしてギルドを出て驚いた。ギルドの前に立派な馬車が1台とその周りに6頭の馬と濃紺の軍服を着た兵士がいたのだ。


この光景を見た後に、私が使者とふたりで個室で話していると聞いたら、そりゃあキリルが突入してくるのも無理はないかも。


なんてったって、お父さんみたいに心配性だから。




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