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ほんとに私は魔女だった



「いらっしゃい!レイニアちゃん。キリルもおかえりなさぁい。随分早かったわね」


「こんにちは」


「レイニアちゃんが来たってことは、薬ができたのね?」


「はい」


「じゃあ確認させてもらうわねぇ!けど、先にキリルの方から処理しちゃいましょうか」


「あぁ。コレだ」



キリルのマジックバックである布袋から何かが取り出されて、目の前のカウンターの上にガゴンッと硬質な物が置かれる音がした。


カウンターからはみ出すサイズの氷塊の中に人の脚ほどもあるオオトカゲのしっぽのような大きな物が閉じ込められている。


キリルの作り出した氷塊だから、クリスタルの中に巨大な尻尾があるように見える。中身はさておきその透明度は見事。


中身の方も、尻尾を付け根からスパンと切ったように、切り口が綺麗だ。骨と肉と皮とのつき方を断面から学ぶための見本みたい。



(な、なにこれ……)



「わぁ!凄いわね!依頼通り!デストロイリザードのしっぽ!こんな短期間でよく狩れたわねぇ。流石だわぁ」



(デ、デストロイ!?これって魔獣なんだよね?尻尾だけでこの大きさって、凄そう……)



「氷漬けで鮮度もバツグン!これなら依頼者も納得の品ねぇ!ちょっと待ってね〜…―――はい、報酬の300万プレ」


「え!?300!?す、すごい」


「そうなのよ。キリルってば、ちょっと本気出せば凄いのよぉ。普段のキリルしか知らないと信じられないと思うけど」


「失礼だな、おい」


「本当の事じゃない。いつも手抜きで楽な仕事ばかりしてぇ。これからもこれくらい自分のランクに見合った仕事をしてしっかり働いて欲しいわぁ。それにしてもここまで状態が良いと依頼者から報酬上乗せがあるかもしれないわね。その時は後から追加で払うわ。―――はい!じゃあ次はレイニアちゃんの薬を見せてちょうだい」


「あ、はい」



ポシェットの中から今回指定された3種類の薬を取り出す。


今までは筋肉痛の人に出していた薬と、栄養剤として出していた薬。後は傷薬。これらを各5個ずつ作った。



お姉さんが、ひとつずつ蓋を開けてにおいを嗅いだり、一口舐めたり、指先に付けて確かめている。


自分が作った薬をこんな風に確かめられるのは初めてだったから、妙に緊張する。



「うん。間違いないわね。これは魔女の薬。魔法薬よ。しかも良質だわ!」



ほっとしたけど、複雑な気分。


ほんとに私は魔女だったんだ。全然知らなかった。


確認してもらってそうだと言われても、やっぱりまだ少し魔女と言われるのは抵抗がある。


でも、魔女として頑張って働いていこう。そうじゃないと……―――



「それで、ギルドの専属になってもらえるってことで良いのかしら?」


「はい。よろしくお願いします」


「こちらこそ!報酬については、薬の効果を確かめた上で決めたいのだけど良いかしら?効き目が強ければ高報酬になるし」


「はい。最低限生活できる額以上を約束してもらえるなら」


「効果の程度によるけれど、一定レベルをクリアすれば魔女の薬に違いないから必ず最低限の報酬は保証するわ。休みの日以外はギルドで薬を作ってもらえると嬉しいのだけど、家で作って納品してもらう方法もとれるわよ。ギルドに通うならギルド職員枠になるから月収プラス出来高制ってところねぇ。納品なら買い取る形で納品数あたりで報酬をお支払いするわ。家は、キリルの家にいるんだったかしら?」


「はい。あ、そうだ。ギルドの近くで空き部屋を探したいんですけど、部屋探しってどうしたら良いのでしょうか?」


「へ?キリルの家を出るの?」


キョトンとしたお姉さんが、様子を伺うようにチラリとキリルを見た。


「おい。レイニア、うちを出るってまだ言ってるのかよ」


お姉さんの視線を合図にしたように、それまで黙って横にいたキリルが口を挟んできた。



私だってずっとキリルの家にいれるものならいたいけど、そういうわけにはいかない。



「だから、自立しないとだめなんだって言ったじゃない。キリルに甘えてばかりじゃいられないよ」


「だから別にいいって言っただろうが」


「でも、ほら、仕事が決まったし。お金稼げるようになったら部屋も借りれるようになるし、そしたら自立できるし…」


「金の事を気にしてるんだったら、さっき見ただろ?3日で300万プレ。俺の金を心配してるんだったら、何も心配いらない。これでもまだ心配だって言うならもっと稼いできてやるよ」


「え?いや、そういう事じゃないんだけど……」


「じゃあなんなんだよ、この前から。なんでそんなに出ていきたいんだ!?全然納得できねぇんだけど!」



珍しくキリルが大きな声を出した。


口は悪いけど、大きな声を出す人ではないのに。


そこまでキリルに私はダメだと思われているのかと思ったら少し悲しくなってきた。と同時にどうしてそこまで怒られないといけないのかという感情も湧き上がる。


今まではひとりで材料集めに行っていたから問題ないはず。この歳まで無事なのがその証拠だ。なのにあまりにも認めてもらえないのは納得がいかない。



「私だって、なんでキリルがそんなに怒るのか分からないよ!私はキリルの迷惑になるのが嫌なの!負担になりたくないの!私にはいつまでもお世話になる権利なんてないんだし。だから早く自立なきゃって思ってるんじゃない!それの何が悪いの!?」


「だから誰が迷惑っつったよ!?権利ってなんだよ?俺が良いって言ってんだろ!?勝手に決めつけてんじゃねぇよ!!」


「なっ、決めつけてなんて……!」


「はいはいはい!ストーップ!二人とも落ち着いてちょうだい!みぃんなびっくりしちゃって、あなたたち注目を浴びてるわよ!?」



お姉さんが仲裁に入ってくれて、少しだけ冷静さを取り戻した。


ギルド内にいる人の視線が集まってるのを背中に感じる。



「あ…あの、騒いですみません…」


「少しは落ち着いたかしら?レイニアちゃんは悪くないわ、大丈夫。必要なら部屋は紹介するから安心して。ギルド内にも空き部屋はあるしね」


「おい!勝手なこと言うなよ」


「キリルはちょっとこっちにいらっしゃい」


「あぁ?なんでだよ!?おばはんには関係ねぇだろうが」


「キリル?怒るわよ?」


「俺とレイニアの問題なんだよ。ほっとけよ」


「放っておけないわ!放っておいたら余計拗れるのが目に見えているもの!」


「うるせぇなぁ! っ!?」



今度はキリルとお姉さんが言い合いになりそうになってはらはらしたけど、そうなりそうになった瞬間、キリルの体が浮いた。


正確に言うと、椅子に座っていたキリルの脇の下に後ろから手を差し込んで高く持ち上げている。 それも、すっごくムキムキの大きなお爺さんが。



キリルは大剣を軽々扱う割には細めの体型だけど、それでも背も高いし大柄の部類に入る。そんな軽々と持ち上げられるとは思えないんだけど。しかも、お爺さんに。


子供が後ろからお父さんに高い高いしてもらう時のように持ち上げられた状態で運ばれてる。ムキムキのお爺さんに。大の大人の男が高い高いされてじたばたしてるけど、びくともせず。


何?このシュールな光景は……。



「ふぅ。あれね。私のダーリン。このギルドのマスターなの。ちょぉぉぉっとキリルを叱ってくるから、レイニアちゃんはこのまま少しだけ待っててね!あ。これ、契約書。金額とかは決まってないけど、ギルドとの契約に当たっての基本的なあれこれが書いてあるのよぉ。これを読んで待っていて!」


「じゃあちょっとお仕置きしてくるから待っててねぇ」とお姉さんがそう言うと、キリルとムキムキのお爺さん改めギルドマスターが入って行った部屋に消えた。


「………………」



―――…とりあえず、渡された紙に書かれていることを読もう。


後ろの方からの視線が痛いし、「痴話喧嘩か?」って声が聞こえて来て振り返れないし……。

うん。そうしよう。熟読しよう。 それが良い。




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