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早く自立しよう



「じゃあね、ティモ!」


「うん!またギルドでね」


偶然会ったティモと3人で話しながらご飯を食べていたのに、キリルが「そろそろ行くぞ」って席を立ってしまった。


いつもなら私が食べ終わるのを待っててくれたのに、どうしてそんなに急ぐんだろう。「早く食べろ」と言われたのに話しながら食べてたからかな。



本当にキリルに置いていかれそうになって慌ててご飯を食べた後、道具屋に来た。


調理器具から掃除用具まで生活雑貨が色々揃っていて、結構広いお店だった。



鍋とおたまとヘラ、摺鉢と摺こぎそれぞれ3つずつ。包丁とまな板。小皿と薬草の保存用に大きめの蓋付ガラス瓶を沢山。計量器と計量スプーン、計量カップ。小さめのスプーンとマドラー。普通の紙と蝋引きした紙と液体の薬を入れるための小さい蓋付ガラス瓶やシャーレを沢山。材料を乾燥されるための網。


まだ足りないけど、とりあえず今回の薬作りには足りるだけの道具が買えたので、これで薬が作れる。



しかも、思っていたより安くて少しだけお金が残った!



「まだ時間あるけど食べ物売ってる通りも見てみるか?」


「いいの!?見たい!やったぁ」


「そんなに嬉しいのか」


「うん!気になってたし、楽しそうだもん」



買ったものをマジックバッグに仕舞っていると、キリルが提案してくれた。


どんな感じなのか気になってたから、見られるなら行って色々見たい。



「へぇ、お店も多いけどお客さんもいっぱいいるね」

「この通りはそうだな」


肉屋や魚屋、八百屋はしっかりお店を構えているお店もあるけど行商のような露店も多かった。


食料品をある店が多いこの通りは他の通りより人も多くて外国のマーケットの様な雰囲気がある。



ダリアさんと出会ってからずっとあの小さい村にいたし、たまに薬を売りに行っていた隣町よりもメイリスは大きいから、見た事のない食材を売る店も沢山あった。



(村の人達、私がいなくなって大丈夫だったかな。隣町まで行けば薬は買えるけど不便になったよね…)


15年住んでいたから心配ではあるが、元々私達のことを怖がって隣町まで薬を買いに行っていた人もいたし、困る事はないだろう。



「どうかしたか?」


「ううん。私の住んでた村では見た事のない食材も多くてどうやって食べるのかなって」


「あー、買うときに食べ方聞けば教えてくれるだろ」


「そうだね」



暫くキリルと通りを歩いたり、少し店の中を覗いたりして歩いていると、何となく甘い香りがした。

どこからしているのかと思ったら少し行ったところにお菓子を売るお店があった。 外観が女性向けの可愛らしい雰囲気がある。



「キリル、このお店見てもいい?」


「ああ、外で待ってる」


「うん」



キリルの家にオーブンは無かったから、焼き菓子は買うしかない。


店内も可愛らしい雰囲気のお店だった。


前世日本のケーキ屋のようにクリームやフルーツで飾られた色とりどりのケーキはない。この世界でケーキといえば、パウンドケーキが主流。ガトーショコラやカップケーキもあるけど、冷蔵技術がないからか生クリームを使ったケーキはない。


バラ売りになっているいくつかのクッキーを籠に取り、レジへ持っていく。


レジの横にギモーブもバラ売りで置いてあったので、それも3つ買った。




「はい」


「ん?」


「日頃の感謝の気持ち。いつもありがとう」



お菓子屋さんを出てすぐに、今買ったばかりのものをキリルに手渡した。


何気に甘い物好きなキリルへ、日頃の感謝の気持ちを買うために入ったのだ。



「レイニアの金で買った物だろ?自分で食べればいいだろ」


「いいの。お礼だから。それとも迷惑だった?」


「いや、嬉しいけど」


「うん!じゃあ受け取って!」



なんとも言えない表情してたけど、受け取った後に盗み見たら口角が上がってたからきっと喜んでくれているはず。



「なんだこれ、うま!変な食感なのに美味い」


「ギモーブって言うの。ふわふわしてて美味しいよね」


「レイは食べたか?」


「ううん」


「じゃあ食え。美味いぞ」



キリルは家に帰ってくるとすぐにお菓子を食べだした。


クッキーは自分の分も買えたけど、レジ横にあったギモーブはまあまあ高くて3つしか買わなかった。


キリルが差し出してくれたギモーブを有難く頂戴する。



「うん!美味しい!バニラ風味だね」


「な!美味いよな!」




凄くいい笑顔。


(無邪気。可愛いなぁ)


キリルはギモーブをいたくお気に召した様だ。


喜んでもらえて良かった。







買ってきた道具で早速薬作りの準備を始める。


事前に採ってあった薬草や材料は、今私が借りてる部屋の中で床に広げたり、キリルにもらった紐で梁から吊るして既に干している。


今日採ってきたキノコは薄切りにして窓辺に並べておいたものを、網の上に移してしっかりと干す。ドライフルーツや干物を作る要領で。


そうだ。ベリー類も干せばドライフルーツになるだろうか?今度試してみよう。


ドライフルーツになれば、多少日持ちさせられるし任務の時や収穫時のおやつに持っていける。



一通り材料を干してから部屋を出ると、リビングのソファでキリルがくつろいでいた。



「もう終わったのか?」


「下準備はね。これから作る薬は乾燥させてから使うから今は干してる」


「ふぅん。そういうものなのか」


「うん。あ、よしよし。いい感じ」


「ん?何か作るのか?」


「うん。今日採ったベリーでジャムを作ろうと思って」



ベリーにまぶしていた砂糖がベリーから出た水分でしっとりして溶け始めている。


そのまま火にかけて灰汁を取りながらじっくり煮詰めると、部屋の中に甘い香りが充満する。




気付けば、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。


振り返ってみるとソファでキリルが横になって寝ている。



(こうして見ると、結構整った綺麗な顔してるなぁ。年相応に見えるし……)



山中で野営していた時は寝顔を見ることもあったけど、キリルの寝顔を見るのは久しぶり。


一度綺麗に剃ったけど、また少し髭が生えてきている。


あまり髭のない状態で寝顔を見るのは初めてだった。


なんだろう。フランス人とかイタリア人みたいな。


無精髭が男のセクシーさを引き出す感じになってる。



近づいて顔を見ていると、ぱちっと目が開く。


相変わらず印象的な紫の瞳。


一度瞬きをしてキリルの焦点が定まり、目が合うと少し眉間に皺を寄せられた。


「―――…何見てんだよ」


「昼寝するなんて珍しいなと思って」


「ふわぁあぁ……そうか?あー…まあ、確かにそうかもな。家ん中すげぇ甘い匂いする」


「今日採って来たベリーで4種類のジャムを作ってみたよ。朝ごはんで食べようね」


「ああ、美味そう」



作ったジャムは、今日買ってきた瓶を使って一部は詰めた。多めに買っておいて正解だった。


残りはまたぺたんこなパンケーキでも焼いて朝食やおやつに食べよう。


今日見たお店に卵を売ってる店があったから、メレンゲを作ってふわしゅわなパンケーキにしても良いかもしれない。



そろそろ晩御飯の準備をしようかとキッチンに行くと、キリルがパントリーをがさごそしていた。



「どうしたの?」


「やべぇ。酒のストック切らした」


「そうなんだ。明日買いに行く?」


「うん。でもなぁ、今飲みたい気分なんだよな。なぁ、晩飯これから作るんなら今日は外で食べないか?」


「私も行っていいの?私のことは気にせずひとりで飲みに行って良いんだよ。誰か誘って行ってきても良いし」


「いいんだよ。行くぞ」



ギルドのカフェ部分は夜でもやっててお酒も出す。ギルドで飲んだときは楽しそうにしていたし、キリルの知り合いも多そうだったからギルドに行くのかと思ったら、街の普通の酒場へ来た。



「ギルドじゃなくて良いの?」


「ギルドに行ったら、色々絡まれてウザいからな。疲れるだろ」



私となら疲れないって思ってくれてるって事で良いのかな。



絡まれてとは、マルティナさんの事を言ってるんだろうか。


色々という事は、他にも絡んでくる人がいるってことかな。


………そういえば、ロラさんって人はギルドメンバーなんだろうか。


キリルから直接ロラさんって名前が出たことはないけど。もしかして元カノとか元妻とか?


あの時ジーニアス達が普通に名前を挙げたって事は、触れたらだめな人って事ではないよね。って事は今も良好な関係の人のはず。



ん〜…駄目だ駄目だ。


考えるとモヤっとするから、キリルと他の人の関係性は考えちゃ駄目だ。


私がキリルのコミュニティに嫉妬する権利はない。



このままだとどんどん依存して、勝手に嫉妬する事になる。


早く自立しよう。



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