プロローグ
すれ違う人達が遠くで轟音が鳴るのを聞いたと話しながら歩いていた。
「こりゃあひでぇな。…… あ?すげぇ。これで生きてるやつがいるとはな」
まだ時折ぱらぱらと小石が落ちてくる中、塞がれた道の少し離れた場所でひとりの男が立ち往生していた。
その男が数日前に通った時には狭いがちゃんとした道があった山間部の峠道。それが今や広範囲に亘って土砂に埋まっていて道が無くなっている。
雨が降った後に地震があった。どちらもそれ程深刻なものではなかったが、運悪くそれらが重なった為に崖崩れが起こったのだろう。
崖下の土砂溜まりを見ると、どうやら10程の人と馬が犠牲になったようだった。不幸な事故としか言いようがない。
この手の事故は、すぐ近くに町や村があればそこの住人が弔ってくれる事もあるが、ここはすぐ近くに村も町もない山間部。交通の要になっている主要な道路でもない。
道路の復旧に支障が無ければ、行方不明になった家族や恋人が尋ね人を探しに来ない限りそのままにされるケースが殆どだ。
花を手向けてくれる人がいれば良い方で、道路を塞ぐ土砂を撤去するために、無惨にも上からかけられる場合もあるだろう。
可哀想だが手を合わせてサクッと飛ぶかと考えながら土砂を見ていると、微かにまだ繋がっている命を感じた。
男が命を感じた場所に向かって手をかざすと、土砂がバラバラと崩れてその中から四角い箱……―――ボロボロになった馬車が宙に浮かんだ。
男の手の動きに合わせて宙を移動し、大きな馬車に似合わずストンと静かに着地する。
泥まみれになった馬車に向かって徐に男が歩み寄る。
崖崩れに巻き込まれたせいで歪んでしまったのだろう。ギシギシ、ギギギ…と音を立てる扉を力任せに開ければ、中には気を失って倒れている女がいた。所々ぶつけているようだが、崖崩れに巻き込まれたとは思えない程、綺麗な状態だった。