二・京の山中
二・京の山中
鈴の音が響く。
錫杖を持った山伏姿の鶴、現れる。
(鶴は、客席を相手に見立てて喋りかける)
鶴 こんにちは…ああ、怪しいものではありません。道に迷ってしまったのです。
ずっと一人でいていたのが心細くて…そんな時に貴方をお見掛けし、つい声をかけてしまいました。
もしかして、あなたも…? もし…よければ、途中までご一緒しませんか? ……ありがとうございます。私、とても寂しくて。
鶴、一礼。
鶴 それにしても何故、あの社へ? 縁を切りたいから…と。縁切り神社ならば、他にもありましょう。例えば、ここから近くだと住宅地の………そこよりももっと強力な場所がよいと、そうなのですか。だから、わざわざ山中の此方へ。 いえいえ、何と縁を切りたいか、だなんて、それをお伺いなどとは致しません。貴方のそのお姿を見るだけで、只事ではないのでしょう?
……ほら、見えてきましたよ。貴方は此方から、お参りなさい。
…私? …そうですねぇ…私はもう少し景色を楽しんでから向かうとします。それに私は、貴方とは共に歩むことが出来ぬのです。いえ、こちらのこと。……短い間でしたが、お陰様で寂しさも紛れたというものです。ありがとう御座いました。どうか、良いお参りを。左様なら。
鶴、手を振り見送る。
鶴 (傍白)人ならざる者しか入れぬ道へ迷い進まれるとは…あの者は、内に秘めた思いが強すぎたのでしょうか。そして、人ならぬ私が見えるほど、何かに、取り憑かれていた…それは情念や、怨念と呼ばれるモノ。人の心というものは恐ろしい……あの方は人の道を一歩、外へと踏み出し…妖へ…変容しようとしていました。あの者は、人と、妖…振り子のようにゆれております。
かく言う私は…それならば私は何なのでしょうか。私とは何か。何なのでしょう。私は。
鶴、錫杖を鳴らしながら去ろうとする。
鶴 社へ願いを託し、僅かな希望に縋りつこうとする人達。それは、信者と呼ばれています。先の、あの者のように人であることを捨てようとしてまで縋りつこうとする、彼らの神とは一体どのような方なのでしょうか。……私はすでに知っております。ええ、そう。知っておりますとも。何故ならば、私も。
鶴、去る。