7.アイゼの過去 前編
アイゼはイアンの隣に座り込むとポツポツ話し出す。
「さっきイアンさんが言ったこと当たってます。ただ一つ違うのは俺の両親は四年前に死んじゃっていないんです」
アイゼは特に何か悪いとか無く、かと言って抜き出るものもない平凡な子供だった。
ただ、アイゼの両親が凄い慕われた人だっただけ。
アイゼの両親ヤマトとサクラは此処から遠く離れた国の人間だった。
ヤマトは鍛治職で故郷の刀の良さを広める為に妻のサクラと共にこの国に引っ越してきた。
当時この町は若者が少なく、寂れて暗い町だった。そんな町にわざわざ引っ越して来た二人に最初町人は不信感しか無く挨拶程度の会話しか無かった。
しかしその関係を変える出来事があった。
サクラは花が好きだった。特にこの町にのみにひっそり咲く、月白の翼花というその名の通り月の光の色合いの羽のような形をした花びらをつける花に一目惚れをし、この町に引っ越して来たくらいだ。
綺麗だが効果も無くパッと目立たない小さな花に町人は関心は殆ど無かった。
そんな花で町を少しでも明るくしたかったサクラはいろんなところに植えた。
迷惑だったり邪魔だったりする人達からは何度も踏まれたり捨てられたりした。それでもサクラの意思は硬く何度も何度も植え続けた。
それに一部の女性たちが賛同し始める。何も無い田舎であるこの町に楽しみが無い事もあり、綺麗になるならと協力するようになって来た。
ヤマトも町全体が協力出来る間柄になるように率先していろいろな人達の手伝いをして感謝され、刀の技術を知りたくなる町人も増えていった。
その甲斐あって町は綺麗な花畑が広がり、それが町の名産になった。若者が寄り付かなかった町に徐々に住む人も増えていった。
そして、アイゼが産まれた。
町を活気あふれる所にしてくれたと慕う二人の子供を町中が祝福した。二人は周りに支えられながらアイゼを育てた。
アイゼは病気も無く、すくすく育ち八才のある日、事故が起きた。
雨が降り視界の悪い日だった。
この日久しぶりに家族三人で近隣の街で買い物をして馬車に乗り、帰る途中だった。馬が泥濘に足を取られ、馬車に乗っていた三人共々三メートルくらいの崖に落ちてしまう。
帰って来ないと町人が心配になり翌日捜索が行われ、馬車が落ちてる現場を発見する。中にはサクラとヤマトがアイゼを庇うように血塗れで倒れていた。
この事故でアイゼ以外が死亡、町中悲しみに暮れた。
事故を起こした御者も死亡してしまいどこに怒りをぶつければ良いか分からなくなった町人はあろう事か一人生き残ったアイゼに向けた。
町人はアイゼに冷たく当たるようになる。最初は二人の忘れ形見と引き取った町長一家も食事を抜かせたり、雑用ばかりさせたり、時には感情が制御出来ず手を上げることもあった。
ただ職業を授かる十三才までに子供を死亡させてしまった場合、罪が重く死罪になってしまう事がある。
だから最低限の暮らししかアイゼにさせなかった。
アイゼも町人達が両親を慕っていた事を目の前で見ていた為、そんな二人を自分の所為で殺してしまったとこの状況を受け入れてしまった。
中にはそんな事間違っていると思う人々もいたが多勢に無勢、親代わりの町長までもそんな事をする事に口を出すことも関わる事もやめてしまった。
ただ唯一、今でもサントだけおかしいとアイゼを守ろうとした。
しかし、サントの親がそんな行動を起こす娘にまで危害があるかもしれないことに危機感を抱き、ちょうど父親が単身で出張する予定があり一緒に連れて行ってしまう。
二年後ようやく此処に帰って来た頃にはアイゼの心はもう壊れかけていて、その話をするだけで暗い顔をするようになってしまっていた。
少しでも刺激すると取り返しのつかない事になる可能性に気付いたサントは口を閉ざし、いつでも直ぐ駆けつけられるように友達として側に居ようとしている事はアイゼは知らない。
そのおかげかなのかアイゼはサントの前だけはまだ昔のように接する事が出来ていた。
でもアイゼは生きていたいと思えなくなっていた。
だからあのピクニックの日、サントに襲いかかろうとした魔物を手に木の枝を持っていたのに手で払い除けようとして結果的に尻尾が手に掠ってしまった。
追払い二人で逃げて居る最中、息苦しさから倒れてしまう。手の傷が原因かと思いながら歓喜を覚えた。
もしかしたらこのまま死ねるかもしれない、と。
けれど、再び目を開ける事になった。




