74.VSクインビー
「ひえぇ!!」
頭を抱えて縮こまる御者を庇いながら、近くで戦う冒険者達の撃ち漏らした魔物をトニーが退治していた。
トニーは仕事として戦闘経験があった為、こちらは自分が対処するとハンダルに言い、早くこの状況を解決してくれと頼んだのだ。
戦力を集中させた方が効率が良いと考えたのだ。
しかし、トニーは基本ギルド内の雑務、自身のスキルを使った潜入を仕事としている。
だから、魔物と渡り合えるが戦闘が長く続くこの状況はトニーにはキツかった。
「あー!くそっ!」
だが、トニーはここにいつまでも足止めされているわけにはいかない。
大切なエヴァンがこの時も苦しんでいると思うとトニーには無駄にする時間は無い。
「あ」
気が気ではないトニーは早く片付けようと意気込んでしまい、襲って来る目の前の魔物にしか意識がいかなかった。
そのせいで周辺の注意を怠ってしまった。
目の端の方、王都へ早く行く為の足である馬に襲い掛かる蝶の姿に似た魔物に何も対処出来ない事を悟った。
「ギッ!?」
馬に襲い掛かる寸前、急に飛んで来た物に魔物に当たり、魔物は倒れた。
倒れた魔物の側には何故かお玉が落ちていた。
「は…?お玉?いったい何が…」
意味が分からず、お玉の飛んで来た方向を向くと虫の魔物の隙間から遠くに佇む二つの影。
一つはまるで何かを投げたか後のような姿だった。
漸く救援が来たのか確かめようとよく目を細めるて見るが、その姿を確認するとトニーは息を飲んだ。
「また、魔物かっ!」
骨の姿をした魔物、スケルトン。
本来ならこんな日の出ている時間に活動出来る筈のない、何故か農作業のような格好をしたスケルトンを亜種だと認識したトニーは嫌な汗をかく。
ただでさえ虫の魔物に手を焼いていたのにここで亜種の魔物の参戦に状況が更に悪くなる。
武器の持つ手に力が篭る。
「カタカタ」
「カタカタ」
「っ!?」
鎌を構えたスケルトンはトニー達を襲う事なく、周辺の虫の魔物を退治し始めた。
ハンダル達に見つからないようになのか木々に隠れながら、まるでこちらをフォローするかのように退治していくのだ。
「どういう…事なんだ」
唖然と呟いていると、戦闘の激しい後方の方から大きな衝撃音が響いた。
「は!?」
振り向くと攻撃の余韻であろう炎が見える。しかし、状況変わらずにそれどころか更に魔物が警戒するように後方に増えたのだ。
火系の攻撃は虫の魔物には効果的だ。だから更に追撃が出来るのであれば、このまま押し切れる可能性があるかもしれない。
「何してんだよっ」
しかし、特に次の火系の攻撃をする様子が無い。
その様子にトニーは苛立ち気に吐き捨てる。
すると上空から何かが地面に向かって落ちて来た。それと同時に多数の虫の魔物が慌てたように散り散りにこの場から離れていったのだ。
急に訪れた静けさに思わず、肩から力が抜ける。
「…どう、なってんだ」
◇◇◇
話しは少し前に戻る。
「ポチ、聞こえるか」
『…ワン!』
テイマーのスキルである『以心伝心』は離れているテイムして従えた存在と会話が出来る。
これにより遠くに離れていても指示が出来るテイマー特有のスキルである。
最近ではこのスキルを人間同士でも使えれば役に立つと、スキルを研究しているとある施設により『以心伝心』に似たスキルが開発されたらしい。
だが、そんな事は今関係ない。
「よし、聞こえるな。ポチ、みんなに伝えてくれ」
そう言うとイアンはポチに今の状況、そしてこれからの行動について説明した。
「じゃあ頼む」
『ワン!』
『任せるにゃ!』
「暇だったからって入ってくるな、タマ!」
スキルを一度解除して振り返るとアイゼとサントが準備万端とイアンを見ていた。
「イアンさん、いつでも行けます」
「俺も大丈夫です。サント、強力なの一発お願い」
「うん。頑張るね」
そう言って扉の前に立ち、いつでも飛び出せるようにしている。
その背中を見て、いつかのレインディアの時を思い出し、二人なら大丈夫だと一瞬思ってしまったが、取り消すように頭の端に追いやった。
『ワン!』
ポチから準備完了の合図が来た。
イアンはただ一言、呟いた。
「作戦開始だ」
バンッと扉を開けてアイゼが先に飛び出す。
腰に携えた剣を抜くと扉周辺に飛んでいた魔物を切り裂く。
サントも馬車から降りると自身が出せる最大限の火系魔法出す為の呪文を唱え始める。
魔術師は魔法を使う職業だ。
詠唱無しでも魔法を発動させる事は出来るが、詠唱は魔法に力を与える為の言霊とされており、唱える程強い力を発揮させる事が出来る。
「あらぁ?出て来ては駄目よぉ」
馬車の上にいたクルレットは先程注意したにも関わらず、今度は馬車から降りて戦い参戦して来た事に驚いた。
「"ウォーーン"」
「!『火球』!!」
何処から聞こえて来た遠吠えを合図にサントは燃える火の玉である詠唱により大きく発動した『火球』は上空のクインビーの方角に向かって繰り出した。
沢山の虫の魔物を倒しながら上空へ向かう日の球は、しかしビーの一歩手前までしか届かなかった。
その様子を見たクインビーは危険と判断したが、ビーまで届く力が無いと判断し、まだ狩る事が出来るとビー魔物達をこの馬車周辺に集中させた。
「あらあらぁ…」
「君達!なんて事をしたんだ!」
全員を危険にした行為にハンダルは叫ぶ。
これで何か作戦があれば良いのだが、肩で息をするサントを守るようにアイゼが近付いて来る魔物を蹴散らすだけだった。
弱くても数多くの魔物を相手にしているハンダルのパーティーは既に疲れも見え始めている。
応援が来る前にやられる未来に背筋を凍らせる。
その瞬間、魔物達が一斉に散り散りに飛び去っていく。
「えっ!?」
「なんで!?」
リジェンとバルの驚愕の声が上がる中、上空から地面に何かが落ちて来た。
「まぁ!」
「クインビー!?」
落ちて来たのは今回の原因であるクインビー。驚く一同を余所にいち早く動いたアイゼはクインビーにとどめを刺したのだった。




