73.大量発生
「にゃぁ…暇にゃ」
タマは移動するみー君の上でぷらぷらと足を動かして変わらない茶色の景色を眺めていた。
「カタカタ?」
側でお茶を飲んでいたタナカさん(妻)は魚の骨を揚げた物を食べるかと聞くが、いくら魚好きのタマでも先程止まっていた時間に沢山の料理を食べお腹いっぱい。食べる気になれなかった。
「カタ」
「ワン」
かと言ってタナカさん(夫)とポチのしりとりに混じる気も起きない。
今は食べ物の名前縛りでやっているらしいが、タマが混じっても直ぐに負ける未来しか見えなかったからだ。
コッコ達とヒドキーはこんな揺れている中、仲良く身を寄せ合って寝ている。
揶揄うにも寝ているところを起こすとただ反撃に合うだけだった。
「ご主人は今頃楽しくやってるですかにゃねぇ…ずるいにゃ」
「クゥー…ワン?」
しりとり中だったポチは不意に上を見上げた。
それと同時くらいにみー君もピタリと動きを止めた。
「ーーー」
「にゃ?ご主人が止まったですにゃ?もう目的地って事ですかにゃ」
「…ワン」
目的地に着いたのなら何かしら合図を送ってくる筈だが、一向にそのような気配は無い。
だが、ポチは何か聞こえるとピンと耳を立てて微かな音を聞こうとしていた。
◇◇◇
そんなポチ達と引き換えに地上では大変な事になっていた。
「そっち行ったぞ!」
「ぐっ!」
「バル!?クルレット!サポート!」
「はいはぁい」
穏やかに王都に着くかと思われたが、大量の虫の魔物が行手を遮るように現れたのだ。
最初は数匹だったのが、進むにつれて数を増やし、今では進む事が困難になってしまっていた。
前方や後方でも戦闘の音がしているのでこの辺り一帯に出現しているらしい。
トニー達の方にはハンダルが側で守りながら戦闘し、リジェンとバルがメインに魔物を蹴散らす。
馬車の中にいたクルレットも流石に外に出て戦闘に参加している。
「リーダー!切ったも切ってもキリがないぞ!」
「どうしたらっ」
苦戦を強いられる中、イアン達は戦闘には参加していなかった。
イアンはテイマーでポチ達がいなければ無力であるが、アイゼとサントは戦う力がある。
しかし、お客に戦わせるわけには行かないとハンダルにここに残るよう言われていたのだ。
「うぅ!こんなところでジッとしてるなんて性に合わないんだけど!」
「でも、急に私達が入るとパーティーのリズムがズレちゃうかも知れないよね」
「そうだけど!」
アイゼはいつでも参戦出来るようにずっと柄を掴み、もどかし気に外を見つめていた。
「にしても、この森こんなに魔物が出るのか」
「それがおかしいんです。この森自体に沢山魔物が出るのはあり得るそうですが、この王都までの道はギルドに所属する冒険者が定期的に魔物退治して余り寄り付かない筈なんです」
「異常発生…いや、親玉的何かいるとかか?」
「親玉…」
イアンのただ思い付いて漏れた言葉にサントは少し考え、窓の外に溢れる虫の魔物を観察する。そしてある事に気付き、馬車の窓を開けて上空を見渡した。
「あらぁ?窓開けると危ないわよぉ」
馬車の屋根に立って支援していたクルレットが窓を開けたサントに注意をするが、サントは何か探すように見渡し、上空にいる影を見つけた。
「クルレットさん!あそこ!」
「あそこぉ?…あらあらぁ」
飛び回る小型の虫の魔物の間から僅かに見える上空、蜂の姿をした大型の魔物が浮揚していたのだ。
「リーダーぁ、クインビーだわぁ」
「何っ!?」
クルレットの言葉にハンダルも確認する為に上空に振り返った。
頭を窓から引っ込めたサントにアイゼがどう言う事かと説明を求めた。
「今回の原因はクインビーっていう魔物のせいなの」
「クインビー?」
「あぁ…だからこんなに虫の魔物が集中してるのか」
イアンは魔物の名前を聞いてピンと来たらしいが、アイゼは分からず首を傾けた。
普通の蜂が超巨大化したような姿をしている魔物、クインビー。
クインビーはその名の通り女王の蜂であり、小型の分身であるビーを従えて獲物を狩る魔物だ。
肉食のクインビーはビーを使い、獲物の付近の虫の魔物をパニックにさせて獲物を攻撃するよう仕向け、弱らせたところを自分達が襲うという手段を使っている。
その間、ビー達は虫の魔物を逃がさないように囲うように飛んでいる。
先程サントが確認したのはこの異常発生の原因がそのビー達なのでは無いかと外を見たのだ。
そして案の定、周りにビーの姿がチラリと見え、更に遠く離れた上空にクインビーが浮揚していたのだ。
「クインビー単体自体の討伐難易度は低いんだけど、ビーを使って集めた虫の魔物によって討伐難易度が上がったりするの。今回は見たところ、そこまで強い魔物は居ないようだけど、数が多くて苦戦を強いられている感じだね」
「じゃあ、そのクインビーを倒せば良いって事?」
「うん。倒せばビー達は消えて虫の魔物も逃げたりすると思う。けど、クインビーは離れた所にいるし、攻撃するにも周りの魔物が邪魔でそこまで届くか微妙かも」
虫の魔物は火系の攻撃に弱い。しかし、外を見る限り、火系の攻撃手段が無いらしい。
最初は道具を使って火を出したりしていたが、敵の数も多く、道具にも限りがある為控えているようだ。
「私の魔法を使ってもこんなに沢山だとクインビーに届く前にバテそう…」
「俺のスキルで切るのはどうだ!?」
「アイゼのあのスキルは空間を切るもので多分クインビーは切れない」
サントに役に立てないと言われ、がっくり肩を落としたアイゼ。
それでもなんとかしたいが、場を掻き乱してしまったら元も子もない。
応援が来るまでこのままでいるしか無いのか、自分達に出来る事が何も無いと歯痒い気持ちでいる二人。
そんな中、考え事をしていたイアンはポツリと呟く。
「なぁ、お前の魔法って威力は強いのか?」
「え?一応強いのも出来ますけど、何回も発動ってなると出来ないです」
「クインビーに一回でも攻撃が当たれば統制は崩れるよな」
「はい。ビーを操るのは繊細らしいので。イアンさん?何か案があるんですか?」
イアンは顔を上げた。
こんなところで時間を食っている暇は無いのだ。
「この状況、どうにかする」




