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72.検査官はただ良い人です

また久しぶりの更新になってしまいました。

 

 肉サンドを食べて味を占めたアイゼとサントは結局馬車から降りて時間の許す限りいろんな飲食店を見て回り、気になる物を買い漁った。


「見て下さいイアンさん。リンゴを丸ごと焼いたやつあったんですよ!」

「こっちは遠くの国の料理です!」


 二人は戻って来るなり、買って来た物を広げてイアンに勧めて来る。

 王都の入り口とあって、国内はもちろん国外の料理を扱っている店も豊富だった。

 今回は量は少なく、種類豊富に買って来たのだ。


 パーティーかのように広げられた料理に呆れていたイアンだったが、常に同じような食事をしているので、食べた事のない料理が気になっていた。


 イアンは気になる欲求に抗えず、買って来た料理に手を伸ばしたのだった。


 料理に舌鼓を打っているといつの間にかイアン達の馬車の順番になっていた。


 ドアを開けられ、外に出るように促される。


 複数の兵士が馬車を検める。その間にイアン達は側の建物に連れて来られ、一人一人書類と情報が合っているかの確認が行われる。


「生まれと歳は?」

「……です」

「え?」

「、の月…です」

「えっ?」


 イアンの小さな声は目の前の検査官には届かなかった。

 イアンは人嫌いからの人見知りを併発しているせいと目の前の検査官が物凄い顔が怖い人せいで上手く対話がとれていなかった。


 何度も聞き返しの連続、相手の大きくなる声にイアンはもう涙目というよりほぼ泣いていた。


 その受け答えに検査官は一瞬怪しんだが、検査官には自分の顔が怖らがれて子供によく泣かれている嫌な経験が沢山あった。

 沢山の人と合う経験も活かし、目の前イアンは緊張しているのだと判断した。


 人の倍以上の時間をかけたが、検査官の努力の甲斐があってイアンはなんとか入る許可が降りた。


 何故か飴玉を渡されたイアンは腕で目元を擦りながら馬車まで戻ると先に戻っていたアイゼ達がギョッとした表情でイアンを見ていた。


「イアンさん!?えっ、なにかされたんですか!?」

「まさか暴力沙汰!?」


 二人はイアンの目が赤くなって目尻に涙を溜めているが見えて心配し、許可が降りてここに戻って来ている筈なのに泣くような事があったのかとトニーは御者と顔を見合わせる。


 一方、何にもされておらず、逆に検査官の真摯的な対応のおかげでここにいるイアン。


 何か誤解をしている二人になんでもないと言うが食い下がらない。

 しかも、涙が出た理由が他人からしたらそんな事で?と言われるのが直ぐに察する事が出来る。


 それに自分でもそう思ってしまっているので気まずくなって来たイアンは未だ言ってくる二人を馬車に押し込んだ。


「なんでも、ないんでっ!」


 そう言いながらイアンは進路方向を指差し、早く行ってくれと訴える。

 少し腑に落ちないままだが、早く王都に行かなくては行けないとトニーは御者に声をかけて乗り込んだ。


 開かれた門を潜ると門周辺は草一つ生えていない固められた砂地だが、目の前には広大な森が広がっていた。


 森には奥へと大型の馬車二台程通れる二本の道が続いている。

 片方は門から王都へ、片方は王都から門へと片道通行になっており、すれ違いをしないようになっていた。


 この道だけが正規のルートであり、もしも逸れてしまえば自己責任、捜索願いを出されても、その前にこの森に住む魔物に襲われてしまうかもしれない。


 そんな危険がある森の入り口に四人の冒険者が立ち並んでいた。


「初めまして。リーダーのハンダルです」

「初めまして。トニーです。今回はよろしくお願いします」


 トニーが馬車から降りて握手を交わすハンダルはこの森にあるギルドに所属している冒険者で、トニーが雇った冒険者だ。


 ここの冒険者は森に巣食う魔物を討伐して素材を売ったり、今回のように護衛任務で生計を立ているのだ。


 正規のルート周辺で冒険者が魔物の討伐をしている為、余り魔物が出る事は無い。

 なので冒険者を必ず雇う必要はないのだが、トニーは早く確実に王都に行く必要があると雇ったのだ。


「では、早速出発しましょう」


 挨拶をそこそこにトニーは出発を促した。


 ハンダルはパーティーに指示を出し、馬車を囲むように配備すると馬車は出発した。


 なかなかなスピードを出して走る馬車に遅れを取らずに並走するハンダル達を横目にイアンはなるべく隅にと縮こまるように座っていた。


「ごめんなさいねぇ。私、運動苦手でぇ、いつも運んでもらってるのぉ」


 何故かというと語尾を伸ばして親しげに話しかけて来るこの女性が乗り込んでいたからだ。


 この女性はハンダルのパーティーの内の一人でヒーラーのクルレット。

 走るのが遅く、いつも同じパーティーで剣士のリジェンかランサーのバルが背負うかこのように馬車に乗せてもらい、馬車からパーティーを支援しているのだ。


「あらぁ?パーティーでもしてたのぉ?」

「えっ、まぁ…」


 広げられた料理見て三人でパーティーをしているように見えたクルレット。

 興味津々で見て来るので、それを無視して三人で食べ続けるのは気が引けたサントが手前にあった料理を差し出した。


「あの、宜しければ食べますか」

「えぇ?いいのぉ?」


 任務中な筈なのにそんな事お構い無し、断るどころか悠々と受け取ると大きい一口で齧り付く。


「美味しいぃ」


 一口食べると歯止めが外れたのか、勧められていない料理まで食べ始めた。


 どんどん机の料理がクルレットの口に吸い込まれていくのを唖然と見るしか無かったのだ。


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