66.板は無事です
急に入り口に向かって走り出してしまったイアンが漸く戻って来た。アイゼとサントは駆け足で近寄った。
「やっと戻って来たよサント。イアンさん!」
「イアンさん、大丈夫で、す?なんか…頭にこぶが…」
「なんでもない」
コッコ達による頭への一撃はこぶになって現れた。余り気にならなかったが言われると意識してしまい、ジクジクと痛み出してイアンは手を添えた。
「あのドラゴンっぽいのって結局どうしたんですか?」
先程ドラゴンもどきの首根っこを掴み上げ、まるで捨てに行くかの形相だったイアン。
だが今、イアンは手ぶらだったのでもしかして捨てて来たのかと思ったのだ。
ドラゴンの種類は数多くおり、凶悪な存在から神聖な存在。そして恐ろしい見た目から可愛らしい見た目といろいろ存在する。
そしてあのドラゴンもどきは火を吐いて危ないが、何より可愛かった。
危険な魔物かもしれないが、そんな可愛らしい存在を話し合う事もせずに捨てたとなれば可哀想だと思ってしまったのだ。
「あぁ…こいつ」
イアンは今来た道をチラリと見るとポチとタマ、その後ろをコッコ達に挟まれて歩いて来ていたドラゴンもどきがいた。
だが、こいつと言われた事が気に食わなかったのかイアンに向けて火を吐こうとしている。
「もう、ご主人。ちゃんと付けた名前で呼んであげるべきですにゃ」
「ワン!」
「名前って事は…テイムしたんですね!」
「と言う事は魔物って事か」
テイムして成功すると契約の証として契約者が名前を付ける。
テイムした存在が高位の聖獣等だった場合は元々名前を持っている事があり、その時はその名を契約者に告げるのだ。
そしてこのドラゴンもどきをテイムしたイアンは名前が無かったので、これに名前を付けた。
「なんて名前なんですか?」
「ヒドキー」
「え?ヒドキー?…因みに意味は?」
「火を吐くドラゴンもどき」
ヒドキー。この名に対してイアンの周りは特に気にはしていなかったようだが、アイゼとサントはイアン達から顔を背け、お互い顔を見合わせる。
「ねぇ、ヒドキーって、なんか"酷い"って聞こえない?」
「分かる。それにイアンさん知らないのかも知れないけどヒドキーって魔物本当にいるしね」
ヒドキーと呼ばれる魔物は火口付近にいる赤くドロドロに溶けた様な見た目の猿の形をした魔物。
目の前のヒドキーと比べると断然こちらの方が可愛い。
もし、本当のヒドキーに出会ってしまった時、怒ってイアンの事を燃やしてしまうのではないかと一抹の不安を覚える二人だった。
そんな二人を他所にヒドキーの事は解決したとイアンは家の中に入って行く。ポチ達も後に続き、イアンは先に椅子に座って一息ついた。
「カタ」
「ありがとうタナカさん(妻)」
イアンがヒドキーを捨てに行った時、着いて行こうかとしたタナカさん(夫婦)だったがイアンならどうにかしてくれると思い取り敢えず一息つけるよう準備しに家の中に戻っていたのだ。
タナカさん(妻)がお茶を沸かしつつ、何か口に出来る物を用意し、タナカさん(夫)はこの場で手入れをしていた武具を片付けて、全員が座れるようにしていた。
そして丁度良いタイミングで皆んなが戻って来たという訳だ。
イアンはお茶を一口飲み、全員がいつもの定位置に座ったのを確認すると口を開いた。
「んで、お前らがもう戻って来たって事は何、失敗したって事か」
「なんでそうなるんですか!?ちゃんと手続き完了しましたよ!」
「へぇ!こんな短時間で凄いですにゃ!」
「まぁ、ちょっとアイゼ一人に任せてしまったせいで問題もありますけど…イアンさんの方はどうだったんですか?」
二人は一応協力関係、イアンは面倒だと思いながらもエルクラ村での出来事を共有する為に話した。
「はぁ…エリンちゃんって子、薬が効いて本当に良かった」
エルクラ村で出会ったアンナとエリン親子。その二人の話を聞いて安心したようにサントは呟いた。
「これでイアンさんの家族は無実って事だから、これを言えば解放されるって事ですよね」
「いや…治療を終えた後にまるで見張ってたかのように兵士が村に来たから、多分言った所で揉み消されていたかもしれない」
「兵士、ですか?エリンちゃんは大丈夫なんですか?」
「一応対策して来たけどな…それが効いたかどうかは逃げたから知らない」
「ご主人にゃら大丈夫ですにゃ!」
「ワン!」
元気付けつつ、イアンを信頼してくれる言葉を言ってくれるポチとタマをイアンはぐしゃぐしゃと撫で回した。
「まぁ、仮に俺の対策が功を制して無事だったとしても、王都に証拠として連れて行って捕まらないようギリギリまで隠すとしてもはっきり言って困難だ。だから、それは最終手段で証拠を持ってそうなもう一つの可能性の医者を探す」
「居なくなってしまった医者、ですね」
「でも探すって言っても何処に行ったのか手掛かりは無いですよね」
エルクラ村の医者は家族と共に行方不明になっている。応援来ていた医者も一緒に居なくなり、聞く暇がなかったがきっとその家族もいないであろう。
だから見つけるなんてどれだけの時間がかかるか分からない。
「だけどやるしか無い。取り敢えず明日もう一度エルクラ村に行って話が聞けるようだったら応援に来ていた医者の情報をもらって、医者の住んでる村に目撃情報が無いか探してみる」
「あ」
「あ?」
急に呟いたアイゼになんだと目を向けた。目が合った途端、ばつが悪そうに頭を下げた。
「イアンさん…無理です」
「は?」
意味が分からないと眉を顰めたイアンにトニーとのやり取りを告げるとイアンは頭を抱えながら叫ぶ。
「はぁぁあ!?なんだよ二日後って!いつ行くかまだ決めて無いって言うかまだ全然情報得て無いんだよ!」
「ごめんなさいぃ!」
「アイゼのせいじゃないんです!私が固まったりしたせいで!」
三人の叫びを耳を押さえながら見ていたポチはふと少し離れたところにある椅子の上に無造作に置かれた板を見た。
「?」
何か一瞬光った気がした板が気になり、近付いて板を口に咥えて床に置き、板を前足でペシペシ触れる。
すると運良く反応し、ポチはそこに書かれていた内容に驚き、慌ててイアンを呼んだ。
「ワン!ワン!ワン!」
「ポチさん?ご主人、ポチさんが呼んでますにゃ!」
タマに言われポチの呼び声に漸く気付いてイアンは近付き、ポチに促されるまま板の内容を見た。
『続報!村人殺害の極悪犯の三名の死刑の日時、七の月十日の一週間後!書き忘れちゃった。テヘッ♪』
「何が"テヘッ♪"だぁっ!」
バンッと思いっきり板を叩きつけたのだった。




