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63.交通手段

 

 静寂の中、音を立てた扉から来たのは手続きの書類を処理し終えたノルドだった。

 ノルドから書類の控えを受け取った二人は町長が戻って引き留められる前にそそくさ抜け出した。


「戻って来る前に出れて良かったね」

「本当だよ。でも、無事にイアンさんの分も手続き出来たし良かった」


 アイゼはイアンの手続き書類を誇らしそうに眺める。

 満足気に頷くと紛失しないように自分の分と一緒に丁寧にしまった。


「サント、これで完了で良いんだよね?」

「うん、王都に入る手続きはね。後は王都まで行く馬車の確認しておかないと…」


 本当はその場で王都行きの馬車を見つけるより、予約をした方が良いのだが、いつ王都に行くか分からないので予約したくても出来ない。

 だが、馬車の質や値段を知っておくのは計画を立てるに必要だと思い、サントとアイゼは馬車の出発地であるアディスア街に向かった。


 アディスア街に着くと二人はギルドに入った。

 王都行きの馬車を扱っているのは王都に入る手続きが出来る場所であるからだ。入る手続きと一緒に馬車も手続きするのが主である。


 但し、特別な手続きである町長権限のような場合は馬車の手続きは近場の手続き所で手続きしなければならない。

 それか町長のように自身が持つ馬車を登録してあり、それに乗って向かえば王都に行く事が出来る。


 王都は円を描くように一から四の門で区切られている。

 一の門は城に一番近い門で、門内は王族が暮らす場所だ。

 二の門内は貴族の暮らす場所、三の門内は王族や貴族の為の職人や魔王討伐等に選ばれた人材が暮らす。

 四の門内は王都のギルドとダンジョンがある。


 一般人が王都に入る為の手続きした書類の確認作業は四の門で行っている。

 問題なく門を通る許可が降りて入ると三の門から四の門迄の間は長い距離が開いている事が分かる。


 しかし、三の門までの交通方法は歩きか王都行きの馬車だけである。

 しかも、三の門から四の門の間は魔物も出現するので歩きでは危険且つ時間がかかる。


 馬車であれば早く、馬車の情報がギルドに入っているので近場で依頼中の冒険者がサポートしてくれる事もある。

 歩きで行く人々もサポートはしてくれるが間違った道を進んでしまうと冒険者が見つけにくいので難しい。


 時間の節約、安全面を考えれば馬車で行く方が良い。

 アイゼとサントはいろんな馬車を見比べていた。


「ねぇ、サント。これなんか良いんじゃない?」

「でもこれ客数が他の馬車より多く募集してるから、もしかしたら隣同士スペースが殆ど無いかも…」

「あ、じゃあこれは?」

「アイゼ、しっかり見てる?それ荷物用の馬車じゃない」


 二人は値段もそこそこ安く、一人のスペースが少しでもあって、座り心地がマシなもの、そして何より人間以外が乗れる馬車を探していた。


「師匠達が乗るってなると本当はふっかふかのクッション、乗心地抜群の選びたいけどお金凄いかかるし…」

「条件に合う良い馬車ないね…」


 結局良い馬車が見つからず二人はガックリと項垂れ、余り期待出来ないがクアラルン街にあるギルドに行ってみようという事になった。

 サントは取り敢えず近い条件の内容をメモをして二人はギルドを出ようとして入口に差し掛かった時、声をかけられた。


「君達王都に行きたいのかい?」

「え?」


 白髪で長い髭が特徴的な老人が話しかけて来たのだ。

 どうやら二人がああでもないこうでもない様子に気にして声をかけて来たらしい。


 アイゼは不審そうに老人を見るが、サントはジッと見たと思ったら手の平で額を押さえた。


「いっ、たぁ…」

「!サント、大丈夫?」

「なんとか…あの、失礼ですけどクアラルン街のギルドのトニーさん、ですよね?」

「⁉︎」


 老人は驚いた。

 何故なら当たっているからだ。


 トニーことトニオンは数日前からアディスア街のギルドに出張で来ていた。

 そして今日はたまたまクアラルン街のギルドとは別の姿をしていたのだ。


 トニーがギルドに戻って来た時、いつかイアンとシエラと一緒にいた二人の姿があると気付いた。

 イアンと親しげに話しているのを確認していたので、もしだったらイアンの情報をゲット出来るのでは無いのかと近付いたのだ。


 二人と顔を合わせた事も無ければ話した事もない。怪しまれず、親切な老人で済む筈だと思っていた。


 ところが、サントに名前を言われ思わず動揺してしまった。その反応を見てサントは確信した。


「あのトニーさん、すみません。姿戻してもらえませんか?私のスキルのせいで、ちょっと頭痛くて…」


 眉を顰めて痛みに耐えるサントの姿を見て、トニーはいつもの老人の姿に変わった。


「よく、気付きましたね」

「この前イアンさんが教えてくれて小さな縁が出来てしまったおかげ、ですね」

「あ、サントの"連鎖の縁"!」


 サントの固有スキル"連鎖の縁"。

 人にのみ発動しかしないが、一度出会っただけで細い糸のような縁を結んでしまうスキル。

 その細い縁は死ぬまでずっと消えない。


 トニーが二人を認識した同じ日、イアンと話していたサントがイアンからトニーの不満を聞いていたのだ。


「あいつ、確かトニーとか呼ばれていた老人…職務怠慢、話が長い、仕事も時間をかけ過ぎ!しかも、こんな話場を勝手に設ける!」


 怒りが込み上げていたのか饒舌に話すイアンに気になったサントはトニーを見た。その時、細い縁が生まれたのだ。


 サントは最初認識した顔を覚えてしまうので、変装などされるとスキルで得た情報と目視による情報にズレが生じて、それが頭痛となってしまうのだ。


 仮にトニーが青年の姿になってしまっても最初の認識と情報が違うとなり、本来の姿でもおかしいと思ってしまう。

 トニーがクアラルン街のギルドでの姿に戻したおかげでサントの頭痛は治った。


「トニーさん?は、俺たちに用があるんですか?いくら職員でも他のギルドじゃ無いですか。それなのにわざわざ声をかけてくれて」

「そうですねぇ、私の知り合いの知り合いが君達を知っていて、もし困っていそうなら声をかけて欲しいと言われていたんですよ」

「そうなんですか?ありがとうございます!」


 そこで二人はクアラルン街のギルドに自分達が望む王都行きの馬車があるか聞くが、アディスアのギルドにあるのと殆ど同じという情報を得る事が出来た。


「じゃあ、イアンさんにこのメモの内容見せて選んでもらうで良いかな」

「同じならこっちの方が距離近いからいいと思う」

「二人はなんで王都に行くんだい?」


 二人だけが行くならトニーは聞く気は無かったが、ギルドでの様子を見るにイアンは王都に率先して行くような感じでは無かった。

 それなのにイアンも王都に行くような匂わせる言葉に気になった。


「えっと、知り合いの家族の方が、」

「アイゼ!」


 アイゼの腕を掴み、言葉を遮る。

 サントはアイゼと共にトニーに背を向けるとアイゼに耳打ちする。


「駄目だよ!もしこの人があの情報を信じていたら家族であるイアンさんが危ないし、それにもし知らなかったら下手に情報を出すのは良くないよ」

「あ、そっか…じゃあ、トニーさんには言わない方が、」

「イアンの家族がなんだって?」


 背を向けてこっそり話していたが、トニーは常日頃エヴィンに話せるネタ探しているので聞き耳をよく立てている。


 だから小さい声で喋る二人の会話も聞こえたが、何故急にイアンの家族の話が出て来るのか。

 トニーは二人の肩に手をついて言うまで離さないと徐々に力を入れていく。


「ひっ」

「あ、あの…離し」

「うん?」


 ニッコリと笑うトニーに恐怖が二人を襲う。

 アイゼとサントは遂にここに至るまでの事を掻い摘んで口にしてしまった。


「はぁ?」


 そして二人から話を聞いたトニーは表情を無くし、一言低い声で呟いたのだった。


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