62.炎
サントは自分のとアイゼ、そしてイアンから借りて来たギルドカードを部屋に来たノルドに渡した。
町長権限の手続きは必要書類を一通り書き、特殊なアイテムを使ってそれを送る方法だ。
本来なら書類も本人が書かないといけないが町長から任された人物が代理執筆可能である。それを利用してイアンの分を手続きしようとしていたのだ。
ノルドは手続きの書類の作成に行き、町長は来客の為に席を外すとアイゼはようやく力が抜けた。
「はぁ…俺、何もしてないのに疲れた」
「お疲れ様。でもこの方法とれたのはアイゼがいるからなんだよ?だって何にも繋がりが無かったらそもそも会ってもらえなかったかもしれないし」
「役に立ったなら良いけどさ」
それでも此処から出て行きたいアイゼは早くノルドが帰って来る事を祈りながら、一息つけた事により先程のサントが気になった。
「…ねぇ、さっき言ってた事ってサントの本音?」
「え?」
「ほら、俺が王都行くべきとか…咄嗟に出てくるかなぁって…」
「んー…思ってるって言えば思ってるのかなぁ」
少し首を傾けながらサントは自分の思いを話していく。
アイゼとギルドに登録して一緒に依頼をこなして行くうちにアイゼは自分と同じ初心者とは思えない程の動きだと度々思っていた。
魔術師であるサントは覚えていく魔法によって何にでもなれるのでアイゼの職業である剣士を活かす為、依頼は魔物の討伐系が主。
まだまだ魔法を使うのが苦手なサントは戦闘はもっぱらアイゼがメインでサントはサポートである。
最初はお互い協力しなければ依頼をこなす事は出来なかった。
だが、最近はサントがサポートしなくてもどんどん一人で先に進んでしまう。まだ職業を授かってから数ヶ月しか経っていないのに。
これが"勇者"として選ばれた逸材なのかとしみじみ思う程だった。
アディスア街のギルドは教会もある関係で初心者向けの依頼が多い。
ダンジョンも側にあるが下の階に行き過ぎなければ初心者向けと言える。
二、三年してようやく最下層まで攻略して、アディスア街のダンジョンより難易度の高いダンジョンに向かおうとするのが一般的だ。
ところがアイゼとサントは既に最下層まで攻略していた。しかも四人一組のパーティーが基本のところ、たった二人で攻略したのだ。
「アイゼとじゃなきゃ下層行くなんてまだまだ先の事だったし、アイゼの強さは異常だと思う」
「えぇ…そう、かなぁ…」
「そうなの。きっとアイゼは近い内ここ周辺は物足りなくなると思う」
だから王都のギルドに行った方がアイゼにとって更なるレベルの向上、わくわくする事が多いのではと思っていたのだ。
「もし町長に対抗する意味で行きたくないって言ってるだけで本当は行きたいなら私は全力で協力するよ?」
確かに王都行きは大人達が勝手に話を進め、手の平を返した町長夫妻の反応に嫌がった結果だったかもしれないとアイゼは思った。
もしも町長達と仲が良かったら、きっと普通に応援されて行ったかもしれない。もしもそのまま冷たくされていたらクィント町帰りたくなくて行ったかもしれない。
そうしたらイアンの元に逃げるという選択肢をしなかった。サントと二人で過ごして来た時間も無かった。
だが、そんな事アイゼには考えられなかった。
「…行きたいのか行きたくないのか、改めて考えるとよく分からないけど…俺は今が好きだから、このままがいいな」
「そっか…」
サントは今までアイゼに辛く当たる町長が嫌いで、でも自分ではどうする事も出来ない。
だから職業を授かった機に町を出るよう進めようと思っていたのだ。
そんな中、サント達はイアンと出会った。イアンという逃げられる場所を持てたアイゼは昔に戻ったように明るくなり、生きやすくなったように見えた。
だが、この出会いのせいで王都に行きにくくなって、こうやって嫌な人物に会いに町に再び来る羽目にもなった。
ここに来た一番の理由は手続きだが、サントはもしアイゼが王都に行きたいなら今回の事を足掛かりに活動拠点を王都に移したら良いかと思っていた。
しかし、そうは思ってもアイゼと離れ離れになるのは嫌だった。
だから、アイゼが今のままで良いと言ってくれて、サントは密かに安堵した。
「私もアイゼといるの好きだよ」
そう言うサントに嬉しそうに笑うアイゼ。
ただ、サントの中ではこの日々は長くは続かない気がして、でも何も言う事なく手続きが終わるのを待つのだった。
◇◇◇
「あー」
漸く具合も良くなったイアンはヨロヨロとしながらも家への帰路についていた。
本当はみー君に乗って早く帰ろうとしたが、今のイアンにはその振動がキツく、歩いていた。
「クゥン」
「大丈夫ですにゃ?」
ポチとケットシーに戻ったタマが足元が心配そうにイアンを見ている。
イアンは大丈夫だという意味を込めて手を振った。
それにしてもとイアンはこれからの事を考え始めた。
「やっぱり詳しい誰かから情報が欲しいよな」
「ワンワン」
「そうなんだよなぁ、あの怪しい薬を持って来た男は敵側、いきなりの接触は危ないよな」
「だったら医者ですかにゃ?」
「そうけど、居場所が分からないんだよな」
うんうん唸りながら考えるが頭が回らず、良い案が思いつかない。
そうこうしている内に家のある場所まで来た。
取り敢えず今日はもう早く休もうと入り口を開けた。
「ぇ」
瞬間、目の前が炎に包まれたのだった。




