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61.クィント町

 

 オェェ、オェェ。

 森から不気味な音が広がる。近付いて見るとイアンが木陰に蹲っていた。


「オェェ!」

「クゥン」

「ぅ…もう、大丈…オエエェ」


 心配そうにしているポチ達にイアンは大丈夫だと言いたいが、まだ気持ち悪く言葉を紡げない。


 何故こんな状態になっているかと言うと村から離れたイアンは一息付いて安心した。

 その瞬間、胃がキリキリと痛みだしたのだ。堪らず木陰で蹲ると戻してしまった。


 どうやら人が嫌いなのに喋ると言う行為、普段そこまで使わない頭を回転させ、無実を証明する為に作った事も無い薬を作った緊張感。

 そのストレスが今来たらしい。


 当分動けないイアンの背をポチは優しく撫で、何か来ないようにタマとみー君は辺りを警戒するのだった。



 ◇◇◇



 一方、タマのアイディアで手続きする為にある町に向かっていたアイゼとサント。


「は、速いよアイゼ」

「早くサント!」


 イアンの役に立てる、そんなまたとない機会にアイゼのテンションはマックスだ。

 だから、いつもよりも早く戻って来る事が出来た。アイゼとサントの住むクィント町に。


「あ、サントは両親に会いたい?」


 最近は家からギルドに通わず、ギルドがある隣の街のアディスアでギルドが運営する宿舎に泊まっているのだ。


 近いからいつでも帰れると言う思いのせいか、殆ど家に帰っていなかった。

 久しぶりの帰郷にアイゼは顔を出すかと聞くが、また今度で良いと言うと二人は目的地である町長の家に向かった。


 ドアノッカーを叩き、出て来た召使いがアイゼを見て驚いた。


「ア、アイゼ…」

「どーも、ノルド」


 この召使いノルドはこの家で年若く、一番アイゼに近い年齢だった。下っ端だったノルドは常に周りから下に見られていた。


 アイゼが町長の所に来た頃は見習いだったので仕方ない事ではあったが、それが嫌だったノルドはアイゼが良く思われていない事を良い事にアイゼによく当たっていた。


 ところが、アイゼが職業を授かった瞬間立場が百八十度変わった。

 皆んなアイゼに対して態度を変えたのだ。

 ノルドは面白くなかったが、渋々周りに合わせていた。ただ、態度は余り良くは無かったが。


 だが、どんどんギルドでの依頼をこなして活躍していくアイゼに対して未だ下っ端。その差に妬ましく思っているのだ。


 それでも仕事の為、感情を押し殺して直ぐに佇まいを直すとアイゼにお辞儀をする。


「…お帰りなさいませ」

「別に帰って来た訳じゃないし。町長に会える?」


 本来なら前もって会う約束を取り付け無ければ門前払いだが、未だにアイゼを王都のギルドに自分達の子として送りたい為に約束も無く会うと召使い達に通達していたのだ。

 だからノルドはアイゼとサントを中へと通した。


 部屋に向かっている最中、アイゼは隣を歩くサントにこっそり話しかける。


「ねぇ、サント」

「なに?」

「サントがクィントに行くって言うから来たけど、手続きってギルドでするじゃん?なんでわざわざこっち来たの?」


 王都へ入る為の手続きは基本ギルドか大都市には手続き所があるのでそこで行う。

 クィント町から一番近いのはアディスア街のギルド。だからアイゼも最初そこに行くのだと思っていた。


 ところがサントはそれに待ったをかけ、クィント町に行く事を提案したのだ。

 クィント町のように小さな町では手続きは不可能の筈だ。


 そうは思ってもサントには何か考えがあって着く前に話してくれるだろうと期待していたのだが、今の今まで何も話して来ないので、気になったアイゼがとうとう聞いたのだ。


「だってここで手続きなんて無理じゃん。もし町長に挨拶だけとか言うなら俺帰るよ?」

「まぁ、待ってよ。アイゼ、王都に入る手続きって審査もあって時間かかるし、そもそも何処でやるにしても本人しか受け付けないでしょ?」

「そう言えば…あ、じゃあ俺達じゃイアンさんの分手続き出来ないじゃん⁉︎」

「分かってなかったんだ…でもね、それを可能にする方法があるんだよ。アイゼ…イアンさんの為に覚悟してね」

「へ」


 アイゼはサントの言葉を理解しないまま、この町の町長であり、アイゼの保護者代わりのカジミール町長の元へ通された。


「おぉ、アイゼ!戻ったのか」


 アイゼを顔を見るや喜色を浮かべ椅子から立ち上がり近づいて来た。

 一方のアイゼは苦虫を噛み潰したように顔を顰めて、サントの少し後ろに移動した。


「…お久しぶり、です。町長」

「そんな堅苦しくせずとも、私とお前の中だ。楽にしなさい」


 そんな事言われてもアイゼは余計に警戒する。

 だが、サントがアイゼの腕を掴むと問答無用でアイゼを町長の前に突き出した。


「サント⁉︎」

「こんにちは、町長さん。今日は、アイゼが!町長さんにお願いがあって来たんです」


 アイゼのお願いと聞いてご機嫌を取ろうとしているのか聞く体制になった町長は二人にソファに座るよう勧めた。

 何か言いたげにしているアイゼに口を開かせる前にサントは座らせた。


「それでお願いとは」

「実は…アイゼが王都に直ぐにでも行きたいって言ってるんです」

「「⁉︎」」


 サントの言葉に二人は驚いた。だが二人の驚きは別物だ。

 片方はまるでどうしても自分が行きたいと言う言い方に何を言っているんだという驚き。

 確かにイアンに着いて行こうとはしていたが…。


 もう片方は願いを叶える代わりにどうにか王都へ行ってもらおうと模索していた最中に急に今まで拒否して来た王都へ行きたいと言う事に驚いた。


 驚きもそこそこに町長は思考を変え、嬉しそうに何時も準備万端にしていた書類を取り出した。


「そうかそうか!行ってくれる気になったか!なら王に手紙を…いや、直ぐだとお目通りが難しいか…なら先ずギルドに話をつけて、」

「ちょっと待って下さい、町長さん」


 早速、王都へ行って王への謁見までの流れをどうしようかと考えながら話し始めた町長にサントは待ったをかけた。


「確かに行きたいとは言いましたが、アイゼは王への謁見もギルドにも行きたいとは思ってません」

「なに⁉︎」


 アイゼは一気に嫌な方向に話が進みそうだったので遮ってくれたサントにホッとした。

 だが、こうなった原因もサントだと思い出したアイゼは再びハラハラとサントを見るしか無かった。


「アイゼが王都に行きたいと言ったのは依頼で出会ったイアンさんという方と仲良くなり、その方が王都に行きたいと言ってまして…それにアイゼはついて行きたいんです」

「…ん?」


 いつからイアンと依頼で初めて会った事になったのだろう?


「それでも最初アイゼはついて行く気は無かったんですけど、アイゼが王都に行ける程凄い人物だと分かってその方について来て欲しいってお願いされて行く事にしたんです」


 唖然と見るが、サントの口からどんどん本当が混じりながらの大嘘が吐き出されていく。


「イアンさんはアイゼは王都に行くべき人だと言ってくれたんです。私もそう思います!」

「お、おぉ…」

「それでアイゼも心揺らいで、取り敢えず旅行のついでに行ってみようってなって。ギルドでも手続き出来るのは知ってるんですけどここは是非町長権限の手続きをお願いしたくて今日来たんです」


 サントがギルドに行かず、この町に来た一番の理由は町長権限の手続きをする為だった。


 長として務めている者は年に一回はある城で行われる会議に出席しなければならない。

 その際小さな町や村は近くの大きな街やギルドに行かなくては行けない。近ければ良いが遠い所は難儀してしまう。


 それを改善方法として長と長が認めた数人の手続きを町でも出来る方法だ。認めた数人とは基本その時雇う護衛や補佐役の人の事を言う。

 そして町長に王都行きを頼まれた人も含まれる。


 更にギルドと町長権限の違いは手続きの速さ、それに城の一部に入れる権利があるのだ。

 サントはそれを狙っていたのだ。


 国が絡む今回の件、城に入れた方が良いと思った。念には念をと言う訳だ。


 一方町長はその話を聞いて考えた。

 自分がお願いしても行きたいとは言わない王都。だがそのイアンという人物の言葉には傾くのかもしれないと思った。

 もし、そのイアンに頼めばアイゼは王都に行きたいと自ら言う可能性がある。


 それにこれからの事を考えると城の中を少しでも知っておく方が良いかもしれない。

 イアンに恩を売っておけば良いのではと思った町長は考えの末、町長権限の手続きを行う事に承諾したのだった。


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