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59.紫の実

 

 もぞもぞと地面が盛り上がり、そこからみー君が顔を覗かせる。

 スキルを使って確認したが、目視で辺りに人が居ない事を確認したみー君は地上に出ると身体の下に引っ付いていたイアン達を穴から引き上げる。


「みー君、ありがとう」

「ー!」


 巨大な身体を隠す為に再び穴の中に戻り、頭だけ出している。

 イアンは村のある方向へ振り向き、安心したように一息吐く。


「はぁ…無事抜け出せた」


 エルクラ村で話を聞いている最中に兵士が村に向かっているとコッコ一号が上空から確認したと知らせてくれた。

 村にいる筈の無いイアンが兵士と出会してしまうといろいろ大変な事になっていたので、急いで抜け出して来たのだ。


 なんとか鉢合わせる事もなく、無事に抜け出したが、イアンはほんの少し心配そうに情報をくれた二人を思う。


「多分…大丈夫だと思うけど…」


 だが、いつまでここに居ては怪しまれるし、イアンにはする事がある。後ろ髪を引かれる気持ちだったがポチ達と共にその場を後にするのだった。


 その頃、アンナの家に村に来た兵士二人が来ていた。

 入って来るなり、子供を見せろと言うのだ。


「止めてください。エリンは体調が思わしく無いんです」

「いいからどけ!」


 ズカズカ入って、兵士は部屋で寝ているエリンの布団を剥ぐ。

 眉を顰めて苦しそうにしているエリンの腕を取り、眺める。


「…治って無いようだ」

「ならこのままで良いか…よし、あの方に伝えに行くぞ」


 エリンの腕が所々黒くなっている事を確認した兵士は直ぐ家から去って行く。

 家の外で見送ったアンナは中に入ると長い溜息を吐いた。


「…本当にイアン君の予想通りになったと言う事かしら」



 ◇◇◇



 時間を少し前に戻す。

 イアンはあり得ない想像を頭の片隅に追いやり、医者の情報を知っていそうな家族を当たった方が良いかもしれないとアンナに聞いていた。


「この村の医者に、家族はいますか」

「えぇ、今は奥さんと二人暮らしよ」

「あの、家の場所教えてもらっても良いですか」


 家の場所を言おうとしたアンナはある事に気付いた。


「そう言えば…奥さんも、あの夜から見てないわ」

「え?…家族も逃げたって、事か?」


 医者同様に国に協力的であるなら混乱の最中に医者と一緒にこの村から居なくなるだろうとイアンは思った。

 しかし、それは難しいとアンナはその考えを否定した。


「奥さんは昔の怪我で足が動くなったの。一人で移動は出来ないし、お医者様は腰を痛めてて一人じゃ移動は無理だわ」

「でも、他の医者に協力してもらえれば…」

「実は、騒ぎになるほんの少し前に一度エリンの側を離れたんだけど、その奥さんのところに行っていたの。その時お医者様は、居なかったわ」


 騒ぎになる少し前に会っているとなると騒ぎになって時間も立たないうちに村人が家を訪れている。

 という事は騒ぎになった直後頃に移動させた事になる。


 しかし、医者達が誰にも気付かれずに家に戻り、人一人抱えて移動する事は難しいとイアンは思った。


 医者という職業は患者を持ち上げたりするので体力が必要になる事が多い。だから抱える事自体は出来そうだが、俊敏に動けるかはまた別の問題だ。


 医者も医者の家族もいないとなるとこれ以上情報は得られないか、とイアンは肩を落とした。


「わたし、知ってる!」

「は?」


 急に話に入って来たエリンはぐったりとしたタマを抱えながら、イアンに近付いて来る。


「あのね、ママを待っていたら村がさわがしくなったの。その時、家の外からいつものおいしゃさんの声が聞こえたの」

「え、あの騒ぎの時家の側に居たの?エリン、なんて聞こえたか覚えてる?」

「んーと…」


『まて』

『なんで』

『かんじゃ』

『くすりは』

『みごろしにするのか』

『かぞくが』

『つまは』

『どうなってもいいのか』

『はやくこい』


 エリンがうろ覚えの聞いた事を次々言っていく。そしてエリンによるとこの会話は村の医者以外に三人は居たと言う。

 その三人の内の二人は応援に来た医者である可能性が高い。


「…待て、なんで、患者、薬は、見殺しにするのか、家族が、妻は、どうなってもいいのか、早く来い…」


 もしも、この会話がその意味通りならば医者達は黒皮病から村人を救う為にルーク達を呼んだ。


「だけど、家族を人質に取られて、ついて行かざる追えない状況、だった?」


 イアンの中で再び憶測が加速する。


 ルーク達を陥れたかった国がこの都合の良いタイミングで医者の家族を人質にして、医者達を連れて行き、再発した黒皮病の連絡をさせなかった。


 そして、村人の治療は怪しい男の薬のせいにより効果が阻害され、エリン以外亡くなってしまった。その責任をルーク達に押し付けた。


 だが、一つの村での複数の人の黒皮病の発症、ルーク達が帰った後に現れた怪しい男の薬、兵士の対応、全てタイミングが良すぎた。


 その舞台を唯一用意出来るのは、国だ。


「コケ」

「っ⁉︎」

「あー!にわとりだぁ!」


 イアンの思考を遮るように鳴いたいつの間にか家の中にいたニワトリ。

 ニワトリは近付いてくるエリンを華麗に交わすとイアンの頭に着地した。


「コッコ?」

「コケ」


 このニワトリは上で偵察していた筈のコッコ一号だったのだ。

 コッコ一号には何かあれば連絡してくれと頼んでいた。そのコッコがイアンの元に訪れた。と言う事は。


「コケコケコッコ」

「なっ、兵士がこの村に来ようとしてる⁉︎」


 もしかしてここに侵入したのがバレたのか、と考えたが、村人では無いイアンがここに居るのは良く無いと取り敢えず慌てて広げていた素材を薬箱に詰め込む。


「ポチ!タマ!逃げるぞ!」

「ワン!」

「にゃ!」


 適当に詰め込んでアンナ達に挨拶して外に出ようとしたが、ふと動きを止めた。

 またタイミングが良いと思ったのだ。


 兵士が来るにしてはイアンが侵入した時からは時間が経ち過ぎている気がした。だが、エリンを治してからそれ程時間が経っていない。


 侵入したのがバレたのかと思ったが、エリンが治った事を何かしらで感知して来ようとしているのでは無いのかと思ったのだ。


「…村の封鎖は、最後の黒皮病のエリンを隔離しておく、為」


 だから、治ったかを確認の為に訪れようとしている。

 もし治っていればルーク達の薬は効いた決定的な証拠になる。イアンにとっていい事で、国とっては悪い事。


 そうなれば不味いと思い、エリンを何処かへ監禁、もしくは最悪な事態が予想される。

 そうなってしまえば、イアンにはどうする事も出来ない。


 イアンはこの予想は極端であり、間違っているかもしれないと思いながらも、念には念をと薬箱から乳鉢と紫の実を取り出した。


「どうしたのイアン君」


 兵士が来たとしてもエリンを助けてくれたイアンの事を何も言わないつもりだったアンナは見送ろうとしていた。

 ところが逃げようとしていたイアンが急に玄関先で実を潰し始めて不思議そうに見るアンナ。


「よし」


 潰し終えたイアンはエリンを手招きする。そして説明無しに近付いたエリンの肌に布を使って実を潰した汁をポンポンと叩き塗る。


「くふふ、くすぐったい!」

「えぇ⁉︎なにしてるのイアン君⁉︎」

「…俺の勘違いなら、良いんですけど…もしかすると兵士が、この家に来るかもしれません」

「えっ?家に?」

「村が封鎖された後、一度兵士が来ませんでしたか」

「えぇ、確か…黒皮病の患者が亡くなった直後くらいに。そうだわ、その時エリンが生きているのを気にしていたわ」

「治っているって事が分かると、良くない気がして…」


 塗り終わると一応と紫の実が入った袋をアンナに渡した。


「あの、急に来ていろいろ教えていただいて、ありがとうございました」

「いいのよ。私こそエリンの事ありがとう」


 イアンはアンナに頭を下げるとポチ達と共にみー君の穴へと向かったのだった。



 ◇◇◇



 兵士が帰ったと分かった途端、エリンは飛び起きてアンナに抱き着く。


「ママ!わたしの演技どうだった?」

「上手だったわよ、エリン。よく我慢したわね」

「えへへ」


 苦手な食べ物を口に入れているのを想像して嫌そうにしていた姿は兵士達にとって黒皮病で苦しんでいる様子に見られる事に成功したらしい。


 そして、イアンがエリンの肌に塗った紫の実は黒皮病に見えたようで、作戦は成功だった。

 よく見ると黒皮病とは違う色だと分かってしまうが、紫の実は潰して空気に触れると黒く見えるのでパッと見は分からない。


「まだ安心出来ないから当分は家から出ちゃだめよ。それに人が来そうになったら部屋に隠れて、これを塗るのよ」

「えー」

「エリン」

「…はーい」


 家から出られないと言われた瞬間、嫌そうにするがエリンを守る為に出来る事はなんでもする。

 アンナはここまでしてくれたイアンに感謝しながら、イアンの家族の無事を祈るのだった。


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