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5.笑うテイマー

 

「うぅ…」

「泣くの止めるですにゃ。泣きたいのはご主人の全身を見てしまったお嬢さんにゃ」


 机に突っ伏して泣くイアンの膝をぽんぽんと叩いて一応慰めるタマ。


 二人が叫んだ後、悲鳴を聞きつけたタナカさん(妻)。サントが顔押さえしゃがみ、イアンが風呂に居ない。何があったかを悟り、タマに着替えを渡してサントとアイゼを家に引き入れた。


 着替えを渡されたタマはイアンに駆け寄った。涙目になりながら受け取るともぞもぞと着替えを始める。

 その間にタナカさん(夫)は風呂の火を落としていた。


 タナカさん(妻)が椅子に座らせ、サントとアイゼに飲み物を用意している間にイアンが着替えを終え、ポチとタマとタナカさん(夫)共に部屋に入って来た。

 イアンは部屋に入ると二人の側にあった作業台の方へ行き、椅子に座ると机に突っ伏したのだ。


「カタカタ」

「あ、どうも」

「ありがとう、ございます」

「うちで取れたリンゴのジュースですにゃ」


 それぞれにリンゴジュースが入ったコップを渡すと隅の方に居た夫の隣に立つ。

 ポチはイアンの足をカジカジ噛んでイアンは泣くのを止める。


「ポチ…痛い」

「ワン!」

「分かってるって」


 ポチの頭を強めに撫でて、面倒になる事を覚悟を決め顔を上げる。


「で?何のようだ?」

「えっと、昨日はアイゼを助けてくれてありがとうございました。アイゼがお礼を言いたいって」


 そう言われ、イアンはアイゼをチラリと見る。アイゼはニッコリ笑って頭を下げる。


「初めましてアイゼです。俺を助けてくれてありがとうございました」

「別に…成り行きだっただけだ。礼は終わっただろ?帰れ、二度と来るな」

「そうはいきません」


 シッシッと手を払うイアンに待ったをかける。怪訝そうにアイゼを見るイアン。サントも不思議そうに見つめる。


「イアンさん、貴方テイマーなんですよね?それなのにここにいるのは魔物だけ。それっておかしいですよね?」

「…そうだな」


 本来の職業のテイマーは動物や聖獣をテイムし、従える事。魔物はテイム出来ないどころか、そもそも人類の敵である魔王の従属である。テイムするなどもってのほかだ。


 ところがイアンはテイマーでありながら動物や聖獣が居らず、魔物を従えている。

 二人を助けてくれたが、イアンはもしかすると魔王の配下なのかもしれないとアイゼは考えた。もしそうなら危険は承知だが、放っては置けなかった。


「なんで魔物といるんですか?まさか魔王の配下なんですか?」

「アイゼ⁉︎何言ってるの⁉︎」


 サントは驚きでアイゼに詰め寄る。助けてくれた人をまさかそう思っていたとは想像していなかった。

 そんな中、下を向いたイアンの肩が震え、笑い出す。


「ふ…ふふっ、あははは!俺が魔王の配下だって!」

「…笑い事ですか?」

「あんなに、あんなに!出来損ないって言われた俺が、魔王なんて人類最大の敵の配下って単語が出るなんて、笑わずにいられるか、あはは!」


 まさか笑うとは思ってなかったアイゼは、本気で笑い出したイアンにたじたじになる。

 笑い過ぎて咳き込み出したイアンの背をタナカさん(妻)が優しく摩る。


「あー…笑い過ぎた…」

「ご主人説明してあげたら良いんじゃにゃいですか?」

「面倒。それにもう会う予定が無い人に説明の必要はない。と言うか面倒」

「二度言ったにゃ」

「タマ、そいつらの追い出し頼むわ」


 そう言ってコップを持って部屋から出て行ってしまった。イアンを追いかけるようにポチも一緒に出て行き、裏庭に着くと椅子を出して座り込み、ポチは傍に座り込んだ。


 そんな様子を部屋の窓から眺める。タマはやれやれと溜息をつく。


「ご主人は動物や聖獣をテイムしたくても出来ないですにゃ」

「え?どいう事?だってテイマーでしょ?」


 この世界は十二歳になると神から告げらる職業にしかなることができない。

 神からの宣告は絶対であり、逆らう事はしない。それにその職業にあった能力も与えられる為、余程の事が無い限り変えることは出来ない。


 だからイアンがテイマーであるならテイムができない筈が無い。


「ご主人の職業は確かにテイマーですにゃ。けどステータス覧ではテイマーの後に何故かこんな文字がついていたのですにゃ」


 そう言って近くにあった紙に書いたのは"テイマーα(アルファ)"。


「ご主人はテイマーでは無くテイマーα(アルファ)。だから魔物しかテイムが出来ないのではないかと我々は考えましたにゃ」

「そんな職業…聞いた事ない…」

「私達も知らなかったですにゃ。でもそんな事どうでもいいのです。今は、ただご主人と一緒にずっとこの日々が過ごせれば…だから」


 いつの間にかタナカさん(夫婦)がアイゼの後ろで包丁と鍬を持って立っていた。

 タマは手を組み、二人を警告するように低い声を出す。


「それを壊すと言うなら、私達は容赦はしません」


 ピリと空気が張り詰める。下手に動けば殺される雰囲気に一歩も動けない。親しげに話しかけても魔物である事に変わりは無いと思い出した二人の血の気が下がる。


「にゃーんて!」


 にぱっと笑って急に空気が壊れる。タナカさん(夫婦)も持っていた物を下ろす。

 二人はホッと息を吐く事が出来た。


「だから魔王なんて関係無いですにゃ。でもご主人は職業で色々揉めたらしいとポチさんが言ってましたにゃ。だから、傷を広げ無いで欲しいですにゃ」

「…分かり、ました」


 まだ納得した様子ではないと感じたタマはアイゼの手を掴むと扉の方へ引っ張る。


「な、なにっ?」

「坊ちゃんはご主人とちゃんと話して納得して下さいにゃ。その間お嬢さんは一緒にタナカさん(妻)のお菓子食べましょうにゃ!」


 そう言ってアイゼを部屋から放り出し、扉を閉められアイゼは途方に暮れてしまった。


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