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52.間も無く村に到着です

 

 治療を受け、安定した患者を見て助かると安心したあの日。夜も更けて日が変わる頃、静かな時が訪れるそんな時間に村は大騒ぎになっていた。


「しっかりしろ!」

「大丈夫だから、すぐ医者が来るから!」


 ルーク達が薬を処方してから安定していた患者が突然一斉に苦しみ出したからだ。肌が黒くなるスピードは薬を飲む前と比べても早く、それに比例して痛みも強くなり、苦痛に顔を歪めていた。


 症状が落ち着いたという事でぎゅうぎゅうな部屋よりもとの案で自宅に戻っていた患者達は再び集められていた。


 村人の一人は数人常駐していた医者に症状を知らせに走った。医者達も寝ずの番で疲れているだろうと布団で交代しながら寝ている場所に向かった。


「先生、大変です!患者の容態、が…?先生?」


 勢いよく入り、何が起こっても直ぐ対応出来るように入り口側で寝ている医者を起こすように声を大きく話しかけたが、何故か全ての布団が空だった。

 数部屋しか無い部屋を見ても誰も居なかった。


「な、なんで…」


 唖然と呟くが、もしかしたら村の騒ぎに気付いて自分が来る前に行動を起こしたのかもしれない。

 そう思った村人は元来た道を戻って行った。



 ◇◇◇



「じゃあ、行ってきます!」

「行って来ます、イアンさん」


 一旦、食事をしようとサント達が土産で持ってきた魚をメインとした昼食を食べ、食事を終えると二人は勢いよく飛び出して行った。


「あー…食後の一息つきたい」

「もー、ご主人も行動するにゃ!」

「ワン!」


 ポチとタマに急かされるが、いつものように休憩出来ないせいでのろのろとした動きをしながらイアンも用意をしていく。


 服装はギルドでも着た服を引っ張り出し、感染方法が未だ不明な黒皮病を懸念して黒皮病の為の薬の素材やそれ以外のもしもの為に片っ端から素材を詰めまくる。


「うぐっ、お…重いっ」


 薬箱を背負うが流石に入れ過ぎたのか足元が覚束無い。だが、妥協してしまえば何かあった時対処出来なくなる。

 そう思ったイアンは荷物はそのまま、踏ん張りながら一歩一歩踏み出した、が。


「無理、だぁ!みー君!」

「?」


 イアンに呼ばれたみー君は地面から不思議そうに顔を出す。イアンはみー君に全身を地面から出てもらうと身体に重たい荷物を紐で括り付けた。


「よし」

「いや、よし?え、みー君連れて行くんですかにゃ?」

「あぁ」


 みー君は基本土の中で暮らしているが巨大な魔物は発見されやすいので下手をすると退治されてしまう。なので基本的にこの空間から出す事はしていなかった。

 みー君も特に空間の敷地だけで不満はなかったので外に出たいという欲求はなかった。


「侵入と逃走経路確保要員だ。考えてみろ。国が絡んでたら村周辺を警備している可能性がある。その場合中に入る事が出来ないだろ?」

「確かに…でも、村に入った瞬間魔物を探知する『警報板』があったらどうするんですにゃ?」

「そうしたら上部だけ土を盛って穴を隠して、一時退却だな。で、落ち着いた頃合いで俺が板を抜いて、皆んなで中に入る」


 皆んなと言っても今回行くメンバーはイアンとポチ、タマ、みー君、コッコ一号の計四名。

 みー君は進路確保、ポチとタマはイアンの精神的癒しの為。コッコ一号は上空から辺りを警戒してもらう計画だ。


 今回タナカさん(夫婦)は転身(ターンオーバー)が出来ないないので人間に変装して一緒に行くという事も出来るが、一瞬のすれ違いなら気にならない事でもジッと見られるとやはりタナカさん(夫婦)の変装は怪しい為留守番。

 コッコ二号は卵の温めの為に留守番だ。


「よし、準備出来たし行くか」

「クゥン」

「にゃー、ご主人麦わら帽子は止めて下さいにゃ」


 ポチとタマが出発しようとするイアンに苦言を言う。まだ日が出ているのでギルドの時よりましだが、冒険者の格好で麦わら帽子というよく分からない格好は怪しさ満点。

 これでは警戒して話すものも話すなると言うポチ達にイアンは渋々麦わら帽子を脱ぎ、側に居たタナカさん(妻)に手渡した。


 これで出発だ、と村に向かった。

 ポチとコッコ一号は既に転身(ターンオーバー)しているのでタマにだけスキルを使い、みー君は地面からスキル『探知(レーダー)』を使いながらイアンの位置を特定して地中から追いかける。


 だが、イアンの足取りがどんどん重くなっていく。

 先程まで自分が話し合って情報収集するという事に何も疑問を持っていなかったが、そもそもイアンは人が嫌いで話す事も嫌いだ。


 ところが村に近付くにつれてその事に漸く気付いた。顔を隠す為の麦わら帽子も置いてきてしまったし、転身(ターンオーバー)出来なくて怪しさ満点の変装でもタナカさん(夫婦)を置いていくという判断を普段ならしていなかった。

 イアンは自分が思ったより家族の命の危機にパニックになっていたのかと頭を抱えた。


「、あー!なんで俺がこんな事しなきゃいんぐっ⁈」


 全身を巡るよく分からない怒りをぶつけるように叫ぶが、肩に乗せていたタマが両足でイアンの口を塞ぐ。

 ペシペシと足元でポチも咎めるように尻尾で叩く。


 実はポチが近くに人の気配を察知して知らせようと小さく吠えていた。しかし、イアンは気付かず、タマも尻尾で頭を叩くがのろのろ進む。

 それどころか、急に叫び出したイアンの口を慌てて塞いだのだ。


 丁度その時、上空を飛んで辺りを警戒していたコッコ一号も人を発見したので、報告の為にイアンの頭上に降り立った。


「コケコッコ」

「村の入り口から五十メートル離れた所に武装兵がいる、か…行くの、止めるとか…」

「ワン!ワン!」

「にゃー」

「はぁ…分かった、もうヤケだ!とことんやってやる。みー君」


 腹を括ったイアンはみー君を呼ぶとその声に応えてみー君はひょっこり頭を出した。


「みー君、早速だけど出番だ」


 みー君は一度地中に潜り体勢を整えると身体の後ろを再び地上に出した。イアン達が捕まるとみー君は村へ向かって地中を進み出したのだった。


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