47.真実を確認しに
「ポチ、タナカさん(夫)。確認に薬師の里行くからついて来てくれ」
イアンは記事を見て固まっていたと思えば、急に二階に上がってしまう。数分も立たないうちに黒いマントを羽織って降りて来るとポチとタナカさん(夫)に声をかけた。
「どうしたんですにゃ?私達も行きましょうかにゃ?」
「その魚台無しにしたくないだろ。先食べて良いから」
詳しい事を言っていられないのか早口でそう言うとさっさとイアンは外に出てしまった。
慌ててポチとタナカさん(夫)がイアンを追いかけて行く。
「待って下さい!」
「イアンさん!俺達も行きます!」
その後ろからアイゼとサントも後を追いかけてしまった。
事情を把握していないタマとタナカさん(妻)は魚どうしようと顔を見合わせるのだった。
◇◇◇
イアン達は道から少し外れた森の中を走っていた。
相変わらず人と会う事が嫌で、尚且つ魔物のポチとタナカさん(夫)を連れていた為である。
道中イアンはポチに事情を聞かれ、目的地の薬師の里に向かいながら先程見た板の情報を説明した。
「…家族が捕まろうとどうでもいい…ただ、薬を使って他人を殺すなんて絶対にありえない」
薬は量や飲み合わせによっては毒にもなる代物。
その扱いを誤る事は絶対に許されないとイアンが小さい頃から何度も何度も言っていた家族が殺人の為に薬を使うことはイアンの中ではありえない事だった。
ふと、イアンはその場に立ち止まった。この道は昔から人通りは少ない。それなのに前から沢山の馬の蹄の音が聞こえて来たからだ。
「イアンさん?行かないんですか?」
「…いや」
馬に騎乗する兵士がニ台の馬車と共に横切る。
一つの馬車は古ぼけて荷物を入れるような作り、もう一つの馬車は絢爛豪華な客車。
過ぎ去っていく後ろ姿を見ながらアイゼは隣にいたサントに気付いた事を言う。
「サント、あの馬車…この国の紋がついてる」
「えっ、国が介入してるって事?こんなに早くに?」
国は国を揺るがす事件が無い限り基本的に事件のあった村や街の守兵などが解決する。
仮に国が介入する場合でもこんなに早く出て来る事はまずない。
「…主犯に俺の父親がいるせいだ」
「え、父親?」
「簡単に言えば国と繋がりがある。それなのにこんな事件を起こしたと情報が出たからには国が動いたんだろ」
「イアンさんの家族…なんて言うか凄いですね」
サントの言葉にイアンは眉を顰める。家族は凄い、けど自分は劣っていると改めて感じてしまった。
更にそう考えてしまった自分に嫌気がさして深い溜息を吐き、再び里に向かって走り出した。
◇◇◇
里の入り口手前まで来ると馬が三頭家の前に居るのを見つけた。
「チッ、まだ誰かいるのか」
悪態をついたイアンの声が聞こえたかのようなタイミングで家から全身鎧を纏った兵士二人と冒険者がよくするような格好したアイゼ達と同い年くらいの一人の少年が出て来た。
「あれ?アイゼあの人って…」
「え…あ!やば…っ」
少年はバッ顔を上げて里の入り口付近の木々の方を見た。何か聞こえた気がしたとジッと見ていたが首を傾け、不思議そうにしている。
「どうされましたか」
「…いえ」
兵士に声をかけられて視線を戻すと馬に乗り、兵士二人と共に里から出て行く。
遠く見えなくなった頃、木の影に隠れていたイアン達が体制を崩した。
「いってぇ…変な捻り方した」
「クゥン」
そう言って腰を押さえるイアン。ポチとタナカさん(夫)は心配そうにイアンの腰を摩っていた。
あの少年を見た途端、アイゼが隠れて!と小さく言ってよく分からないまま反射的に隠れた。
ところが、イアンの側にあった木は太い幹だったが腰までの高さしかなく、そこから太い枝が斜め右上に伸びていた物だけだった。
隠れた際、その枝ぶりに合わせて勢いよく腰を退け反らせてしまったのだ。
グキッと変な音したが気合いで我慢したイアンは今ではその場に崩れ落ちていた。
「取り敢えず"ヒール"かけますね。多分私の回復魔法でも動けるくらいにはなると思うんで」
サントがイアンに回復魔法をかけている間にアイゼが先程の少年について語り出す。
「さっきの、コナーっていうんですけど俺とサントと一緒に職業授かったうちの一人なんです」
コナーの職業は聞かなかったそうだが、優秀なスキルを持っているとアイゼと共に王都に行くメンバーに選ばれたそうだ。
ただ、アイゼは行きたくないと王都行きを拒否した際、コナーが突っ掛かって来た。
曰く俺たちは選ばれた、王都へ行けるのは名誉だといつかの町長夫妻のような事を言ってきたのだ。
「止めて来るコナーがウザくてボコボコにしました」
確かにアイゼは王都が行きが嫌でイアンの元へ逃げて来た。だから他人とっての幸せを押し付けられてウザい気持ちはイアンも分かった。
だが、分かるにしても満面の笑みでボコボコにしたと言うアイゼにイアンは引いた。
「それから何回か会ったんですけど、どうも恨まれてるみたいで会う度絡まれるんです。見つかったら面倒な事になりそうだったんで隠れました」
「…あ、そう」
もう聞く気も起きないイアンはポチとタナカさん(夫)に見張りを頼み、"ヒール"でよくなった腰を摩りながら里に向かって歩き出したのだった。




