46.市長は関係ありません
ぽかぽかの天気の中、イアンは長椅子に寝転がってうたた寝をしていた。
空間を新しくしてからは今まで椅子の側にあった木は無くなってしまったので、長い木の棒を四箇所刺し、上に布をかけて日除けを作っていた。
イアンのお腹を枕代わりにポチとタマも一緒に寝ていた。
タナカさん(夫婦)は家の片付けや畑の作り直しで後回しになっているコッコ達の小屋を作っていた。
その周りをコッコ達は交代で卵を抱卵しながら眺めていた。
寝ていたポチはピクリと耳を動かし、外の音を拾う。ゆっくり顔を上げて家の隣の小道を見つめると最近入り浸っているいつもの二人がやって来た。
「こんにちはー」
「イアンさんお土産持って来たんですよ」
「んぅ…ぁ?」
名前を呼ばれて呻きながら目を無理矢理開けるイアン。ぼんやり上を見ていたが自身を呼んだ声にポチ達では無いと気付き、再び目を閉じて寝ようとする。
だが、近付く足音と更に大きくなる声に眉を顰めながら目を開けた。
「イアンさーん?」
「…うるせぇ」
「やばっ…寝て、ました?」
「…寝てた」
欠伸をしながら起き上がり、まだ寝ていたタマの落ちそうになった身体を支えた。
むにゃむにゃ口を動かしながら眠るタマを優しく撫でながら、起こされた恨みを二人に向けた。
「またか、またお前らか。何度来たら気が済むんだ」
「えへへー」
「笑うな。しかも、最近は来る頻度が高い」
「まあまあ、今日は良いもの持って来ましたから!」
そう言うとサントは手に持っていた袋に手を入れると掴んだ物をイアンに差し出した。
「にゃっ」
目の前に差し出されたのはダンジョンでよく見かける魚、おめでたい時食べるとされているメデタイ。
唖然と見るイアンとひきかえ香りがしたのか幸せそうに寝ていたタマが飛び起きた。
「あ、間違えました。これは師匠のお土産でした」
「本当ですにゃ⁉︎」
「はい!」
「早く食べますにゃ!タナカさーん(妻)!タナカさん(夫)!」
早速調理してもらおうと椅子から飛び降りるとタナカさん(夫婦)が作業しているところまで走って行ってしまった。
愛おしそうにタマを見送ったサントは見えなくなると袋に再び手を入れて一枚の板をイアンに差し出した。
「なんだ、これ」
「これ今流行ってるんですよ」
「…意味の分からない、流行りだな」
何も書かれていない、鉄で出来た薄い板。流行っているというこんな意味不明な物を渡されてイアンは投げ捨てようかと考える。
それに気付いたのか慌てて説明し出す。
「ただの板じゃないですよ!これ最新の記事を映し出すんですよ」
「最新の記事?」
「記事って紙に刷ったりして翌日とかに公開されるじゃないですか。でも、早く知りたい情報あったりするじゃないですか?」
「その解決策としてこの板です!この板に力込めると最新情報が出て来るんですよ!」
やってみて欲しいとアイゼが側から圧で促して来るので渋々力を込めると板に文字や写真が浮かび上がって来た。
「へぇ」
『市長の髪が飛ぶ!?七の月の二日の本日、風の強い中、演説中の市長の頭から黒い物が飛んだ。それはよく見ると髪の毛で…』
途中で読む気が失せた。
すごいと思ったが、記事の内容に一瞬にして気持ちが飢えた。
「なんだこの意味の無い記事。市長の髪事情なんてどうでもいいだろ!」
「いえ、この市長いつか「髪の毛は自前です!」と話していたのに嘘をついたと信頼度ガタ落ちですよ!」
「だとしてもこんなのいち早く知りたくはねぇ…」
「その板俺とサントがもらったんですけど、どうせ一緒にいるから一枚イアンさんにどうかなって」
イアンは特に要らないと思った。
だが、外に出る機会が殆ど無く、周りの情報に疎かったイアンはいちいち外に出なくても知る事の出来るこの板は偶に訪れるであろう時に役立つのでは?と考えた。
「まぁ…もらう」
ポチはありがとう一言も言わないイアンをジト目で見るが気付かないフリをして受け取った。
そこにタナカさん(夫婦)を連れたタマが戻ってきた。
「タナカさん(夫婦)連れて来たですにゃ!早速調理ですにゃ」
ドタドタと騒がしく家の中に入っていくタマ達に自分もお茶が飲みたくなったイアンはポチを抱えながら後に続く。
アイゼとサントも便乗して家の中に入って行く。
タナカさん(妻)が魚の調理、タナカさん(夫)はイアン達の為にお茶の準備を始めた。
イアンはその間に作り置きされていたクッキーを持って来て二人の前に置いた。
「え、食べていいんですか?」
「あぁ、食べろ。このクッキーは一度に沢山口に入れる事を推奨する」
「やった!いただきまーす」
アイゼは勧められるがままにポイポイと口に数枚入れてボリボリ食べる。サントはそんなに入れる事は出来ないので一枚ずつ食べていく。
「これ美味しいですけど口の中の水分すごい取られますね」
「んぐっ⁉︎」
そう言って感想を言うサントの傍ら、ピタリとアイゼの口が止まる。何事かと思ったが、サントはあっと気付いた。
このクッキーは一枚を少しずつ食べても口の中の水分を取られる。それなのにイアンの勧めらたままに沢山食べてしまったのだ。
アイゼは口を押さえて必死に飲み込もうとしているが苦しそうに眉を顰めていた。
水を飲もうと立ち上がるが、そこにイアンが遮る。なんでと目を開いて見つめる先でイアンは片手に持っていたクッキーを悪い顔をしながらアイゼに差し出した。
「ほら、もっと食べろよ」
「⁉︎」
これ以上食べられる事が出来ないのにイアンが差し出すクッキーが魅力的で目が離せない。
こんな親しい人にしかやらない食べさせるという行動。自分はイアンにとって親しいに値する位置になれたと目を輝かせ、舌で口の中に無理矢理空間を作り上げ、パクリと食べる。
「むぐ…ぅ‼︎」
「ほら、ポチ。あそこに馬鹿がいるぞ」
「クゥン」
更に口の中から水分が吸い取られ、苦しくなって崩れ落ちた。
そんなアイゼを馬鹿にしながらイアンはポチに共感させようとする。
そんな中、タナカさん(夫)が準備を終えてお茶を持って来た。苦しそうにしていたアイゼに気付きタナカさん(夫)はお茶を汲むとアイゼに差し出した。
「ゴクッ、ぅぐっゲホゲホッ」
「アイゼ大丈夫?」
「へ…い、きぃ」
イアンはタナカさん(夫)からお茶でも受け取って咽せるアイゼを尻目にクッキーをちまちま口に入れてお茶を飲んでいた。
暇つぶしにとさっきもらった板を眺める。先程の市長の記事が消えて新しい記事が何個か出ていた。
「…はぁ⁉︎」
ガタンと椅子を倒して立ち上がる。
なんだとポチ達が見るが驚愕に目を開いて板にしか向いていない。
「ご主人?」
「ワン?」
呼びかけても反応しないイアンにサントは持っていたもう一枚の板に力を込め、記事を見た。
左右に動かし呼んでいくとだんだん青褪めていく。
「えっ、これって…」
「サント?」
『薬を使い大量虐殺⁉︎マグリ村で薬を使い村人二十人強死亡。主犯として薬師の里のルーク、エヴィン、シエラを身柄を拘束』




