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40.タオルの必要性を知る

 

「と、言うわけです」


 アイゼとサントから自分の家に来た経緯を聞いたイアンはコッコ達の危うい行動に頭を抱えてしまった。


 コカトリスは凶暴性を持ち合わせているが倒せない魔物ではないとされている。鶏の部分は食用、蛇の部分から毒を抽出すると活用法があり、よく狩られている。


 そんなコカトリスであるコッコ達はイアンを助ける為にアイゼとサントがいる可能性のあったギルドに向かい、目立つ行動を起こした。

 下手をすると狩られてしまう事を分かっていながら。


 コッコ達に怒ればいいのか感謝したらいいのか、イアンは悩む。


「…そう言えば、ここどこだ」


 悩んでいたイアンはふと二人が来る前までの疑問を口に出す。

 最後の記憶にあるのはポチ達がボロボロになってイアンを見ていたところで終わっていた。そこから次にある記憶は何故かタオルが顔にかけられていたところ。


 イアンはこの意味不明なタオルの端をつまみながらこれもなんだと呟く。


「そのタオルは…俺達も意味わからないんです」

「でも師匠が「ポチさんが顔が分からないようにして欲しいと言ってますにゃ」って言ったんです」


 ポチが頼んだ?

 その言葉にイアンは首を傾ける。ポチがそんな意味の分からない事をわざわざ頼む理由が思いつかなかった。


 だが、続く会話でその理由を知る。


「本当はギルドに連れて行こうと思ったんです。でも、ここに来る前にパーティー総崩れがあって、その治療にヒーラーの人達居なくて」

「そうしたら近いところヒーラーがいるって、薬師の里に来たんです」

「…なんだって」


 今、聞き捨てならない言葉を聞いてイアンは固まった。

 思わず聞き返していたが聞き間違えでは無かった。


「えっ、だからギルドに人が居なくて薬師の里にいるヒーラーのところに来たんです」


 イアンは重たい身体に鞭打って側の窓から外を覗く。そこは見慣れた景色が広がっていた。


「マジ、か…」


 どう見てもイアンの実家のある薬師の里だった。


 そしてイアンの記憶にある薬師の里のヒーラーに心当たりがあり、ポチが顔を隠すように言った理由を知る。


 ちょうどその時、コンコンと扉を叩く音がした。サントが応えている間にイアンは顔のタオルを慌てて元の位置に戻した。

 扉が開く音と共に一人の女性が入って来る。


「怪我の方、目覚ましたか?」

「はい。ありがとうございました、ソフィさん」

「そうですか、良かった」


 その聞き覚えのある名前にやっぱりと誰にも気付かれないように肩を落とす。


 薬師の里と言うがここに暮らす全員が薬師というわけでは無い。

 医者だったり、薬草を育てたり、必要な道具を作ったりと治癒に必要な人材が集まった里だ。

 ただ始まりが薬師の職業の人だけだったのでその名残が今も残っている。


 ソフィ、この女性も薬師では無くヒーラー。

 そしてイアンの兄エヴィンの幼馴染みの一人だ。


 ソフィはイアンの顔を知っている。もしも顔を見られるといち早くエヴィンに伝わり、ここにいる事がバレる。

 一人どうやって早くここから去れるか意識を飛ばしているうちにソフィが側までやって来ていた。


「初めまして。今回治療に当たりましたソフィです。えっと、貴方の名前は…」

「あ、この人はイアン、」

「イアンソニーですっ」


 イアンの名前を言うアイゼの言葉を割り込み、偽名を口にだす。アイゼとサントはえっ?とイアンを見るがバレる訳にはいかないイアンは二人を無視する。


「イアンソニーさん、ですね。傷の具合はどうですか」

「もう絶好調です!帰ります!ありがとうございました!」

「あ、待って下さい!」


 勢いに任せて立ち上がり、ここから脱出しようとするがソフィに止められてしまう。


「ヒールは身体の細胞を活性化させて短時間で治すので身体に負担がかかります。今回はある程度まで治しましたが、まだ完全には治ってない筈です。薬を毎食後飲んで下さい」


 そう言って薬を差し出される。さっさと帰る為に受け取ろうとイアンも手を伸ばすがその腕を掴まれた。


「っな、に」

「顔、見せて下さい。見せたく無いって言われましたが、一度は顔色もチェックしておかないといけません!」

「結構ですっ」


 離そうと腕を引っ張るが負けじとソフィも引っ張り返す。何度も何度も引っ張り合うがお互い譲らず、一進一退。

 それから何分も同じ状態が続いた。


「も、もう!いい加減にしてして下さい!」

「そ、それはこっちのセリフだ!」


 力はイアンの方が強いが兄の幼馴染みとあって思いっきり引いてバランスでも崩し、怪我でもされたらと思うとどうも力を入れられなかった。

 無駄な攻防に息が切れ始めた二人は動きがだんだん遅くなっていった。


「止めたら良いのか、なぁ」

「でも、イアンさん見られたくない事情があるみたいだし…」


 アイゼとサントは二人の攻防を扉の近くで見ながらヒソヒソ話す。

 そんな中、再び部屋の扉が開いた音が聞こえ二人が振り返る。


「えっ?」

「あ、れ?」


 一人の青年が入って来て二人はその顔を見て驚く。何故ならどこかイアンに似た顔だったからだ。

 二人に気付いた男は軽く会釈をすると未だに言い合ってるイアンとソフィに近付く。


「ソフィ」

「えっ、あ!」

「っ」


 嬉しそうに声を上げるソフィ。対してタオルで見えないが知ってる声にイアンは声とは反対の方向を向く。


「エヴィン!」


 ソフィの弾んだ声がイアンの兄エヴィンの名を呼ぶ。


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