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38.諦めてしまった

 

 巨大なミミズ、魔物ワースワーム。名をみー君。


 ワースワームは攻撃力が魔物トップクラスで危険度が高く評価されていた。


 そんな危険な魔物みー君とイアンとの出会いは本当にたまたま。

 イアンがスキル"不可侵の領域"で住む空間を作り上げた時、土壌環境の良い畑を作ろうと外で土を掘ってミミズを探していた。


 実家の側の畑には直ぐ見つけられるミミズがこの自然の多い場所ではなかなか発見できなかった。

 漸く一匹見つけた時にはイアンは疲れ果てていた。


 もしも、このミミズをテイム出来れば仲間を呼んでくれるんじゃないか。

 無理と分かっていたが楽したかったイアンは笑いながらテイム!と言った瞬間、たまたま地上に頭を出したみー君に発動し、成功したのだ。


 まさかテイム出来るとは思わなかったイアンは思わず愕然としたがその大きな体型を見て、ミミズこいつ一匹で良いじゃんと思った。

 イアンは悠々として家に持ち帰ったが、急に家に現れたでかいミミズにポチが吠えたのは言うまでも無い。


 みー君は常に畑の下の土の中に潜って普通のミミズのように土を食べて暮らしている。

 ただ、ミミズは土中の微生物や有機物を体内に取り込むがワースワームの場合土の中に住む小動物や魔物を土ごと食べているのだ。


 みー君は基本は眠っているか、食事をして植物を育てるのにいい環境の土を作っているかのどちらか。

 なので地上には全く出て来ず、イアンともテイムして以来会っていない。


 だが呼べば来てくれるみー君を早く呼んで戦ってもらえば良いと思われるがイアンはみー君をこの場に呼びたく無かった。


 なぜなら、アースワームの防御力がほぼ無いからだ。マックスを百とした時たった五しかないのだ。

 しかも防御の支援魔法を受け付け無いので、強敵と戦い一撃でもダメージを受けると戦闘不能になり、下手をすると死んでしまうからだ。


 それでもこの状況をどうにか出来る可能性を持つのはみー君だけだと判断したイアンは呼んだのだ。


「ポチ、タナカさん(夫婦)!レインディアの攻撃をみー君に当てないようにフォローしてくれ!」

「あの巨大なミミズ仲間なんですかにゃ⁉︎」


 ポチにヒールをかけながら指示するイアンにタマは出会った事のないみー君に慌てふためいているが、ポチがタマに説明する為に近付いたのでイアンはタナカさん(夫婦)に向けてヒールを使う。


 動けないタマを庇うようにイアンはタマの壁になるように前に立つ。


「みー君!」

「ーーーー!」


 みー君は尻尾を振り上げ、レインディアに攻撃を繰り出す。しかし、レインディアは地面を抉る打撃を躱す。

 みー君は追撃するが、レインディアのスピードに追いつけていなかった。


 だが、レインディアもみー君へ攻撃をしようとするがタナカさん(夫婦)とポチが邪魔をして失敗してしまう。


「ぶぉぉお!」


 レインディアはみー君に向かってスキル"沈む泥(ゼィンクンマッド)"を使う。この中で一番の強敵と判断したみー君の動きを止める手段をとった。

 しかし、そのスキルはみー君と相性が悪かった。


 みー君は土に対するスキルを無効にしてしまう。なのでレインディアの"沈む泥(ゼィンクンマッド)"はみー君には効かない。

 それにレインディアの関心がみー君にズレた事によりタマにかかっていたスキルが解除された。


「う、動けますにゃぁ」

「よし!タマもフォローしろ!」

「にゃ!」


 再びタマが戦闘に参加する。

 みー君がレインディアに攻撃、タマとタナカさん(夫婦)がみー君への攻撃を往なし、ポチが全体の支援を行う。


 レインディアに対し、思ったより善戦する皆んなにイアンはこれなら行けるのではと思った。


 そんな油断だった。


「ぶぉぉおおお‼︎」

「え」


 何をされたのか、分からなかった。

 イアンは何故か家の方に吹き飛ばされていた。動こうにも全身に痛みが走り、動く事が出来なかった。


「いっ、なん…で」


 目だけ動かして周りを見ると全員地に倒れ伏していた。

 状況が判断出来ないイアンはこの原因のレインディアを見た。


 レインディアの角が鞭のようにしなやかに伸び縮みして動いていたのだ。

 それにイアンは青褪めた。


「あ、しゅ…かよ」


 亜種。それは本来無い能力を持った個体の事を言う。

 レインディアの透明な角は硬く、光に当たって水色に煌めく事からインテリアとしても人気の一品。

 硬く丈夫な角はこんな風に柔らかく動くことはない。


 鞭のように角をイアン達に向かって叩きつけた攻撃により吹き飛ばされたと分かった。まさか角がそのように動くとは考えてもいなかったイアンは判断も指示もする事が出来ず、一撃をもらってしまったのだ。


 自分は動けず、攻撃を受けてそれでも弱々しく立ち上がろうとするポチ達にもうどうする事も出来ないと悟った。

 イアンは、諦めてしまった。


 だが、もし自分が先に死んでしまうと空間が崩壊して全てが消えてしまう。

 なら、一層のこと…。


「ポチ!タマ!タナカさん(夫婦)!みー君!逃げろ!これは命令だ!」


 テイマーが命令をする時は絶対にそれに従わなくてはならない。それが繋がりが強い程高い効力が発揮する。


 頑張れ、勝て、生きろ、それを命令として出す事が主だ。

 テイマーは一人だと弱いからだ。


 だが、諦めたイアンはポチ達を生かす為に逃げろと言った。

 ポチ達は驚いてイアンを見るが命令に身体が勝手に反応してレインディアを避けながら空間から抜け出してしまった。


「ワンワン‼︎」

「カタカタ!」

「カタカタ!」

「ご主人‼︎」


 イアンは叫ぶポチ達の声を最後に聞いて、満足した。


 レインディアは空間を抜け出すポチ達を見て、自分も抜け出そうと突進する。しかし、抜け出し方がよく分からないまま駆け出したレインディアは再び家に向かって突進したのだ。


 それをイアンはぼんやり見つめ、目を閉じた。


「痛みを感じないで、死にたいなぁ」
















「イアンさん‼︎」


 急に呼ばれて思わず目を開けると誰かがイアンの前に立っていた。

 そしてレインディアが遠くに膝を着いていた。


「助けに来ました!」

「…は?」


 そう言って振り返り、任せろと言わんばかりの笑顔を向けるアイゼが目の前に立っていた。


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