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34.良い時間を過ごせた妹

 

 日を跨ぎ、やっと解放されたイアンはヘトヘトな状態で家で戻って来た。

 先程までの地獄から解放され、安息地である自宅に帰ってこれて幸せから思わず涙が出そうになるイアンだった。


「ちょっと、何処行くのよ」

「は?」


 あの後、帰ろうとしたイアンをシエラが無理矢理引き留め、アイゼとの話が終わるまでイアンを解放させ無かったのだ。


「へぇ!そうなんですか」

「えぇ、そうなの」


 引き止められたのに一切イアンには話しかけて来ず、それなのに席を立つ事を許さない。

 楽しそうに会話している二人を尻目にイアンはお金を使う機会がここ数年無かったせいで持って来ていなかった為、先程渡された水をちびちび飲んでいた。


 妹であり、シエラに負い目もあって強く言い出せなかったイアンは渋々その場に残る事にした。


「今日行ったダンジョンでこんなモンスターいたんですよ」

「…へー」


 サントが注文した夕食という名の夜食を食べながらイアンに話して来るので適当な返事をしながら、ただただ早く終われと思っていた。


 ところがその思いとは裏腹に既に二時間経っていた。こんな時間まで何時も起きていないイアンは頑張って目を開けなければならない程だった。


 イアンの揺れる頭、更にサントも流石に眠くなって来たのか大きな欠伸を連発している事でようやく解散という流れになった。

 話していたせいで眠気を感じていなかったアイゼとシエラは何やらまた会う約束をして、アイゼは足元が疎かになっていたサントを連れて帰って行った。


「ねぇ」


 イアンも眠りかけていたタマを自分の首に置き、ポチを抱えて帰ろうとするところをシエラに止められる。


「…なに」

「…」


 眠たくて機嫌の悪い声が出てしまうが仕方ない。

 シエラは言葉を詰まらせ、目を泳がせると一度目を瞑り、開く。


「…家」

「家?」

「か、帰って来なさいよっ」


 恥ずかしかったのか顔を赤くさせて一言発すると急足で帰ってしまった。

 実はと言うとシエラの目的はこの一言をイアンに言う事だった。シエラはイアンが家に戻って来なくなった原因を作ってしまったとずっと気にしていたのだ。


 偶然会え、言いたいことを言えてシエラの帰りの足取りは軽かった。だから、ギルドに入った時に持っていた荷物を忘れた事に気付くのはもう少し先に進んでからだった。


 ただ、半分眠って寝ぼけていたイアンは後半の言葉を理解出来ず、シエラが顔を赤くさせる程怒っているとしか認識する事は無かったが。


 イアンはふらふらな足取りで帰路につく。

 せめてポチとタマが起きていれば良かったが、ギルドから離れると完全に眠ってしまった。


 ギルドにいた時は緊張の余り側に居てくれないと不安だったイアンだが、帰りは重たく、思わず置いて帰ってしまおうかと脳裏を過った。

 ただ、そんな事をしたら後から後悔すると分かっていたので抱えて家まで連れて来たのだ。


 扉の開いた音が聞こえてタナカさん(夫婦)が近付いて来た。

 スケルトンであるタナカさん(夫婦)は寝る必要が無いのでこうして出迎えてくれる事に感謝して、タナカさん(妻)にポチとタマを渡すと、疲れきったイアンはタナカさん(夫)の元に倒れ込む。


「ごめん、タナカさん(夫)…もう、無理」


 緊張の糸が切れたそのままイアンは目を閉じ、眠りについた。


 翌日、習慣で起きてしまったイアンはベッドの上でうつらうつらとしていた。睡眠不足でまだ覚醒出来ていなかった。

 側のポチとタマもまだぐっすり眠っていた。


「ふぁ…ねみぃ」


 目を擦りながら外を見る。相変わらずスキルで作った空間は開きっぱなしである。


 昨日、サントと話している時アイゼのスキルの話題が出た。


「そう言えば、俺のスキルどうなったんだよ」

「あ、それなんですけど…」


 申し訳なさそうにサントが話し出す。

 アイゼのスキルで一度切ったものは戻す事が不可能との事だった。だから一度スキルを解除して再発動し直さないといけない。


 しかし、一度スキルを解除すると植えてある植物はもちろん、家の物も全て消えてしまう。

 かと言って家の物を移動しようにも長時間がかかり、その荷物を置く場所が無い。そして大きく育ち過ぎた木なんて移動出来ないし、一度抜くと移植出来ない物が何種類もある。


 余り期待はしていなかったが、戻せないと聞くとやるせ無い。げんなりしているイアンに慌ててサントが解決策があると言う。


「でも、ある人のスキルで直せるらしいんです」

「ある人?」

「なんでも、リアさんって人の固有スキル使えば直るらしいんです。でも、まだ会えて無くて」


 リアという人物のいる街に行ってみようとアイゼと話しているが、街まで遠く、魔物が多く出る道を通らないと行けない。

 戦闘技術を上げる為にダンジョンに行っていたのだ。


「絶対その人見つけ出すんで待ってて下さい!」


 本来ならやった本人が言うべき言葉を代弁するサントにアイゼの親か?とイアンは思わずそう思ってしまった。


「まぁ…今までなんとも無かったし、大丈夫だろ」


 変な男の侵入はあったが、そんな事件そうそう起こることでは無い。


 そう思い、取り敢えず起きてしまったので朝食を食べようと二匹は寝かせたままにイアンは下に降りて行った。










 だからこの時のイアンは知らない。


「ポチ!タマ!タナカさん(夫婦)!逃げろ!」


 これからの暮らしを脅かす脅威が訪れる事を…。

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