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33.気を使わないで欲しかった

 

 固まっていた二人に気付いたトニーが気を利かせたつもりなのか、ギルドに併設されている食堂まで引っ張って二人を座らせた。

 適当に飲み物を注文するとトニーは奢りだと言ってこの場から去ってしまった。


 はた迷惑なトニーを恨みつつ、別に話す事なんて無かったイアンはさっさと飲み物を飲んで帰ろうと考える。

 しかし、目の前のシエラはイアンを睨み、まるで逃がさないように見て来る。


 人を殺すような目つきに冷や汗を垂らし、渋々ゆっくり飲む事にした。


「…」

「…」


 どんどん飲み物が減っていくが未だに二人の間に一言も会話がない。

 何時ぞやの兄と鉢合わせしてしまった時と似ていると思い、コリーンが居れば良かったとイアンは遠い目になっていた。


 無言の二人にポチもタマも暇になったのか足元で戯れ合い始めた。そんな事して無いで助けくれとチラチラ見てイアンは二匹に助けを求めるが、遊びに夢中になってしまっている。


 仕方なく、この状況を打開しようとイアンから思い切って口を開く。


「げ、元気にしてか?」

「兄さんに関係ないわ」

「…」


 会話終了。

 あの時の兄のようにシエラ聞いたが聞く耳を持たず、拒絶するシエラにお手上げになった。


「(まぁ…最後に会った時の別れ方最悪だったしな)」


 イアンは溜息混じりで過去の記憶を回想する。


 ◇◇◇


 妹コリーンが生まれて無理矢理帰省させらた日まで遡る。


 イアンはその頃、ダンジョンで素材採取のクエストを受ける日々だった。

 だが、イアンが行けたのは一層目から三層目まで、初心者しか受けないようなクエストしかイアンは受ける事が出来なかった。


 何故なら、テイマーでありながら動物や聖獣をテイム出来ず、その理由が不明だったからだ。あの頃は魔物しかテイム出来ないとは思ってもみなかったイアンは片っ端からテイムしては失敗する毎日だった。


 自身に戦闘能力は無く、下に行くにつれて強くなるダンジョンに一人で挑むには無理だった。

 かと言ってパーティーを組んで挑もうにも役に立たないテイマーと組んでくれる人はいなかった。


 ずっと初心者用クエストを受けてもそれでは暮らしては行けず、家族に頼る方法を知らなかったイアンは一人で悩み、心に余裕を持てなくなってしまった。


 そんな時にギルド経由での家族からの帰省命令が届いた。何度もギルドから帰省しろと家族が言っていましたと言われていたが無視して、とうとう強制力のある命令書を使われてしまった。


 本来こんな個人的な要件で使う事はもちろん、余程の事態が無い限り命令書は発行される事は無い。

 それなのに今回こんな事が出来たのは偏に兄エヴィンの知り合いがギルド職員に居て、エヴィンの為にと気を効かせたからだ。


 そんな事を知らないイアンは合わせる顔が無い家族の元に肩を落としながら戻ったのだ。


 家に戻ると祝いムードの家族に水を差さないように会話にはなるべく参加せず、適当に愛想笑いをして過ごそうとした。


「兄さん」


 昼食を食べ終え、これで良いだろうと帰ろうとしていたイアンの元にシエラがやって来た。

 兄妹だが家を出る前からもそんなに話して来なかった妹から話しかけられ、首を傾けた。


「ほら見てよ」


 シエラが見せたのは調合された薬。イアンは意味が分からずシエラを見るとシエラはその薬について語り始めた。


「この調合私が考えたのよ。これは火花をベースに、」


 イアンには途中から話が頭に入って来なかった。シエラの職業薬師を授かってからまだ一年。新米と言える立場なのに既に薬の調合を自分で考えた。

 それなのに自分は薬師にもなれず、テイマーとしても欠けている。その事にイアンは絶望した。


「     」


 そしてシエラの一言が琴線に触れた。

 イアンの今までに溜まりに溜まっていた感情か爆発し、家族に当たり散らしてしまった。


 ◇◇◇


「(あの時、何言われたとか自分が何言ったとか怒り過ぎて全然覚えて無いけど…シエラの事突き飛ばしたのは覚えてる)」


 そんな相手とは話したくない気持ちは分かるなとイアンは思った。


 しかし、イアンが話そうとしても取り合わないのに何故未だに席に着いて此処にいるのか分からない。


 そろそろ飲み物が空になりそうになった時、食堂の入り口から聞き慣れた声がしたような気がしてイアンはそちらに顔を向けた。


「げっ」


 バッと正面に向き直り、麦わら帽子を被り側にあった食堂のメニュー表で顔を隠す。急にそんな行動を取ったイアンにシエラは眉を顰めながら見る。


「…なにしてんの」

「静かにしろっ、気付かれるだろうがっ」

「あれ?その麦わら帽子…もしかしてイアンさん?」


 見覚えのある麦わら帽子が悪手となったらしい。

 顔を上げると声をかけて来た少し汚れたローブに身を包んだサントが立っていた。


「わぁ!イアンさんのそんな姿初めて見ました。イアンさんもダンジョン行ってたんですか?」

「行ってない、と言うかお前がいるって事はまさか、」


 サントが入って来た方を見るとアイゼがサントと同じように装備を付けたまま、両手に水の入ったコップを持ってキョロキョロ辺りを見渡している。サントいる所にアイゼ有りだ。

 因みにここの食堂は水だけはセルフサービスである。


 サントはアイゼに向かって手を振って自分の居場所を伝える。それに気付いたアイゼが近寄って来て、側にイアンがいる事を知った。


「イアンさん!」


 アイゼは手に持っていた水をイアンに渡し、隣の席に座った。


「お久しぶりです、イアンさん!」

「…なんで隣に座るんだ」


 話しかけて来るアイゼに嫌々対応していたが、シエラと居た事を思い出す。この二人にはシエラの事が見えてなかったとしても自分まで忘れてしまっていた事にイアンは冷や汗を垂らす。


 しかし、シエラは怒っておらず、それどころかイアンではなく隣に座ったアイゼを見ていた。


「どうかしたのか?」

「あ、ごめんなさい。勝手にイアンさん達の話に入ってしまって」


 バツ悪そうに謝るサントに引き換え、アイゼはシエラの顔を見て顎に手を置いて悩む。


「んー…何処かで見た事が…あ!あの時の、確かシエラ、さんですよね」

「お、覚えててくれたの?」


 イアンが不思議そうに二人を見ているとアイゼの発言で思い出したサントがこっそり耳打ちをする。


「この間、シエラさん変な人に絡まれてたところをアイゼが助けたんです」

「へぇ」


 何故か頬を赤らめて、どことなく楽しそうに話すシエラに先程までイアンに対する態度とまるっきり正反対な対応にイアンは少し腑に落ちない。


「(別に仲良く話したいとは思って無かったから別に良いけど)」


 だが、アイゼ達が来たおかげで帰る事が出来ると悟ったイアンは夜遅く、遊び疲れて眠ってしまっていたポチとタマを連れて帰ろうと二匹に手を伸ばすのだった。

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