31.ギルドに来ました
「にゃー、まだ行かないですにゃ?」
「んぐっ、行くって何処に」
「ギルドですにゃ」
「あー…」
台所でタナカさん(妻)から食後のおやつとして皿に入れたクッキーを貰い、ボリボリ食べながら作業台に行こうとしているイアンに手を伸ばしながら尋ねるタマ。
イアンは目を泳がせながらしゃがみ込み、皿をタマの前に差し出した。
行く決心をしてから数日、カードを見つけたのに未だイアンはギルドに行っていなかった。
イアンはカードを見つけ出した事で満足してしまい、行くのは後回しで良いと思ってしまったのだ。
それからズルズルまた今度また今度と長引かせ今に至る。
「今日こそ行きましょうにゃ」
「そー、だな…」
「あ、また誤魔化す気にゃ!」
目を逸らしながらクッキーを齧るイアンに口元にクッキーのカスを付けながらプンプン怒るタマ。
そのイアン達の元にポチが紙を咥えてやって来る。
「ワン」
紙を地面に落とすと前脚でポンとある場所を差し、見ろと促すのでイアンはその所をジッと見て、青褪めた。
「更新期限、明日までだ」
「にゃ⁉︎」
紙をしっかり見ていなかったせいで期日を確認していなかったが期限は明日までだった。明日の何時までとは書いていない為、日が変わった途端失効か明日一日経ってから失効か分からない。
失効させたく無いなら今日の夜にはギルドに行かなくてはいけなくなった。
此処からギルドまでは一時間も掛からない距離。アイゼとサントの住む町の隣にある街の少し外れの方にある。
「ご主人早く行きましょうにゃ!」
タマは慌ててイアンに準備を促す。
急に行く事になってしまったイアンは気分の乗らない状態でのろのろと準備をしに部屋に戻って行った。
「おー、冒険者っぽいですにゃ」
「ワン」
自室から降りて来た顔を顰めたイアンはいつもの作業着を脱いで昔着た冒険者の格好である。
長靴は膝下まであるブーツを履き、作業着は丈夫な布で作られた動きやすい服に着替えて籠手や胸甲など付けた。腰には短剣と薬の入ったバッグを装備していた。
テイムした生き物や戦い方に寄って服装が変わってくるが、テイマーは自分がやられて仕舞えばテイム状態が解除されてしまうので一番に倒れてしまわないように防御寄りの装備が基本である。
ギルドにはどんな格好で行っても問題は無いが如何にも戦闘していますという様な服装の人が大半だ。
そんな中に何時もの作業着で行けば目立つ。それが嫌でイアンはわざわざ奥から取り出したのだ。
「ポチとタマは連れて行くとしてタナカさん(夫婦)は留守を頼む。開いてるからいつも以上に警戒よろしく」
「「カタカタ」」
「ふぅ…よし、行こう」
マントを羽織り、重い足取りで家から出て行くイアンにポチとタマは追いかけようとしたが、イアンの持つ物に不思議そうに顔を見合わせるのだった。
◇◇◇
ギルドの入り口から歩いて奥の方に受付場があり、イアンは手続きをする為に座っていた。
「えっ、と…更新の手続きで、よろしかったでしょうか」
「…はい」
ギルドカードを渡し、少し顔を引き攣らせて対応する受付の女性に小さい声で肯定するイアン。
女性は最初マントを靡かせ入ってくるイアンを見た時、一瞬圧倒された。服は年季が入っており、首元には毛皮を巻いてまるでベテランに見られそうな雰囲気を醸し出していたからだ。
しかしよく見れば首元の毛皮は普通の猫の姿のタマが巻き付いており、犬のポチ抱き締めていた。
そして何より、女性は何度もイアンから目を逸らしてしまう。イアンは何故か麦わら帽子を被っていたからだ。
ポチとタマは女性の反応を見てやっぱりと溜息をついていた。
イアンは家を出る時麦わら帽子を持って行った。何でそれを持っていくんだろうと思っているとギルドに入る前に被ったのだ。
曰く顔を見られないようにするには便利だからと言う理由だった。
だが、夜に麦わら帽子なんて被るなんて不審者以外の何者でも無い。しかも深く被って下から見れば口元だけ、同じ高さだと口さえも見えるか怪しい。
だからイアンがギルドに入って来た時、驚愕した人や思わず武器に手をかけた人が結構いたのだ。
前がよく見えず、緊張で周りの様子に気をかけていなかったイアンは気付かなかったが。
「こほん。私、今回手続きを担当するリリアンと申します。先ずは本人確認させていただくにあたり、こちらの紙に体液の提出をお願い致します」
短冊状に小さく切られた紙を渡された。昔は血の提出が基本だったが、緊急治療として輸血を行った冒険者が血で本人確認出来なくなって問題になった事があった為である。
技術の進歩もあり、今は唾液でも本人確認が可能になった。
イアンはパクリと咥えた紙を渡す。リリアンはそれを専用の四角い容器に入れ、ボタンを押す。カタカタと小さく音を立て、カチッと音がして容器の脇から紙が出て来る。
「お待たせ致しました。本人と確認が取れました。これから新しいカードに発行させていただきますので、そちらで顔写真の撮影お願いします」
「ぇ、写真?」
「はい。近年ギルドカードの偽装が横行しておりまして、ギルド内では見逃さないのですが、ギルド以外の所ではチェックが難しくて…。少しでも防止する為に顔写真必須になりました」
写真を撮られる事が嫌いなイアンは顔を歪めながら立ち上がり、手が差した方向に向かって歩いて行った。
「写真とか、最悪」
「にゃふふ」
「笑うな」
文句を言いつつ向かうと一人の老人がカメラの側で船を漕いでいた。
さっさと終わらせて帰りたいイアンは老人の肩に手をかけて起こす。
「あの」
「ぐぉー」
「あのっ」
「ふごっ…ぐぉー」
「…チッ」
イアンはバッグから薬の入った小さな瓶を取り出すと老人の鼻の前に差し出して蓋を開ける。途端、老人は目を見開き鼻を押さえる。
「ぬぉぉおぁぁ⁉︎」
イアンの出したのは気付け薬改悪バージョン。普通の気付け薬を作成中にふと側にあった唐辛子を見て、辛い物でも代用出来るのではと考えたイアンはひたすらに辛い物を混ぜ合わせ、この改悪バージョンを作り上げたのだ。
これを使うと目から鼻から出る物が出てしまうので薬としては不採用にしたのだが、対魔物用として一応入れてあった物だ。
ポチとタマも香りを感じ、鼻を押さえて蹲る。二匹には悪いと思ったが仕事をサボって寝ているのに苛ついてしまったのでしょうがないとイアンは思って欲しかった。




