29.灯台下暗し
添えられた手が首を締め付ける。だんだん細くなっていく気道になんとか空気を入れようとするが叶わない。
死が近付く恐怖に慄くイアンに男は楽しそうに目を細めニヤリと笑った。
「うわぁぁぁっ⁉︎」
自分の叫びで起き上がる。息を荒げながら忙しなく辺りを見渡すが男の姿は無く、自分の部屋だった事に一息ついてベッドに逆戻りする。
「はぁ、はぁ…夢かぁ。なんか長い夢だったな」
死体が生きて卵を探す羽目になり、最後は首を締め付けられる。壮大な夢だったなと安心して二度寝しようと目を閉じたが、はたと目を開ける。
「いや…何処から夢だ?」
「ワン!」
「ご主人起きたですにゃ?」
扉からポチとタマが部屋に入って来る。
何時もだったらイアンが先に起きて、隣に寝ている筈の二匹が扉から現れた事にイアンは驚いて見つめる。
「ポチ?タマ?俺より先に起きたのか?」
「にゃ。ご主人、今何時か分かりますか?昼ですにゃ」
「昼⁉︎」
ガバッと起き上がり、外を見る。日が高く上り、今が朝では無い事が分かる。
習慣でどんなに眠たくても日の出の頃には起きていたイアンは驚愕してしまう。
「え、嘘だろ」
「仕方ないですにゃ。昨日あんな事あったですから」
「…昨日?」
「覚えてにゃいですか?ご主人首絞められて気絶してしまったですにゃ」
タマの話を聞いてイアンはだんだん顔色を悪くさせ、夢じゃ無かったと分かった途端、恐怖が蘇り身体が震え出す。身を隠して守るように布団に包まる。
少しだけ顔をだし、ガタガタ震えながらイアンは警戒する。
「ま、ままままだいるのか?」
「帰りましたにゃ」
「…はーぁ」
男がいないと知って安堵の深い溜息が出る。
するとお腹が鳴る。夜も朝も抜いて今は昼時。流石にお腹が空いたイアンは昼食を食べに下へと降りていく。
降りるとタナカさん(夫婦)に心配され、二食抜いた分だと大盛りの料理がイアンの前に並ぶ。
お腹一杯に食べるが、流石に一度には食べきれる量ではなく夕食に回してもらう事にした。
お腹がパンパンになり、少し横になりたいイアンは外の風に当たろうと外の椅子に座る。
「あー、腹一杯」
「ワフゥ」
昨日の昼は男のせいで味っても食べられなかったのでイアンは満足しながら横になる。
一緒に連れて来たポチをわしゃわしゃと撫で回しながらゆっくりしていた。
そんなイアンの元にパタパタと空を飛んで近付いて来るコカトリスのコッコ一号と二号。
それを視界の片隅に捉えて、ギョッと目を剥く。
何故なら二羽で協力しながら、人間なら両手で持たないといけないような大きな卵を持ってきたからだ。
「お、お前ら…それって」
それは家に今まで無かったもの。そしてどう考えてもコッコ達が産むわけがない大きさ。そこから導かれるのはあの男が探していた卵であると言うこと。
「コケコケ」
「コケー、コッコケ」
言葉が詰まるイアンにコッコ達は語り出す。
◇◇◇
男が倒れて発見された頃の話だ。
コッコ達は住処である小屋で目を覚ますと二羽の間にいつの間にか大きな卵が置いてあった。
一応威嚇をしてみるが特に反応がなく、ただの卵だと知るとイアンに伝えに行こうとするが急に家の方から嫌な感じがした。
本能が近付くなと警戒をした為、コッコ達は嵐が過ぎるまで待つ事にした。
卵に藁をかけて温度を保持をしながら、いつも来るご飯が来ない為に小屋から近い畑の作物を突いていた。
昼頃になると嫌な感じが薄れていた。
コッコ達は今ならと協力しながら運ぼうと奮闘するがなかなか持てない。仕方なく体当たりしながら少しづつ転がして進む。
しかし、途中で小石に打つかり畑の方に転がって行ってしまった。慌てて追いかけるが、畑に植えてある植物に絡むように奥に転がって止まった。
どうにかしようとするが、再び逃げろと本能が警戒を促した為小屋に一目散に退避した。
それから一度イアンが小屋に来たが、その時には卵の事はすっかり忘れてご飯をくれなかった恨みでイアンを突いただけだった。
夜、男が居なくなった頃にハッと卵の存在を思い出して二羽で畑に戻った。
卵は未だに同じ場所に有り続け、植物が絡んだお陰で冷える事は無かったみたいだ。
コッコ達はせっせと植物を突き、解いてようやく全てを外し終えた時には日が高く登っていた。
その時丁度イアンの声がしたので、卵を運ぼうともう一度持って飛んでみようとすると今度は成功し、イアンの元まで卵を持って飛んで来たと言う訳だ。
◇◇◇
「まじかぁ…」
そう呟いてイアンは頭を抱えてしまう。
畑は一番に捜索した場所であり、卵が自分で動くとは思っていなかった為に一度探した所は再び見る事はしなかった。
卵を今更発見してしまったイアンはこれをどうしたらいいのか分からない。
男に渡そうとしても男が何処に居るのか、そもそも誰なのか知らない。
それに今更見つかりましたと言ったところであの危険人物は何をするか分からない。
散々悩み、イアンは考えることを止めた。男と再び出会う確率は低い。
ならいっそ証拠隠滅するか、卵を温めておいてもしも出会ってしまったという時渡すか。
そう考えてイアンはコッコ達に聞く。
「コッコはこの卵どうしたい?」
「コケ」
「コッコ」
「そっか…なら、任せる」
二羽は話し合うと卵を温める選択を選び、イアンはコッコ達に卵の事を任せると二羽は卵を持って小屋に戻って行った。
「ポチ、あいつらに任せて大丈夫だったかな」
「ワン!」
大丈夫と吠えるポチを撫で、あれ?と気付く。
「あれ…なんの卵だったんだ」
何か嫌な予感がしつつも面倒になったイアンは問題を先送りにするのだった。




