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2.テイマー、薬を作る


 留守をポチに任せて二人と一匹は走り出す。


 先頭の少女サントは急いで少年の元へ案内しながら走るが、イアンの事が気になってしょうがないようで後ろをチラチラ見る。

 名前を名乗っただけでお互い何も知らず、しかも親しげにしてくるとは言え魔物、それを従えているのだから。

 その視線にイアンは気付いてるようだが、一切を無視する。


 そんなイアンに仕方ないと言うようにタマはサントに話しかける。


「お嬢さんお嬢さん。ご主人が人嫌いの引き篭もりでコミュニケーション能力低くて信用出来ないのは仕方ないですけど、必ずお友達を助けてくれますにゃ」

「…帰る」

「あぁ!嘘です嘘です!ご主人は立派な人間ですにゃ!」


 踵を返そうとしたイアンの服の裾を掴んで慌てて引き止める。

 そんな光景を見て思わずサントは笑う。何故か分からないがこの人なら大丈夫だと思えた。


 再び走り出し、ようやく少年の元へたどり着いた。


「アイゼ!」


 横に倒れている少年の名前を叫んで近寄る。少年アイゼはまだ息をしていたが、先程の状況と反対に呼吸が弱くなっていた。肌の色も青白くなっており、触ると体温が低くなっている。

 サントは顔を青ざめてイアンを見つめる。


 イアンは背負っていた箱を少年の傍に置き、手に出来た傷を触らないよう触診を始めた。


「コイツ…アイゼって言ったか。コイツのこうなった状況と魔物の名前分かるか」

「えっと、迷っていたら目の前に蛇の魔物が出て来て、私に近づいてきて…アイゼが追い払おうと木の棒で払ったんです。そしたら尻尾でアイゼの手を傷付けて魔物は逃げて、ここに居たらまた出てくるかもしれないってここまで逃げた、その頃にはアイゼ、苦しそうに、倒れ…うぅっ」

「泣くな。泣いたって状況は変わらない」

「ご主人、こう言う時は優しい言葉をかけてあげるのですにゃ」


 泣き出したサントをタマが優しく撫でておちつかせる。

 その間にイアンは箱を開け道具を取り出し、更に小分けにされた材料の箱を数種類取り出す。


「その魔物の体と尻尾は何色だった」

「ぐすっ…体は紫で、尻尾は…白です」

「となると…ここらで出るのはポイズンスネークか。確か白なら肺への毒か。なら、後これとこれだな」


 一通り材料を取り出し、箱の上に一冊の本を出し、手前の材料を乳鉢に入れる。


「胡椒の実は〜三つ潰しましょ〜ゴンゴン〜火花のおしべ一つ二つ〜混ぜますゴリゴリ〜」

「え⁉︎」


 急に歌い出したイアンを驚いた表情をしたサントが思わず声を上げる。

 そんなサントに気付き、自分が歌っていた事を思い出し顔を赤くさせ叫ぶ。


「き、聞くな!見るな!」

「はい!」


 思わず返事をして後ろを向いたサント。

 なんで歌い出したのか意味が分からないサントは隣にいたタマに視線を移す。


 タマは呆れたように説明を始めた。


「ご主人の薬師の家の人間ですにゃ。薬を作る事は出来るんにゃが、どうもスムーズに作れなくて、ポチさんと考え出したらしいですにゃ」

「へぇ…あれ?薬師の家なら職業もテイマーじゃなくて薬師とかじゃ無いの?」

「それは、」

「タマ!余計な事言うなよ」


 耳聡くタマに向かって牽制する。タマもこれ以上喋りませんと言うようにワタワタと口を押さえた。

 いつの間にか調合を終えたイアンは、最後に混ぜた物を清水にかき混ぜ、完成した薬をスポイトと共にサントに渡す。


「おい、サント。これをアイゼに少しずつ飲ませろ。タマ、近くに縛れる物あるか見てきてくれ。包帯忘れた」

「…ご主人ドジにゃ」

「行け!」


 サントは調合された薬をスポイトに吸ってアイゼに飲ませる。弱々しいが喉を動かし飲み込んでいく様子が見られる。

 その間に傷に塗る為の薬を再び調合し始める。また歌を歌いながら完成させた薬をイアンは布に薬を塗って傷口に張り付ける。丁度良いタイミングでタマが縛れる物を持ってきた。


 キュッと縛り終わった頃にはアイゼは少し薬が効いたのか、体温が戻り始め呼吸も通常に戻ってきていた。


「よし、これで大丈夫だろ」

「あ、ありがとうございます」

「どこかにゆっくり寝かせられる場所があれば良いけど…そこまで面倒みられ無いな」

「え!ほったらかして帰るんですかにゃ⁉︎」

「考えてみろ!このままここにいればコイツら探しにそのうち親が来て、俺が対応しなくちゃいけなくなるだろ⁉︎絶対嫌だ!」


 ガクブルするイアンに痛む頭を押さえるタマ。

 サントもこれ以上迷惑はかけられないと思うが、運ぶなんて出来そうにも無かった。

 どうしようと困ったサントの後ろに誰か立ったのか影が出来た。


 ただ、イアンもタマも目の前にいる。アイゼもまだ横になったままだった。

 血の気が引いたサントは恐る恐るゆっくり後ろを振り返る。


 足元を見ると長靴を履いているのが分かった。人かと一瞬思ったが、こんな山奥にいて音もなく近付く意味が分からない。

 嫌な予感がしたまま徐々に顔を上げていく。エプロンをしていて、帽子を被った骸骨がサントの後ろに立っていた。


「カタカタ」

「〜〜〜〜〜ッ‼︎⁉︎」


 カタカタと音を鳴らした目の前の骸骨にパニックになり、声無き叫びをあげサントは後ろにひっくり返った。


「⁉︎なん…あ、タナカさん(夫)」


 急に倒れたサントに驚き、こちらに意識を戻したイアンのタナカさんと言う声を聞いてサントは気を失った。

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