27.終始震えるしかなかったテイマー
「答えろ」
裏庭に置いてある椅子を堂々と座り、側の机に肘をつき、目の前で正座させているイアン達を上から見下ろす男。
低い声で威圧するように問いかける男にイアンはもう訳がわからなくなってガタガタ震えるしか無い。
「…おい」
「ひっ」
何も答えないイアンに男は苛立ちを込めて声をかけるが、イアンは未知の存在の男の一挙一動に怯えてしまっていた。
そんなイアンの態度に男は痺れを切らし、無理矢理答えさせようと腕を伸ばして胸ぐらを掴む。
「聞いておるのか」
「(どうしてこうなったんだっ)」
こうなる少し前の事、イアン達の目の前で生きている筈の無い遺体が、ゆっくりと目を開いた。
「ひぃぃいいい‼︎⁉︎」
深い紅色の目と目が合った瞬間情け無い声がイアンから漏れ出す。ゾゾっと背筋に冷たいものが走り、側のポチとタマを抱えて一目散に距離を取った。
イアンはタナカさん(夫婦)に上擦った声で指示を出す。
「離れろ‼︎」
その声に反応し、タナカさん(夫婦)は両手を離し、バッと後ろに下がった。
「いっ⁉︎」
離した瞬間、男は背中から落ち、受け身を取る事なく地面に打ち付けられた。
背中を押さえ呻く間にタナカさん(夫婦)はイアンの側まで戻って来るとイアンその後ろに隠れた。
「ぃいい、い、いぃいきて、た⁉︎」
「ごごごご主人、落ちちちつく、にゃ!」
「ありあり、あり得ない!」
見た目から人間であると思っての生死のチェックだったが、仮に人型の魔物であった場合でも身体の冷たい種族はいても心臓があって呼吸はするし、脈が無いという事はない。
スライムのように肉体を持たない魔物もいるが、その場合は核と呼ばれる人間にとっての心臓の有無で生きているか確認で出来る。
因みにタナカさん(夫婦)のようなスケルトンも肉体が無いので頭蓋骨の中に核が存在する。
核の有無は確認しなかったが、どう見ても肉体を持っている生き物。そうイアンは判断して確認した筈なのに、目の前の男は動いていた。
訳が分からなくなったイアンは頭を抱えるしか無かった。
そうしてる間に痛みが治ったのか、男が立ち上がるとイアン達を睨みつける。
「…貴様ら」
怒り心頭の男はイアン達をその場に正座させると側にあった椅子に座った途端、自分を落とした事に文句をぐちぐち喋り出した。
「貴様ら、我を誰だと思っておる」
「(いや、知りません)」
「我にこんな仕打ち、本来なら万死に値するぞ」
「(ひぇ)」
「ま、我は寛大だからな!許してやろう。我に感謝しろ」
「(…この人?我我言い過ぎじゃね?)」
怯えて混乱している中でも一部頭の片隅で冷静な自分も居るなとイアンはそう思って現実逃避していた。
「ん、そう言えば…」
この男の思い出した事により冒頭に至る。間近に整った顔に睨まれ、イアンは更に震えるしかなかった。
それでもイアンは男に聞かれた事を混乱しながらも考える。
「(えっと、なんだっけ…卵?)」
男は言った。卵を何処にやった、と。
だがイアンは知らない。
起きてきた時にはタナカさん(夫婦)が外を警戒していて、その際男の存在に気付いた。そして近付いた時には卵なんて無かった。
一応第一発見者のタナカさん(夫婦)を見るが横に首を振って知らないと伝えて来る。
「…しら、ない」
「あ?」
「ひぃ!」
凄んでくる男に涙目になる。だが、知らない物は知らない。
勢いよく左右に首を振るイアンを見て本当だと思ってくれたのか手を離し、顎に手を当てて考え始める。
解放された事により少し安心し、ふらふらと座り込むとボロボロ涙が出て来る。
イアンをポチとタマが慰め、タナカさん(夫婦)は守るように背中に隠す。
先程まで、男の自然に出された威圧感により動けば殺されると本能が察知して身体が動かなかった。
イアンでさえもそれを感じポチ達に助けを求めるにも求められなかった。
「ここ辺りに落ちたのは確かだ。よし、貴様ら探せ」
考えが纏まった男はまるで自分の部下のように普通にイアン達に命令を下した。イアンは思わず唖然としてしまった。
「な、なんで…」
「我に楯突く気か?」
「ッ」
全身の血が引く。逆らう事が出来ないと感じたイアンは恐る恐る頷く。
それに満足した男はニコニコ笑う。
「それで良い。草の根を分けて探し出せよ」
仕方なくイアンは畑の隅から全員で横に一列に並びながら縦方向に向かって歩いて確認する事にした。
ポチは匂いを嗅ぎながら、タマも目の良さを生かして探し、イアンはポチ達では見えない高さを探す。タナカさん(夫婦)はイアンに中層を任せてより更に高い所を探していた。
ゆっくりひたすら探す事数時間、太陽の光が全身を熱くさせる程高い位置に来る。汗がぽたぽたと流れ落ち、集中力も欠け疎かになりかける。
「…腹減った」
「ふにゃぁ…休憩したいですにゃ」
「クゥン」
いつも作業して疲れたら休むという事をしていたが、今日はそんな事したら何されるか分からず全然休憩していなかった。
それにまだ朝ご飯も食べていなかったので体力の限界だった。
「…言おう」
「にゃ?」
「休憩したいって」
「「!」」
「だ、大丈夫にゃんですか⁉︎」
「ワン!」
意を決して言った言葉に心配そうに皆んなが見る。だが、このまま無理をしてやった所で駄目になるのは目に見えていた。
イアンは震える足を誤魔化しながら男の元へ歩いて行く。まるで死を覚悟するその後ろ姿に、なら死ぬなら共にとイアンに続くのだった。




