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25.それでもポチは奮闘する

 

「も、申し訳…ありませんでした」


 頭を下げて謝るアイゼにイアンは無反応のまま水やりをしていた。平手打ちをした後、何も言う事なく水をあげに畑に行ってしまい、追いかけて謝りに来たのだがイアンは取り合わない。

 一方側で手伝いをしているタマは叩かれた頭を押さえたまま恨めしそうにする。


「こんな目にあったのは坊ちゃんのせいですにゃ!」

「うぅ…」


 関係ないないのに巻き込まれ、叩かれた事にアイゼに対して文句が口から溢れ出る。アイゼは肩身を狭くするしか無かった。

 そんな状況をサントはおろおろしながら見るしかなく、ポチは面倒な事になったと溜息をついた。


「カタ」

「ご飯出来たにゃ?タナカさん(夫)」

「カタカタ」


 そんな時に朝食が出来たと呼びに来たタナカさん(夫)。

 その言葉を聞くとイアンは水やりを中断させ、一言も発する事なく家へと戻ってしまうイアンの後ろ姿を見てアイゼは泣きそうになりながら頭を抱えた。


「ど、どうしよう…」

「クゥン」

「にゃ…ご主人激おこですにゃ。ポチさんも久しぶりに見たと言ってますにゃ」

「っサント!本当にどうしよう⁉︎」

「えぇ…と」


 よく状況を分かってないタナカさん(夫)は首を傾けながら、とりあえずご飯が冷める前に連れて行こうと二人の背中を押すのだった。


「美味しいにゃ!」


 ドンとテーブルに並んだ朝にしては豪勢な料理にタマ達の箸は止まらない。

 こんなに豪勢になったのも昼食のパーティーで出す筈だった料理を出した為だ。


 アイゼが逃げて来たと聞いた時、翌日はパーティーどころの騒ぎでは無いとタナカさん(妻)は考え、一部を朝食にリメイクしていたのだ。

 そこにサントが来た事を知ったタナカさん(妻)は今全員揃っているなら全て出そうとテーブルいっぱいの料理が並んだという訳だ。


「この魚美味しい!」

「にゃ!」


 キャッキャッと楽しそうに食べる一人と一匹の傍ら、視線を落とし、冷や汗をかきながらひたすら箸を止まずに食べ続けるアイゼ。

 何故なら目の前で瞬きもせず、目に光がないまま、ただジッとアイゼを見ながらパンを齧っているイアンと目が合ってしまうからだ。


 実際はただ前を見ているだけだが、先程まで怒っていたイアンを知っているので怖くてどうしても前を向く事が出来ない。


 そんな二人を交互に見るとポチは再び溜息を吐き、尻尾を振ってイアンの足をペシペシ叩く。

 それに気付いたイアンは足元に視線を送る。


「なに」

「ワンワン」

「は?アイツに怒ってる?…別に、今は特に」

「えっ⁉︎怒ってないんですか⁉︎」


 イアンの台詞に驚きに立ち上がる。

 急に立ち上がり食い込み気味に話しかけて来るアイゼに眉を顰める。


「…怒っているのが馬鹿らしくなっただけだ。スキルの原因も結局分からない、更にお前の態度に俺は呆れた。だが誰も許したとは言ってないからな」

「うっ…」

「それにスキルを直す方が最優先だ。にしても、はぁ…さっきから集中して空間を修復しようとしてるのにまるで手応え無いとか…くそっ」


 困惑しながらガブリと手に持っていたパンに齧り付く。どうやらさっきまでの表情は集中していただけらしい。


 アイゼはヘロヘロと椅子に座り込み、安堵の息を吐く。

 ただ許された訳では無いと言っていたので早くこのスキルの事を知って、直す手段をイアンに知らせようと改めて決心した。


 豪華な朝食を食べ終えるとアイゼとサントは直ぐに家に戻る事にした。

 教会の人がここ見つけ出し、ただでさえイアンに迷惑をかけているのに更に迷惑がかかるのが嫌だった為だ。


 それに自分のスキルで壊してしまったイアンのスキルの修復方法を知る方法を探さなければいけない。


「イアンさん、絶対解決方法見つけて来るんで待ってて下さい!」

「…期待出来ないし、もう来なくていいんだが」

「行ってきます!」

「おい、聞け」

「ご、ごめんなさい!イアンさん」


 ダッシュで駆けて行くアイゼにその言葉は届かなかった。

 サントは申し訳なさそうに謝りながら、暴走したように走り去ったアイゼを追いかけて行った。


 人の話を聞かない嵐のような二人を見送ったイアンはさっさと頭を切り替え、開いてしまった空間を何かでカモフラージュすることを考える。


「どうするかなぁ」

「もう木を組んでそこに葉っぱつけてカモフラージュしたらいいんじゃにゃいですか」

「あー…それでいっか」


 どうせこの辺りは人が来る事が稀だと思い、取り敢えずのその場しのぎで良いかと結論付ける。

 タマとタナカさん(夫婦)に何か使えるものがあるか見て来てもらい、その間どう組み立てようか地面に木の枝を使って設計図を書く。


 そんなイアンの側にポチが座り込み、少し嬉しそうにイアンをじっと見るので、なんだと思いながら目を合わせる。


「どうした、ポチ」

「ワン」

「変わった?何が」

「ワン!ワンワン」

「…俺が、あいつらに心を許した?」


 ポチの言葉にスッとイアンは表情を消してしまう。


「何、言ってんだ…そんな事あり得ない。俺は二度と人なんて信頼しない」

「…クゥン」

「…なんで、お前にあんな事した人と俺を、未だに繋がりを作ろうとするんだ」


 震える手でポチを抱きしめると、乞い願うようにポツリと呟く。


「お願いだから…早く、人間なんか、俺なんか…見捨ててくれよ」


 ポチが鳴いてもイアンは何も反応しない。


 アイゼとサントに会ってからイアンは少し変わった、というより前に戻って来たとポチは感じていた。

 イアンはあの時の出来事がきっかけで人が、そして人である自分を嫌いになった。


 その原因の一端になってしまったポチは、それでもイアンが人との繋がりを無くしてしまうのがよく無い事だと思っていた。

 ただ固有スキルのせいで外との接触が余程無くなってしまい、表には出さなかったが途方に暮れてしまった。


 そんな時、偶然開いていた入口から現れたサントにポチは希望を持った。だから渋るイアンの尻を噛んで脅してでも関わらせようとした。


 その甲斐あって何度も来るようになった二人をイアンはそれを少し当たり前に思うようになった。

 それに拒むと皆んなが怒ると言うが、最悪怒るのはポチだけだ。ポチが他の皆んなに頼んで今の状況になっているが、頼まなければ、今は違うが二人は排除する対象に見られていたのだから。


 だから、変わって来てる事に嬉しくなって話したが、まだイアンには禁句だったらしい。


「ご主人ー、手伝って下さいにゃー!」

「、はいはい」


 タマの声を聞き、ポチから離れるといつもの態度に戻り、使えそうだと長い木を持って来たタマとタナカさん(夫婦)の手伝いに行ってしまった。


「クゥン」


 それでも、人間と魔物、ずっと一緒に居られないと知っているから、ポチはこれからも繋がりを作る為に奮闘し続けるしかないのだ。

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