21.不法侵入
まさか兄と鉢合わせするとは思っていなかったイアンは精神的にどっと疲れ、途中からタナカさん(夫)の肩に荷物と一緒に肩に乗せて運ばれ家に着いた。
ヨロヨロと自室に入り、ベッドに倒れ込むと直ぐに眠りについたのだった。
翌日、ペコペコと頭を下げてお礼を言うタナカさん(妻)を落ち着かせ、イアンはルーティンの畑仕事をこなしていく。
休憩をしつつのんびりとした何時もの日常を過ごして、昨日の事は忘れそうだとホッとしていた。
「…明日かぁ」
そんなホッとしたのも数日、手書きのカレンダーを見ると勝手に決められたパーティーが翌日に差し迫っていた。
そのパーティーの為に今は全員で料理の仕込みと飾り付けをしていた。
「ご主人、もうちょっと上ですにゃ」
「はぁ…これくらいか」
「あとちょっと、ちょっと、オーケーですにゃ!」
タマの指示の元、『おめでとう』と書かれた木の板を吊るして、良い位置にセット出来てタマは良い仕事をしたとドヤ顔をして頷く。
そんなやる気についていけないイアンは早くも休みたくなっていた。
「ワン!」
「ポチもやる気すごいなー」
「ワフゥ」
サボろうとしたイアンを注意するポチをぐしゃぐしゃと撫で回す。撫でただけじゃ誤魔化されないと言う割には物凄い勢いで尻尾を振るポチをひたすらにイアンは愛でる。
「今頃お嬢さんと坊ちゃん職業授かってるんですかにゃね?」
「そうだとしても町に戻るにはどっちにしろ明日だろ」
今日はサントとアイゼは街の方まで行き、教会で職業を授かる。二人が住む町から移動も時間がかかり、更には教会でも時間がかかり、半日はかかってしまうのでパーティーは明日という訳だ。
午後からやっていた準備を一通り終えると既に夕食の時間になっており、同時進行で準備されていた夕食をお腹に入れて一息ついてから就寝するのだった。
眠りについて数時間後、イアンは急に目を覚まして飛び起きる。ドクドクと心臓が鳴り、冷や汗が止まらない。
起き上がった振動にポチとタマは寝ぼけながら目を覚ます。
「クゥーン?」
「どうした、ですにゃぁ…」
「…俺の、『不可侵の領域』が…干渉された」
その言葉にポチとタマは警戒をする。
イアンのスキルは入口が開いてなければ、この空間に干渉出来るスキルを持つ人以外何人たりとも干渉はされない。
仮にそんなスキル持っていてもイアンは人と距離をとっている為そんな事される筋合いはない。
それに干渉するにもこんなダンジョンでも無く、強い魔物がいる場所でも無い所に『不可侵の領域』を展開する人間はそうそう居ない。
それなのにイアンのいる位置を偶然だったのにしろ見つけ、わざわざ意図的に干渉して来た。
イアンは側にあった箒をタマは枕を片手に部屋からゆっくり抜け出す。
ポチにタナカさん(夫婦)を静かに呼んで来いとジェスチャーしていると、下からキィと玄関の扉の開く音がしてイアンとタマは警戒態勢をとる。
ポチから事態を聞いたタナカさん(夫婦)がハタキとチリトリを持ってゆっくり側に来る。
迎撃出来る準備が出来たと頷き、ゆっくり音を立てないよう細心の注意を払いながら階段を降りる。
ガタッと音のした部屋の扉から左右に分かれ中を覗く。暗くよく見えないが人らしきものが蹲っていた。
どうやら一人だが、一体何の目的で侵入したか分からない相手に箒を持つ手に力が入る。
イアンは手を指を三本立てる。これがゼロになった瞬間に突入するとお互い目で確認して頷く。
三、二、一…
「突撃だ!」
全員で部屋に入り、この空間に侵入できるほどの腕を持つ人間なら自分達の攻撃がかわされる事が予想された。その為イアンが先行して攻撃し、タナカさん(夫婦)が追撃をする時間差攻撃する算段だった。
イアンは箒を蹲る人に目掛けて振り下ろす。
「あ」
「ッ⁉︎アイゼ⁉︎」
当たる瞬間近づいた事によって目の前の蹲っていた人はアイゼだった。
それに気付いたイアンは無理矢理身体を捻り、箒の軌道をズラす。当たる事は避けられたが、突撃した勢いは殺しきれずにアイゼにぶつかって倒れ込む。
アイゼと知ることが出来たのはイアンが目の前で見た為、タナカさん(夫婦)はまだ不審者にしか見えず、イアンが襲われていると見え攻撃を仕掛ける。
「いっっだぁ‼︎」
イアンの背中にハタキとチリトリの追撃がされ、鈍い打撃音が響いた。
ランタンに火を入れ灯りが灯る。
アイゼは申し訳なさそうに上半身裸になって治療されているイアンを見る。
「カタカタ」
「いたた…タナカさん(妻)、もうちょっと優しく」
青痣になったところに調合された薬を塗って、ガーゼで押さえて落ちないように包帯をぐるぐる巻き付けた。
一通り治療を終え、アイゼはようやく口を開く。
「イアンさん…ごめんなさい」
「別に…いや、それよりなんでお前ここにいる」
イアンが訝しげにアイゼを見る。
アイゼはこの場所を知る数少ない人間だが、干渉出来る術を持っていなかった筈だし、そもそも明日来る予定になっていたのにわざわざこんな時間に来るのもおかしかった。
「イアンさん…また、聞いてくれますか」
また面倒事かと嫌な顔をしたイアンは皆んながジっと見るせいで、溜息混じりに話を促した。




