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17.テイマーとケットシー 後編

 

 今回の狙いは四足獣。一般的に山にいそうな鹿や猪を狙う為にイアンは獣道にくくり罠を仕掛けていた。

 行くにあたってイアンは治療用の薬と捕獲用の薬と武器になりそうな物を一通り揃える。

 もし罠に掛かっていた場合仕留めるのはイアンの役目だからだ。


 タマは今はまだ普通の猫で攻撃スキルを持たない。それにテイマーであるイアンと従属契約を結んでいないのでイアンのスキルでサポートをする事が出来ない。


 なら付き添いをタマにしないでポチにしたらいいと思われる。

 ところが、ポチと行ったとしてもポチは攻撃スキルを持っているが、何故か発動させる事が出来ない。何度も検証してみたが結局今まで分かっていないのだ。

 という事で、誰がついて行ってもイアンが仕留める事になる。


 それにイアンの固有スキル内の家と狭い畑ばかりより偶にはタマを外に出してあげようとイアンは考えた。

 この頃のイアンの固有スキル『不可侵の領域』の範囲はまだ狭かった。だがテイムしていく事でレベルが上がり、領域が広がっていくという事を後のタマのテイムで知る事になる。


「ポチ、留守番よろしくな」

「ワン!」


 ポチの見送りを背にイアンとタマは歩き出す。

 タマは畑以外の外は久しぶりで楽しみにしていたが、いざ出てみると誰かに獲物として狙われているような視線を感じ、風が吹いてカサッと音を立てるだけでビクついていた。


 イアンのところに来るまでは普通に家の近所の野山で兄弟遊ぶ事が多かった。だからこんなに怖いと感じるとは思っていなかったタマはイアンによじ登る。


「タマ?」


 イアンがタマを支えるとタマは肩まで登りきる。良い位置を見つけるとどっしり座り込んで降りようとしない。仕方なく、イアンは重たいタマの身体を落とさないように歩みを再開する。


 罠の位置から風下に数百メートル離れたところに大回りで着くと背負っていた荷物を下ろす。

 木の影から罠の位置を確認する。


「…やべ」


 イアンが目視で確認すると罠には黒くて長い毛の身体、二本の透明な角は光にに当たって水色に煌めく。大型の鹿の魔物レインディアが掛かっていた。

 ここら一帯には魔物が出るが、蛇の魔物や小型の魔物が多くだ。だから、大型の魔物が掛かっているとは夢にも思わなかった。


 しかも、魔物が暴れた跡があるのに最悪な事にまだ罠が壊れていなかった。

 前に一度、同じように大型の魔物が掛かった事があったが、流石にイアンでは対処仕切れなかった。


 余りやりたくないやり方だったがそのまま放置してイアンは一度帰り、後日確認に行くと餓死した魔物がいた。

 肉は駄目になり、いくら魔物とはいえ故意に苦しめた罪悪感も無いとは言えなかった。


 今回のレインディアも今は疲れたのか座り込んでいるが、気が立っていてもし気付かれでもしたら太刀打ちできない。

 しかし、前と同じような倒し方は出来ない。何故なら、レインディアはその場に居続けていると大地を汚し、住める土地では無くなってしまうからだ。


 だから弓矢を持っていたので罠を壊して逃そうとも考えたが問題がある。命中率が低いのとレインディアがその巨大で罠を隠してしまっている事だ。

 かと言って致命傷を与えて倒す腕はない。


「どうするか…」


 その時、悪戯に風の方向が変わり、イアン達のいる所が風上になってしまった。

 鼻をひくつかせ、赤い眼と目が合ってしまった。


「不味い!」

「ぶぉぉぉおお‼︎」


 側にあった槍と薬を手に他の荷物を置いて逃げ出すがこんな時に限ってバキンと大きな音を立てて罠が壊れてしまう。


 木々の合間を抜けながら逃げるが、レインディアは木々を薙ぎ倒し、どんどん距離を縮める。


「あー!こんなのどうしろってんだ⁉︎」


 レインディアの角が淡く光った途端、イアンの足元が沈む。

 これはレインディアのスキル沈む泥(ゼィンクンマッド)。土を泥にして、獲物の大きさの深さを作り上げてゆっくり呑み込み、窒息死させるものだ。


「しまった!タマ、お前だけでも逃げろ!」


 首にいたタマの首を掴み遠くに放り投げる。恐怖に固まっていたタマは受け身を取れず、頭を木にぶつけてしまう。

 痛みにようやく正気に戻り、イアンのピンチを知る。スキルを発動された今、倒す以外解除する方法が無い。


 しかし、ただの猫の自分では何も出来ない。なら、ケットシーに進化するしかない。

 だが、今の状態だとタマは聖獣のケットシーに進化しそうだと感じる。でも、そちらに進化するとすぐに攻撃スキルを覚えられずイアンを助ける事が出来ない。

 けれど、魔物になるには人間に悪感情を抱かないといけない。


「(でも、イアンは良い人)」


 自分を助けてくれた。美味しいご飯をくれた。名前をくれた。そんな人を恨めない。でも、このままではイアンが死んでしまう。


 タマはふと気付く。イアンが死ねば自分は独りぼっちになってしまうことに。


「(イアン、悪い人だ!だって、僕を独りぼっちにしようとしてる)」


 むくむくと理不尽だが、人に悪感情が芽生える。

 体が、光り輝く。


「くそっ、抜けないっ」


 身を捩るが一向に抜ける事がない。レインディアはただおかしそうにイアンがゆっくり沈むさまを見ている。

 槍を振り回しても届かず、かと言って槍を投げて当たるかもしれないが武器を無くすのは得策では無い。

 そうこうしている間に胸まで沈み、いよいよヤバい状況に嫌な汗が止まらない。


「このまま、死ぬ…ってか。最期はポチの隣って決めてた筈なんだけどな…」


 諦めるように、イアンは目を閉じた。


「諦めるのは早いですにゃ!イアン」

「は」


 急に声をかけられ目を開けるとぽっちゃりした二足歩行の猫の魔物が立っていた。

 その魔物はイアンの名前を知っていた。そしてタマと身体の色が同じだと思った。


「タ、マ?」

「はいにゃ!イアン、私に任せて下さいにゃ!」


 そう言ってタマはイアンを助ける為にレインディアとの戦闘を開始する。


 ◇◇◇


「そして三日三晩の戦闘の末にとうとう私は勝ったのですにゃ!」


 だん!と感情が高まり机に片足を乗せ、クライマックスを二人に語る。

 サントとアイゼはタマの語りに引き込まれて前のめりになりながら聞いている。


 後はイアンがテイムするところの話だったが、その時作業を終えたイアンとタナカさん(夫)が、遊んできたポチがコッコ達を引き連れ戻ってくる。


「タマ、何やってんだ。それに足を乗せるな」

「ご主人⁉︎」


 イアンが戻って来たことにタマは不味いと口を閉じる。

 そんなタマにサントとアイゼは不思議そうにするが、イアンに先程聞いた過去話の事を言う。


「師匠にイアンさんとの出会いの話聞いてたんです」

「今、レインディアとの戦闘を三日三晩を終えたところまで来たんですよ!」

「はぁ?レインディアと戦闘?」


 怪訝そうに何を言っているのかわからないような顔をするイアン。

 あれ?と二人は首を傾け、タマは冷や汗をダラダラ流す。


「レインディアにやられそうになったイアンさんを助ける為に師匠が魔物になったんです、よね?」


 確認するようにイアンに聞くと顔を顰めたまま思い出すようにイアンが答える。


「タマが魔物になったのは、急に目の前に出てきたポイズンシャークに驚いて進化したんだ。まぁ、その時棒で追い払おうとしたら間違ってタマを殴ったから魔物になったんだろ?」


 しん…と静まり返り、ジト目になった二人がタマを見る。

 その空気に耐え切れなくなったタマはにぱっと笑う。


「う、嘘ですにゃー…」

「「えー…」」


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