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14.帰宅

 

 タナカさん(夫婦)に夜番を任せ、ウキウキ気分のままイアンは就寝した。

 しかし翌日、日の出の眩しさに目を覚ましたイアンだったが、いくら地面にマットを敷いたところでベッドには敵わず、身体中が痛み、最悪の目覚めを迎えた。


「…い…てぇ…」


 痛みに耐えながら起きあがろうとするイアンを他所に傍でまだ安らかに眠りについているポチとタマにイアンは若干の怒りを覚える。

 べしべしと二匹を叩いて無理矢理起こし、イアンは顔を洗いに川へ行った。


「酷いですにゃ、ご主人」

「クゥン」


 顔を洗った事により身体は痛むままだが、頭がスッキリとして戻って来たイアンを恨めしそうに二匹は睨みつける。

 苦笑いしながら二匹の頭を撫でて何も無かったかのように誤魔化し、タナカさん(夫婦)の元へいそいそ向かうイアンに二匹口から溜息が漏れた。


「じゃあみんな、帰る支度をしてくれ」


 朝食を終えると自宅に戻る為、帰る準備を始める。


 まず道具の片付けから。竿以外の釣り道具は昨日のうちに片付けは終わっているので、今使った料理器具を川の水で洗い、バッグに詰め込む。

 そして野営地の解体。屋根と壁代わりにしていた布についた砂を払ってたたみ、ロープを回収する。

 最後に殆ど消えた火の後始末をする。念の為に水をかけて完全に消し、砂をかけて周りと馴染ませる。


 一番の問題は釣り上げ、干していた魚達。大量に釣り上げた魚の運搬が毎度のことながら大変な作業になる。


 周りに落ちている折れにくそうな木と釣りで使った竹竿も利用して大きめに格子状に組んでいく。ここに魚をロープごと引っ掛けるのだが、数も数だけに魚同士が密着している状態になってしまう。


 行きのは誰もいないような獣道を選んでここまで来たが、帰り道も同じ道を通るとこの重さで直ぐ疲れ、行きの倍以上時間がかかる。

 長時間の魚同士の密着は避けたい為、仕方なく帰り道はなるべく人の往来がある歩きやすい道を通る事にしていた。


 イアンは仕方なくと思っているのだが、こちらの道で行くと休憩を入れても歩きで三時間弱、馬車も通れるので早ければ二時間もしないうちに海に着く事が出来る。なので行き道はある意味無駄な努力と言える。


「準備良いな。タマ、転身(ターンオーバー)


 タマの足元に魔法陣が展開され、見た目がただの猫に変わる。


 本当はポチとタマにも少しは持たせたいが、人の往来する道で魔物である二匹をそのままの姿を晒すわけにはいかない。

 かと言って、今はただの動物の姿になって、力持ちに見えない犬と猫二匹に荷物を持たせれば、動物虐待と変な噂になってしまう。


 幸い食材の重さも無く、転身出来ないタナカさん(夫婦)用の人間変装道具も取り出している為、なんとか全員分の荷物を持てる重さだった。


 タナカさん(夫婦)には魚を任せる。一番上だけあえて長くなるように木を組んでいたので、両端を肩で担ぐように持ってもらう。

 そして全体に薄い布を被せる。これは遮光の目的とこんなに魚を持っていると商人に間違えられ、声をかけられる可能性を防ぐ為だ。


「よし、みんな行くぞ」

「にゃー!」

「ワン!」

「「カタカタ」」

「…タナカさん(夫婦)。間違っても、声出さないでくれよ」


 イアンを先頭にポチ、タマ、タナカさん(夫婦)と並んで歩き出す。

 出発してから山の入口に差し掛かるところでイアン達の向かう方からこちらに来る第一歩き人発見。

 杖を突いてしっかりとした足運びで来る老婆に平常心だ!と思いながらイアンは歩みを進める。目線をなるべく下げて目が合わないようにして通り過ぎようとした瞬間。


「こんにちは」

「⁉︎こ、こん!ここ、にちは⁉︎」


 この老婆は山をよく歩く人だったのかもしれない。登山をする人の間でよく見られるすれ違う人への挨拶。

 イアンはまさか挨拶をされるとは思っても見なかった為に、声は裏返り、緊張しているのがありありと分かる様だった。


 声を出さないタナカさん(夫婦)は会釈だけをして老婆とすれ違う。

 ホッと一息ついてイアンは額の汗を拭っていると後ろから視線を感じ振り返るとみんながその場に止まって憐れみのような目を向けていた。


「な、なんだよ…」

「…にゃー」


 やれやれと言うように代表のタマが鳴いて歩き出す。なんだと言いながら、言いたいことが伝わってしまったイアンは何も言い返せないまま後ろに着いて歩くのだった。

 それ以降、すれ違いがあっても会釈程度で済み、特に何事も無く家に着くことに成功した。


 帰れた喜びに浸りながら固有スキルを開錠しようとすると後ろから声をかけられた。


「イアンさん!」

「は?」


 後ろを振り返ると二人の子供が居た。数日前に出会った少女サントと少年アイゼだった。

 またコイツらかと怒りが生まれる前に二人はイアンを見るとホッと安心したように息を吐くその姿を見て怪訝そうに眉を寄せた。


「イアンさん無事だったんですね、良かった」

「はぁ?」

「あのですね、昨日も二人でここに来たんです。けど、入り口が消えてて何かあったのかって心配して…特にアイゼが慌てふためいて」

「サント⁉︎それは言うなって言っただろ⁉︎」


 恥ずかしかったのか、ワタワタとサントの口を塞ごうとアイゼは動き回る。

 何故心配されていたかも分からないし、特に話すこともないのでイアンは無視して入り口を開錠した。


「ただいま我が家!お前ら、早く入れ」


 そう言って声をかけるとポチ達はぞろぞろと中に入って行く。慌てて二人も続いて入って来る。


「なんで入って来るんだ」

「え?入れって言ったじゃないですか」

「誰がお前らに入れって言った。帰れ!」

「まぁまぁ、ご主人良いじゃにゃいですか」


 転身を解いてもらっていたタマがぽんぽんと膝を叩き、イアンを止める。タマは懐から一匹の魚を取り出し、サントに見せるとサントは顔色を変えた。


「そ、それは…!川を遡上せず一生を海で過ごし、年中取れるが旬の今の時期だけなかなか取れない珍しい鮭、トキシラナイ⁉︎」

「にゃ。師匠と慕ってくれるお嬢さんに食べさせてあげたかったにゃ」

「師匠…!」


 一人と一匹の感動話、とはイアンは思えなかった。何故主人である自分に食べさせると言わない、それどころか獲ったのに黙っていたのかと怒りしかなかった。


 隣ではタナカさん(夫婦)がアイゼの手を掴んで家へと案内している。感情が乏しいタナカさん達はどうにもアイゼやサントが来た時何時もより嬉しそうにしている。

 常に頼りにしているタナカさん(夫婦)の嬉しいことを奪いたくは無いイアンは深い溜息と共に肩を落とすのだった。


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