11.テイマーはまだ釣らない
翌日の午前三時、眠たい目を擦りながら起床したイアン達。目覚まし代わりにタナカさん(妻)の作ってくれた温かいスープを飲み、それぞれ荷物を持って外へ出る。
「みんな出たな?スキル『不可侵の領域』施錠」
スキルを発動すると今まで見えていた入口が閉じ、他の方向から見えなかったように周りの景色に同化する。
固有スキル『不可侵の領域』は今見える景色から少しズレた次元の場所に空間を作るスキルで、レベルに応じて領域が広がる。
そして施錠すると入口は見えなくなる。
入口を閉じてしまえば発動した本人以外余程の事が無い限り干渉出来ない。なので、ダンジョンなどでの一時的なセーフティーゾーン代わりに用いられる。
ただ、外から中の場所も様子も分からず、中から外の様子も分からないので開錠するタイミングを失敗し、出た瞬間に攻撃される事例があった。
そしてスキルを解除しないと新たに違う場所に空間を作る事が出来ず、解除すると空間にあったものは全部、生き物でさえも消えてしまうので何も置いて置くことが出来ない。
「閉じたな。よし出発だ」
「にゃ!」
「ワン!」
「「カタ!」」
此処から海までは徒歩で三時間ほどの距離にあり、休憩をしながらだと四時間はかかってしまう。
今の時期の日の出は五時半時ごろ、普通の魚なら日の出、日没頃に釣れやすいと言われているが、その時間には間に合わない。ただ、イアン達の今回のメインは魔物の魚。
今回行く海は魔物の方が多くいる場所で、早朝より遅い時間に活発になる。
タマは魔物の魚でも美味しいと感じるが人間はそこまで美味しいと感じず、資材目的で取るしか活用方法はない。
しかし、この海の魚は型が小さく資材を得るより捨てる部分が多いので意図的に取る事はない。
人のいない道を選び、休憩しながらイアン達はとうとう海に着いた。
イアンはまず一人だけで隠れながら入り江に誰もいない事を確認する。人に会いたくない為と魔物であるポチ達を見られ誰かに退治される可能性があるからだ。
ただ、この入り江の少し遠く離れたところに綺麗な砂浜があるので、わざわざイアン達のいる辺りに来る人はいない。
誰もいない事を確認して、みんなの元に戻る。
イアン達は入り江から近く、側に川が流れる林にロープを張り、布を被せ簡易的な野営地を作り上げていく。
その間にポチとタマが拾ってきた乾いた木の枝でタナカさん(夫)は火を起こしをし、タナカさん(妻)はヤカンに水を入れお茶の準備を始めた。
イアンは自分とタマ、タナカさん(夫)分の竿を用意していく。
竿はバンブーという竹にしか見えない魔物で作ってある。バンブーは地下の根から栄養を多く奪うので厄介者扱いされるが、攻撃してこないので誰でも簡単に倒せる。
ドロップ品として竹や筍が出現する。
この世界の魔物は倒すと肉体が消え、バンブーのようにアイテムをドロップをするタイプと肉体が残り、そこから素材を得るタイプがある。
因みにダンジョンの魔物は前者しかいない。
イアンは竿に魔物フィルスパイダーの強力な糸を取り付け、糸の先に少し太めの釣り針を付けてセット完了。
「タマー、準備いいぞ」
「はいにゃ!」
イアンはセットした釣竿と餌、バケツをタマに渡たすとタマは一目散に釣れそうな場所に走っていった。
火を起こし終えたタナカさん(夫)も一式受け取り、タマとは違う方向へ向かう。
イアンは釣りを始める前に一服しようとタナカさん(妻)の元へ行く。
ちょうどお湯が沸いたタイミングだったらしくタナカさん(妻)はイアンにお茶を入れたコップをすぐ渡してくれる。
「はぁ…うまぁ」
側にいたポチの頭をぐしゃぐしゃに撫でながら、何か食べたくなりバッグを漁る。昼用に作られたサンドウィッチを一個奪ってゆっくり食べていると遠くからタマが走って戻ってくる。
「タナカさん(妻)!釣れたですにゃ!」
「相変わらず早いなぁ」
タマの持つバケツには既に十匹の魚が入っていた。タマは走ってここに戻る為にバケツは小さめなので十匹で一杯になってしまう。
「行ってきますにゃ!」
新しいバケツを持って再び同じ場所へと戻って行く。
釣れた魚は捌くが、その担当はタナカさん(妻)。今釣れたのは魚の魔物のヨワシ。イワシに似た魚だが、色は紫と不気味な色である。この辺りに大量にいる魚の魔物で特に危険性は無い。
タナカさん(妻)はバケツから一匹ヨワシをまな板にあげ干し物の処理を始める。
ヨワシの鱗を包丁の背でとり、頭を落とす。切り口から腹を開いて中の内臓を取り出していく。
手で骨を取り除くと同時に開き、綺麗な川でしっかり洗い流し、水分をしっかり取る。
塩水を作っていたバケツの中に魚を浸し、何分かつけたら尻尾をロープで結び吊していく。
丁寧に干したいところだが、数が多いのでこうしないと場所が足りなくなるのだ。
それを片隅に見ながらイアンはバンブーの二十センチと太い竹に切り落としたヨワシの頭を入れていく。
ヨワシの干し物は頭ごと作るが、最初だけ頭を取り除いてそれをエサにしてイアンは罠を仕掛ける準備をする。これで何か取れれば良いな程度で準備を終え、立ち上がる。
「タナカさん(妻)、タマに一匹だけ焼いておいてあげて」
「カタ」
「ポチ、留守番頼むな」
「ワン!」
ヨワシの頭が入った罠と釣具一式持ってイアンもようやく釣りをしに海へ向かっていった。




