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8.アイゼの過去 後編


 翌日サントから魔物と一緒にいる人に助けられたことを聞いた。

 魔物は人の敵、そんな存在といる人に興味があり、もしかすると今度こそと思ったアイゼはサントと共にイアンの元へお礼と言う名目で行くことにした。


「イアンさんに会って、サントも慕うからきっと良い人なんだろうって思ったけど…もう、あそこに居たくなくて、生きたく、なくて…だから死ねるならって」


 何かを我慢するようにギュッと自身の服を握りしめるアイゼ。話を聞いてイアンは重たい溜息をつく。

 面倒くさい為何も言うつもりは無かったが、死ぬ為にポチをタマをタナカさん(夫婦)を利用しようとした事は見逃せなかった。


「はぁ…死にたいなら別に止めたりはしないがな、そんな理由で俺達を巻き込むな」

「…ごめん、なさい」

「それにお前が死ぬ必要が何処にある」

「え?」


 思わず顔を上げてイアンを見る。イアンは視線をポチに戻しており、ポチの肉球をにぎにぎとしている。


「俺が思うに死ぬべきは町人だろ?悲観がなんで怒りになるんだ。しかもそれを慕った奴の子供に向けるなんて馬鹿だろ。手のひら返しもいいところだろ」

「でもっ…俺のせいで父さんと母さんが死んだのは事実ですっ」

「自分を責めたいなら別に良いけどな…」


 そう言うと立ち上がりアイゼの目の前に見下ろしながら立ち、指を突きつける。


「そもそもお前は今の現状を受け入れて感情を殺すな。言いた事があるなら言葉にしろ!お前の側には想いを受け止めてくれるやつがいるだろうが」


 パッと思い浮かぶサントの顔。時折アイゼに何か言おうとして口を閉ざす姿を何度も見た。

 そして一部ではあるが味方になろうとしてくれた人は確かにいた。


 でも、アイゼは何も言わず、何も見なかったことにして来た。言ったところで何も変わらないと思ったから。


「…思ってる事、言っていいのかな」

「お前が言いたいならな」

「俺…生きて、いいの?」

「お前は生かされた。なら、堂々と生きろ」


 アイゼの目からポロポロと涙がゆっくり流れる。

 希望を持てとか大丈夫と言っていた人もいた。でもアイゼの中には親を殺してしまった罪悪感でいっぱいでその言葉は響かなかった。

 なんでお前だけ生き残ったんだと言われ続けたアイゼは、ただ誰かに「生きていい」と肯定して欲しかっただけだった。


 静かに泣くアイゼにイアンは隣にいたポチに助けを求めるように見る。

 人と関わらないようにして来た為、他人に目の前で泣かれた時の対処法を何をして欲しいのかわからない。


 ポチはやれやれと言うようにワンワンと鳴いてイアンの背を押す。ポチの言葉に顔を歪ませるが、再び吠えられ意を決したように膝をつき目の前のアイゼを抱きしめる。


 急に抱きしめられ、目を丸くしてイアンを見るが、イアンは何も言葉を発する事はなかった。

 ふと、こんなふうに抱きしめられたのは、ヤマトとサクラがアイゼを守ろうと抱きしめられたあの時が最後だったと思い出す。


「…っ」


 目を覚ました時にはすでに両親が居なくなっていた。直ぐに町長の元に行く事になって感情が追いつく前に環境が変わってしまった。


「うう…っ」


 サントも一時的だが居なくなって、独りでどうにかしないといけないと思って気丈に振る舞おうとした。

 でも限界だったアイゼは他人の体温を久しぶりに感じ、感情が決壊した。


「うあああっ」


 イアンに縋り、声をあげて泣く。今まで泣けなかった分を取り戻すように、幼い子供のように疲れるまで泣きじゃくった。


 ◇◇◇


「にゃふふ。外から赤ちゃんみたいな泣き声が聞こえてきましたにゃ」

「…やめてください」


 両手で顔を押さえ俯くアイゼの周りをタマが揶揄いながら彷徨く。

 昼には帰るとサントが親に言っていたので見送る為に今出入口に皆が集まっている。イアンは渋々だが。

 サントがタマに目を輝かせながら近付く。


「タマさん。いえ、タマ師匠!是非次は魚談義をもっとしましょう!」

「是非とも!」


 イアンとポチ、アイゼがいない間、そこにいた皆で話して仲良くなったらしい。次会う約束をしているタマ達を渋い顔で見ているイアン。


 タナカさん(妻)は作ったお菓子を布に包みアイゼに渡している。話していた時に出されたお菓子をアイゼだけが食べていないと言う事でわざわざ用意したものだ。

タナカさん(夫)もアイゼに近づいて、頭を撫でて慰めている。アイゼは困ったようにでも嬉しそうに笑う。

 そんなアイゼは見てサントは泣きそうになるのを我慢して一緒に笑う。


「イアンさん…また来て良いですか」

「二度と来るな」


 手で払いながら即答するイアンに苦笑いしながら、でも清々しい顔つきで手を振って二人は家へと帰って行った。


 二人が見えなくなり、家の中に戻ろうとしたイアンに思い出したようにタマが話しかける。


「それにしてもご主人にしては気の使い方が上手かったですにゃ」

「あ?」

「だって外をチラリと見た時泣いていた坊ちゃんを抱きしめるなんて」

「あれか…」


 ガシガシと髪を掻き、傍のポチを睨みつける。ポチはふいと視線を外す。


 あの時、目の前で泣かれてどうしたら良いかわからなくなったイアンはポチに助けを求めるように見た。

 やれやれと言うように鳴いた。


「ワンワン」

「(はぁ⁉︎「君には涙は似合わないぜ☆」って言え⁉︎何言ってんだ⁉︎)」

「ウゥゥ、ワン!」

「(「文句ばっかり、なら抱きしめろ!」か、確かにその行為は泣き止ませるのに適するとどっかの本で見たな…よし!)」


 そう思って抱きしめたのに更に泣くとは思わず、離れようとしたのに服を掴まれ逃げ出す事は不可能で間近で泣かれ大変な目にあった。


「あぁ‼︎なんだか苛ついて来た、ポチ!お前が変なこと言うからだ!」

「ワンワン!」


 イアンとポチのかけっこが始まってしまい、皆はお互い顔を見合わせ、一人と一匹を追いかけるように走り出した。

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