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人魚の愛した正しい世界

作者: あいか

婚約者を後輩に奪われた。


そして新しい命を理由に

私はあっけなく捨てられた。


周囲の噂話から逃げるように

私は長年務めた会社を去った。


それは、色恋に興味なく生きた私の

たったひとつと定めた恋だった。


(私は。結局は自分が可愛い)

 

身体とお金は捧げても、その恋は

泣いてすがって駄々をこねてまで

手に入れたいものではなかったのだ。

 

結果。私は仕事を失い、貯金を失い

残ったのはひび割れ枯れた恋心のみ。


実家に帰った私を見て、母は彼に激怒した。


そして共に泣いて時に励まし

私を心から慈しんでくれた。


『かわいそうなちぃちゃん。

 お母さんが守ってあげるわ』


事実、後輩と婚約者を相手どった

あれこれのすべてを母が対処してくれた。


それにより、毎月お金が返ってくる

ことになり生活の心配もなくなった。


母の作る美味しいごはんと

部屋に籠って趣味に浸る生活。

そこはまさに楽園、だった。


(うん。

3次元の男はもうこりごりだ)


私は元々、長髪キャラが絶対だし

その次点はクール系インテリだし


俺様入った雰囲気イケメンなぞ

お呼びでないし、絶対許さんわ!!!


夕飯をもりもりと平らげる私を

母がにこにこと見守っている。


あぁ――今日もご飯がおいしい。


私と母のおふたりさま生活は

どこまでも平穏で。  



そんな生活が

いつまでもいつまでも続くはずだった。



私はもう少ししたら働いて

母を安心させるつもりだったし


伯母さんの顔を立てるために

見合い相手に会うくらいの気持ちもあった。


今の私は就活することも、見合いもせず

日々をただ漫然と生きている。


おいしいご飯も毎日食べていれば普通になる。

ゲームだって毎日していれば飽きもくる。


これが、私の望んだ世界?


いいえ。こんなのは、違う。

間違っている。


けれど……私はそれを正せない。


私が家に居れば母は安心する。


私がゲームをしていれば、

元気になったと大げさに喜ぶ。


私の顔を見て、母が嬉しそうに笑う。


だから、私は彼を失った時と同じ様に

言いたい言葉をこくりと呑み込んだ。


そうして自分に言い聞かせる。


私はもう、無理して働かなくていい。

私はもう、好きなことだけしていればいい。

私はもう、母だけを愛して居ればいい。


あの恋は弾けて消える泡のようなもの。

人魚の見た、うたかたの夢だ。


母の束縛を厭って逃げ出したはずの家で

私は今日も演じている。


この家に君臨する人魚の女王のために


足のない、どこにも行けない

哀れで可哀想な人魚姫を。


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