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聖女と部屋と暗殺事情



 私の泣きそうな視線を見上げて、トマスくんはえぇと…と口ごもりながらも、案内を買って出てくれた。


「で、部屋はどこ?」

「ここに来ることしか考えてなくてわからないんだけど、聖女の部屋ってわかる?」


 立ち上がったトマスくんは思ったよりも身長が高かった。

 私より視線が高い。

 少し下位だと勝手に思ってたから、男の子なんだなぁとなんだか感心してしまった。


「聖女…」

「ごめん。わからなかったら大丈夫。西館のどこかのはずだし、窓にやたらとびっちり黒い蔦があったからわかると思う。」


 戸惑いの声に私はあわてて首を振った。

 わからないのであれば無理に突き合わせるようなものでもない。


「いや、わかる。蔦が這ってしまったのは僕のせいだから。」

「そうなの?」

「うん…ねえ、僕が君に会うのは二度目だって言ったら、どう思う?」

「え、ストーカー?」

「は!?スト…!??」

「ごめん。今のは聞き流して。」


 私は目をそらしつつ何でもないと口にしてみたが、なんか怖い。二度目って何。


「何か勘違いしてるみたいだから言うけど、ストーキングとかしてないから。」

「うんうん。おっけーわかった。」

「目をそらしたまま全然わかってない返事しないでくれる。」


 とにかく部屋に案内するから。と、歩き出すトマスくんの後に私も続く。

 一番年下のトマスくんは、絵柄で見れば華奢で可愛かったけど、実際に並ぶとヒロインよりもしっかりとした肩幅やうっすらとついた筋肉が見て取れて、ちょっとドキドキしてしまう。

 いかんいかん。こんなところでうっかりときめいている場合じゃないよ。私は帰るんだから。


「聖女様の部屋を使う人、貴女で二人目だよ。」

「どういう事?」

「わかんない。僕も詳しい事は何も知らないけど、一人目の人とは一回だけ会った事がある。」


 あの部屋を誰かが使うのは二度目って、ゲームにそんな設定はない。

 ホラー?このゲーム実はホラーゲームだった?


「ベランダ越しに一回だけ、言葉を交わしたんだ。でも、それから一度も会えなくて、もう一回会話したかったと思っていたら、僕の魔力に反応した植物が壁を伝って窓までいつの間にか伸びちゃって…」


 あの窓はお前の仕業かーい!と、心の中で突っ込みながら、私は天を仰いだ。

 それにしたって、二人目ってなんだ。

 だから時間軸がおかしいのだろうか。

 一人目がゲームの前半までの時間軸を終えてしまったから、私が後半に放り込まれたのだろうか。


「でもおかしいんだ。」

「何が?」

「一人目と貴女、見た目は何もかも一緒なんだ。なのに、全然赤の他人でしょ。」


 あまりにも情報過多で処理速度が落ちる脳内は、最後の情報だけをまずは拾った。


「どこが赤の他人だった?」

「力。一人目の人からはそこまでのオーラは見えなかった。それに、しゃべるとすごい赤の他人だ。」


 大変な暴言ありがとうございました。

 私はついこぶしを斜め前にある脇腹に突き入れていた。


「ぐっ…」

「悪意を感じた。」


 脇腹を抑えて恨めし気に私を見る少年に、私は涼しげに言い放つ。

 心の底から悪意を感じましたとも。えぇ。一人目と比べて私が何だって?

 確かに、必殺家電直しで力技で対処しましたけれども。


「そういう所、絶対違う。」

「一回しか会話してないくせに。」

「それでも、話し方とかで絶対他人だ。」



 それから他愛ない会話をしながら私はやっと与えられた部屋へと戻った。


「じゃあ、一人目がどうなったのか僕にはわからないけど、あんたも気を付けて。」


 うん。じゃあね。

 と、手を振ろうとして私ははたと思いとどまる。


 王宮。

 聖女の部屋。

 罠。

 悪夢。


 よぎる情報を手繰り寄せ、二人目の聖女。後半シナリオという条件を振り返る。


「ちょっっっっと…」

「何?」

「部屋、寄ってかない?」


 私は立ち去ろうとしている少年の服の裾をぐっと握りしめ、引っ張った。


「はっ!?何言ってんの??」


 少年は前髪で半分見えてない顔を真っ赤にして、私の手を振りほどこうとする。


「大丈夫。お姉さんに下心はないから安心してくれ。」

「下心って何!?」

「だから、ないって言ってんじゃん。」

「わけわかんない!」

「いいから、ちょっとよってけって!」


 私はつかんだ裾を思いっきりめいっぱい引っ張って、本日二度目の力技で彼をねじ伏せた。

 身体能力値マックス(予想)は伊達じゃないらしい。

 女性らしいかよわさよさようなら。


「ぎゃっ」


 つぶれた猫のような声を上げて私の部屋へと転がるように入れられたトマスくん。

 その後ろから部屋に入ると私は鍵を閉めた。

 大丈夫。内側からかけたから、トマスくんにも開ける鍵です。


「廊下で大声で言えない事を思い出したんだって。協力してよ。」


 勢いが良すぎて途中で躓いたらしいトマスくんは床に膝をついている。

 その隣に私もしゃがみ、小さい声で助けを求め、へにゃりと笑うしかなかった。

 だって、この部屋きっと呪いの部屋だもん。


「思い出すって…」

「寝室の方ね、さっき入ったら鳥肌が止まらなかったのを思い出したの。もしかしたら呪物があるかもしれない。」


 トマスくんははっとした顔で私を見る。


「一緒に探してくれたらあとはここで大人しくしてるから。だから、ダメかな?」

「わかった。助けてもらった命だ。僕も助ける。」

「やったぁ。助かるー!」

「…緊張感なさすぎじゃないか。」

「え、すごい命の危機感じててやばいんだけど?」

「どこが」


 トマスくんは相変わらずの口の悪さを発揮しつつも私と部屋の中を調べてくれた。

 当初私は寝室だけ調べてもらえばいいかと思っていたんだけど、トマスくんからちゃんとこっちの部屋も調べる様にと注意を受けて私たちは二部屋の隅から隅まで調べたのだった。

 すると、出るわ出るわ。

 まずは手前の部屋には 絨毯の下に呪物、ソファーの間に針、カーテンの隙間に呪いのお札と…それも複数発見されて頭が痛い。

 ソファー怖いよ。ソファー

 それから、本丸である寝室。

 当たり前のようにベッドの下に人型の紙人形、部屋の片隅見えない所に香炉があるし、中身はヤバイやつらしくトマスくんがどこからともなく手袋を出してそれを処理してくれた。持ち帰って埋めるとのことだ。香炉を移動させたら怪しまれる可能性があるからと、安全なお香を中に入れてくれ、他にヤバイお香がないか部屋をくまなく調べ、安全なお香と入れ替える。それ以外は部屋の中では見つけられなかったけれど、ベランダはわからない。


「帰るときに外からテラスを確認してやるから安心しろ。」


 そうだ。テラスが正しい名称だ。と、トマスくんの言葉で思い出す。


「うん。それなら安心して寝れるね。」


 私は、この世界に来てやっとちょっとだけ安堵して笑えた。


「あんた、魔王と戦いに行くんだろ。」

「うん。じゃないと家に帰れないし、私が死んじゃうから。」

「…そっか。なあ、僕も連れてってくれないか。」


 私はびっくりしてまじまじとトマスくんを見た。


「なんで?」

「魔王は僕の兄弟なんだ。体だけでも…帰ってきたら…って」


 あぁ、今の質問は私が悪かったな。

 彼の事情を勝手ながら知っているわけだが、だからと言って本当の心情を知っているわけではないのに。無神経な事を聞いてしまった。

 だというのに、彼はなぜか初対面の私に、他人にずっと隠してきた兄弟の話をしてくれた。

 どういう意図があるのかわからないけれど、私は頷いた。


「魔導士長様がいいよって言ってくれたら、一緒に行こう。兄弟、帰ってくるように私も祈るから。」

「ありがとう。あんたの事、守るよ。あ、僕の名前はトマスだ。」


 じゃあね。と言って彼は去っていった。

 きっと後でテラスを見回っていってくれるだろう。


 あぁ、今日はもう、疲れたなぁ。


 心も体も重たいけれど、念のため寝室をもう一度確認して、私はベッドへ倒れこんだ。

 どうしてこんな事になっているんだろう。

 もうおうちに帰りたい。



 

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