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神殿を束ねる神殿長様


 祈りの言葉、神様に捧げるもの。

 聖女であれば応えてくれる…かもしれない。

 今はそれにかけるしかないその名前。私はよく覚えている。

 あれだけ必死にゲームをしたんだから。


「…ヴェーグ ラーテム」

「…え…」


 カラカラに干上がった喉から、何とかかさかさの声を絞り出して、ゲームに出てくる祈りを口にする。

 祈りの言葉であり、神の名前である。それを知るのは、神から名前を授かった者だけだと言われている。

 無理やり絞り出した小さい声は、どうやら至近距離にいたエルネストさんに届いたらしく、驚きに満ちた瞳で私を見下ろしている。

 だが、私もそれどころではない。

 なぜなら見上げたエルネストさんの更に後ろ、祈りの間の高い天井のほうにあるステンドグラスが煌々と光を放っているんだから。

 やだやだどうしよう。これも知っている。

 これは伝説の乙女イベントじゃん。ステータスの中で、祈りをマックスにするとできるやつだよ。なんでどうして。私、なんで祈りのステータスマックスなの?これじゃあ、聖女じゃなくて、伝説の乙女として最初から話が進むことになっちゃうよ。

 伝説の乙女イベントって序盤じゃないでしょ?

 もう意味が分からない。

 何もかも意味がわからないけど、周囲を見渡せば、全員ステンドグラスを凝視するか、私を見ている。

 謎の緊張状態の現地は膠着したまま誰も身じろぎできずにいる。

 この状況を、誰かどうにかして欲しい。


 全力で丸投げの私の願いを、一番聞きたくない声が叶えたもうた。


「あぁ、やはり…神は我らに乙女を使わしてくださったのですね。」


 響き渡る声。

 高らかに歌うような優しい音。

 そして、強すぎる信仰心。


 こんにちは、生身では一番会いたくなかった攻略対象キャラ。

 名前はブニファシオ。


 信仰により、深淵のような黒い髪は長く伸ばし、規律により決められた複雑で美しい髪型をされている、この神殿の最高責任者である神官長様。

 瞳の色は緑の虹彩の混じる黄土色。二次創作では琥珀色と表現してる人が多い。

 身長より長い錫杖を持っている立ち絵は綺麗ですが、実際に見ると、錫杖重くない?って聞きたくなるようなやつです。

 身長より長くて、一番上に太陽と月をモチーフにしたような円形の飾りがでかでかとあるのでどうしても気になる一品。


「聖なる乙女。我らが願いのもと、降り立ちたもうたお方よ、どうぞ我らに神の御力をお示しください。」


 まっすぐに歩いてくる神官長様の目には、私以外誰一人映ってないのが私にもわかる。

 怖い。怖すぎる。さっきまでとは違う意味で怖い。

 あまりにも怖すぎて、私は傍らにいるエルネストさんの服をぎゅっとつかんでしまった。

 すると、エルネストさんがそれに応えるように肩に置いてる手をぐっと自分に引き寄せてくれた。

 これは、助けてくれるという事なのだろうか。

 私はチラリとエルネストさんを見上げるも、彼は私を見ていない。


「神官長様申し訳ございません。この方は、我ら第3騎士団及び、王宮魔導士長様の元、保護いたします。」

「なんと、神のお力を携えし乙女をお迎えしたというのに、神殿以外の場所にお連れするというのですか。」


 理解に苦しむという顔と、高らかな口上。

 だが、どうか負けないでくださいエルネストさん。

 ブニファシオさんの所にだけは居たくない。絶対に。


 このゲーム、冒頭の選択肢によって自分の拠点が変わるのも醍醐味の一つで、拠点によっては攻略できないキャラもいるし、見れないイベントもあるのだ。

 ここで神殿を選んでしまえば、ブニファシオさんが攻略対象になる可能性が爆上がりだよ。絶対嫌だ。


「お言葉は最もでございます。では、どうでしょう?この方ご自身に、どちらに行かれるか決めていただいては?」


 私はポカンとエルネストさんを見上げてしまった。

 まさか、自分に話題を振られると思っていなかった。

 こんな時に目の前に選択肢が現れないなんて困る。

 どんな口調でしゃべったら正解!?

 下手なことして殺されたら、神様絶対恨むからね!


「わ、私は、私を保護すると言ってくれた言葉を、信じます。」


 ぎゅっと、エルネストさんの服をつかむ。

 エルネストさんを選んだよとわかるように。

 縋るように。

 というか、心の底から縋ってるんだよ。

 助けてよ。

 こんな言葉でよかったのか?言った先から後悔と反省がすごい。


「と、いう事ですので、このまま王宮へ下がらせていただきます。神官長様、失礼いたします。」


 神殿長様へ失礼がない様目礼すると、エルネストさんは私を連れて歩き出す。

 アッシュさんの横をすれ違う時、アッシュさんは何か言いたげに瞳を揺らしたが、エルネストさんは話はあとだ。と、小声で言って、通り過ぎたのだった。

 小声で、そういう事、するから!だからこの二人は!!はー、そういうとこ、好きです。

 こういうキャラ同士の絆をふとした時に見せつけられるの、ほんと好き。

 あくまでも深い友情という意味でね?


 そうして神殿の敷地を出ると、馬に乗せられあれよあれよという間に運ばれる私。

 アッシュさん、ブニファシオさんとフラグを回避できたのだろうか。できたと思いたい。神様頼んだ。



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