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序章1

 

 とはいえ朝に、それも寝台列車でする事と言えば限られてくる。

 身繕いと着替えをすませた俺は隣車両のトイレで顔を洗ってきて、同じ車両らしい客の女性に狭い通路の行き交いですいませんを2度言って自分の持ち場に戻る。

 帰ってきて妹がまだ2度寝していたのでため息を一つ。幸せが羽を生やして逃げていく様を妄想しながら、脳に沈殿する倦怠感は朝のコーヒーで殺戮する。

「うーん、まだねむい」

 妹のボヤキを他所に中途半端に開いた上げ下げ窓をガラリと上まで引き上げて天然の扇風機でもう少し部屋の暑さを和らげる。安い切符なので列車のグレードは最低ランクでエアコン一つまともにつかない。

 と、思いきや妹が寝ぼけまがいにリモコンを手に取ってベッド脇のコイン投下口に200円を入れて早速有料2時間200円のエアコンを稼働させていた。

「俺が窓開けた傍から、嫌がらせかよ、ったく」

「ごめんねー」

 ったくと、そうはいいつつ窓を閉め、ひんやりとした冷風に身を預けると、昨晩の猛暑で汗まみれで風呂に入りたくて仕方なかった気持ちが割とどうでもよくなっていった。

 7月の一日。夏の初め。初夏とはいえ、昨今の異常気象続きで日本全体が蒸し風呂みたいになっているそんな時節。クーラーで涼みながらも内輪の相乗効果で更に汗を乾かしながら俺はベッド脇のリュックサックからノートを引きずり出して、早速妹が寝転がっている2段ベットの下段片隅に腰掛ける。ノートを手にぱらりと3枚ほどめくった。

 3枚目は3行程埋まっていた。一行目。

『家を出た。新しい門出。色々辛いけど、兄貴がいればまあ何とかなる』

 2行目。

『ネガティブな事は言わない。私はまだ死にたくないから。大丈夫。兄貴あれでいて優しい』

 3行目。

『もう誰にも迷惑はかけない。約束は守る。大丈夫。私はいい子』

 ぱたんと、先が空白のノートを閉じた。上々だった。欲を言えば、ここに昨日迷惑をかけた登場人物がもう一人いて、反省の念がもう一押しあれば尚良しだったけど、贅沢は言えない。

 寝顏をさっとみたが、俺の目が濁っているせいか妹(15)の寝顔が天使にも悪魔にも見えた。

 悪魔ならきっと今晩のディナーには劇物が混じっているかもしれないから、天使ということにしておこう。希望的観測じゃない。祈りだ。

 セミの鳴き声が急に賑やかになってきたので、いよいよ目的地のド田舎に辿り着こうとしているところだった。

 窓の外は木々や畑と緑一色で、家と家が自陣と敵陣くらいに離れている。

 俺はとりあえず考えることを一旦止めて、到着まで上段で休むことにした。



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