9.ふたりきりの密会④
★ ★ ★
「ーーどういうことなの? ちゃんと説明してよ。なんでお兄ちゃんがYUIちゃん連れてくるわけ?」
えらく落ちつき払って偉そうに問い質してくる妹だが、実はほんの10分前まではえげつなかった。
ーー…ーー
10分前ーー
「え、え……」
なんで自分の友だちを勝手に連れてくるの?とか何とか言いながら入ってきた1秒後のリアクション。まあ普通だ。なんたってあのYUIが目の前にいるんだから。
「えええぇぇぇぇ!?」
と思いきや、ダムが決壊したような驚きが一気に放出された。原キー+6のマスオさんの声を音量大で聞いた感じ。まあ……まだわかるかな。だってあの人気女優YUIだしこのくらいは仕方ない。
「キャァァ×△×#♪○#×!!!!」
絶叫した。
すぐに近所迷惑になると判断した俺は、母親が駆け上がってくる前に扉を開け、蜘蛛が入ってきただけだと説明。
そして散々ギャーギャーと喚き散らし、ようやくおとなしくなったと思ったら今度は腰を抜かす。
「あ……! あ……!!」
まばたきを忘れた目から涙が数敵。
口元を手で覆い、扉にもたれながら小刻みに震える妹。
「う、嘘でしょ……なんでこんなとこに……!! なんで……どうして! どうして~!?」
どうした。
そんなサスペンスドラマみたいなリアクションいらんわ。
錯乱状態のくるみを二人がかりでなだめて、なんとか落ち着かせようとする。何度確認したことか。
「くるみ?」
「あ……あ……!」
「なにそんな怯えてるんだよ、YUIだぞ?」
「う、うう……!!」
「くるみ?」
「どうして!!」
だからどうした。
呪いか? 呪いっぽい。これは呪いだな。よし、神社行こうか。
ーー…ーー
「ーーちゃんと説明してくれる?」
で、10分後これ。
立ち直り早すぎる件。
「YUIちゃんて、お兄ちゃんと知り合いだったんですか?」
どう説明しようかと悩んでいる兄に痺れを切らせたのか、妹は堂々とYUIに質問の矛先を向ける。
「知り合いというか、付き合ってる……みたいな?」
待たんかい。
また妹がサスペンスのヒロインみたいになるだろ。
「なんでややこしいこというんだよ! ここは知り合いだろ!? どう考えてもさ!」
「だって! 先輩が次聞かれたら彼女にしようって言ったんでしょ!」
言ったけどさ、今は違うだろ……。
とにかく、これ以上ややこしくなるのはごめんだし、妹にギャーギャー喚かれるのはもっとごめんだ。
俺は腹をくくり、事の成り行きを妹に説明しようとYUIに提案した。彼女もここは全面的に同意し、黙って頷く。
ひとまず偉そうに仁王立ちしたままの妹を座らせて、俺とYUIは交互に昨日ぶつかった所から話し始めた。
ーー…ーー
「ってことは……」
「ごめんね、嘘ついちゃって」
「ですよね~! ああ~ビックリした。で、でも、本物……なんですよね?」
「まあ本物、かな」
「あとでサインもらっていいですか!?」
「うん」
あれだけトチ狂っときながら今さら偽物だったら逆に笑えるわ。
それにしてもYUIはかなりの話し上手だった。
お陰でスムーズに伝わったようだ。
肝心の『奴隷』って単語も上手く隠せていたし、これで妹の中では学校でぶつかって偶然知り合った後輩がYUIだった。で、通るだろう。
「あたしビックリして勘違いしてました! お兄ちゃんと芸能人のYUIさんがまさか知り合いだったなんてって!」
「まあ知り合いは知り合いなんだけどね。……ね、先輩?」
なに、その鋭い視線。
可愛いからってなんでもありだと思うなよ?
ありだけど。
「YUIさんがお兄ちゃんの彼女ですって言ったときなんか、もうあたしマジでわけわかんなくなって!」
「んー、最初は条件付きの彼女ってつもりで言ったんだけどね、なんでか奴隷になっちゃった」
「「 ……はあ!? 」」
俺の記憶上だが、産まれて初めて妹とハモった。
奴隷を上手く隠したさっきまでの説明が一撃で粉砕される。
話し上手? 誰だ、そんなこと言ったの。