表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/34

8.ふたりきりの密会③

★ ★ ★


「知り合いでいいだろ、バイト先のさ」


 眼鏡女子を連れて歩く道中、あまり会話が続かないせいもあってか、意図せずに口から本音がこぼれ落ちる。


「アルバイトしてるなんて初耳です」


「だからってなんで彼女なんだよ」


「だってあの制服、同じ学校でしょ? 変に後輩とか言ったらいつかあの人にもバレちゃいそうだったから言いたくなかったの!」


「…………」


 駅から離れて10分ほどの人通りの少ない路地まできた。実はもう、家は目の前……。

 あの場から離れるために仕方なく眼鏡女子を連れて歩き始めたけど、これ以上は無理があった。


 少し不自然だったけど、家が目の前だとバレる前にさっさと目的を果たしたかったから、一度会話を切ってから鞄の中をあさる。


「せ、先輩……?」


「あーちょっと待って」


 暗くてよく見えないんだ。生徒手帳、どこだ?


「ねえ先輩! 別にこんなところじゃなくてもさ……!」


 もうここしかないんだ。

 家に着いてしまう。いや、むしろもう着いてる。


「っ!!」


 突然だった。

 いきなり、本当になんの前触れもなく眼鏡女子が俺の腕にくっついてきた。


「ちょ、な!なんだよ!?」


 心と体と息子のボルテージは一気に急上昇。


 今の今まで俺の認識では1学年下の眼鏡女子ってだけだったけど、よくよく考えてみると、今この腕にふくよかな胸の膨らみを押し当てているのは……紛れもなく人気女優YUI!!


 YUI! 

 あの人気女優YUI!のおっぱい!

 

 !?



「隼人、家の前で何してるの?」


 薄明かりの街灯から突如として現れたのは、まさかの仕事帰りの母親。

 

 俺のリアクションに説明など必要ない。左腕にはYUIのおっぱい、目の前には母親、冷静で入れるはずがない。


「か、母さん……!?」


「あら、あなた彼女なんてできたの?」


 眼鏡女子は俺の母親だと気づいた瞬間、後ろに飛び退くようにして腕から離れた。


 彼女……!?

 いや、あたり前か……。

 同い年くらいの女子と息子が家の前でくっついていたら誰が見てもそういう風にしか見えねえよな。


 訂正しないと……!


「彼女じゃない! 知り合いだって!」


「知り合い? くっついてラブラブだったじゃない」


 じゃないから訂正してるだろ。聞けよ!


「違うんだって! バイト先のーーじゃなくて妹の知り合い!」


「くるみのお友だち? なんであなたが家の前で足止めしてるのよ。早く上がってもらいなさい」


 母親は職場風の強めな口調でそう言い残し、先に家の中へと入っていく。


 や、やってしまった……。

 なんで最初に知り合いって言ったのに、わざわざあとから妹のって付け加えたんだ。アホか。


「マジかよ……!」


「ど、どうするんですか!?」


「ごめん、すぐ帰すからさ、ちょっとだけ上がってもらっていい?」


 鞄の中で迷子になっている生徒手帳を一旦諦め、『彼女・妹の友だち・バイト先の知り合い』短時間で色んな肩書きができた眼鏡女子を連れて、気まずさ全快で家の中へと入った。




ーー…ーー




「あのさ、次聞かれたらやっぱ彼女にしよう」


「え?」


 自分の部屋で唐突にそう提案する。


「バイト先の知り合いとか妹の友だちとか彼女とかさ、もうややこしいわ」


「ほとんど先輩でしょ! 言ったの!」


「……そうだよな、あのまま否定せず彼女って言ってれば家に案内することもなかったんだ。今から駅に送るとこで済んだはずなのに」


 後悔しながらも休むことなく鞄の中をあさる。


 現在PM21:00。

 お互い仕事帰りで疲れている中、自分から取りにきたいとやってきたとは言えここで足止めさせるのはちょっと申し訳なく感じる。


 くそ、生徒手帳どこだよ……。



「んっ! はぁ~、疲れた~!」


 人があせっている傍らで、眼鏡女子は随分な落ちつきを覗かせる。テレビ勝手につけてるし。


「あ……」


 偶然にもCMでYUIが映った。


 さっきのおっぱいのときも思ったけど、隣に座るビン底眼鏡女子、このYUIなんだよな。

 いつもテレビだと髪の毛はおろしているし、もちろん眼鏡だってマスクだって掛けていない。

 全くの別人にしか見えないからこっちも平常心でいられるけど、今自分の部屋にあのYUIと二人きりなんて。たぶん誰にも信じてもらえないだろうな。


「よいしょ」


 CMが流れ終わったとき、なぜか眼鏡女子は髪の毛をほどいた。眼鏡も、そしてマスクも……。


 ヤバい、可愛すぎる。

 無意識に手が止まり、視線も釘付けとなる。


 ドキドキが鳴り止まない。先ほどの左腕の感触が自然と甦るようだ。ああ、ドキドキが止まらない以上に息子が止まらない。はしたなくて申し訳ないがこれぞまさしく急成長。


 まるで時間すら止まったかのような感覚だ。


「どうしたの?」


 YUIはこちらを見ながら首を傾げる。

 これはわざとなのか?

 どうしたの?じゃねえんだよ。誰だって硬くなる……じゃなくて固まるに決まってるだろ。


「ああ! せ、生徒手帳な!」


 ごまかすのに必死だわ。

 マジでどこいったんだ?

 というかいっそ、このまま見つからなければいいのに。



 ガチャ!


「誰~知り合いって? てかさ、なんでお兄ちゃんがあたしの友だち連れてくる……」


 変装なしのYUIと、あ然とする兄の部屋に(くるみ)参上。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 変わったきっかけで始まった二人の関係ですが、今後はどうなっていくかが楽しみです。 [一言] 更新を楽しみにしてます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ