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7.ふたりきりの密会②

☆ ☆ ☆


 連絡をしてからちょうど20分、待ち合わせの駅へと到着した。


 学校から近いだけあって今まで一度も降りたことのない小さな駅。

 そういえば待ち合わせ場所って駅としか言ってなかったなって思いながら改札口を出て階段を降りてみると、降りてすぐの広い歩道に先輩らしき後ろ姿を発見。


(あれ……?)


 大きなジェスチャーで何かしてる?

 どう見ても1人じゃなさそう。あれで1人だったら頭イタイ人だ。


 気になって階段から覗き込むようにその先に視線を向けてみると、先輩は誰かと話をしているようだった。

 何を話してるかは分からなかったけど、別に生徒手帳をもらうだけだし。と、何も考えないで残りの階段を降りていく。



「お待たせです」


「YU……井川奈央!」


 先輩とその友だちは思いのほかものすごい早さでこちらに振り返った。そして私は危うく先輩を殴りそうになる。


(絶対いつか悪気なく喋るタイプだ……この人!)


「あっ!」


 間一髪だったと安心したのも束の間、先輩の友だちであろう男子は何かを察したのか、眉間にシワを寄せながら回れ右してこちらに迫ってくる。


 え……

 もしかして気づかれた!?


「隼人、女の子じゃん! お前いつの間に彼女作ったんだよ!」


「い、いや、別に彼女じゃ……。バイト先のーー」


「はい嘘ー! ねぇきみさ、隼人の彼女でしょ?」



 そういうこと?

 良かった、バレてなくて。

 眼鏡はいつもしてるけど、念のためにマスクもかけてきて正解だったな。


 というかこれ、どうするの?

 彼女って答えた方がいいの?

 もしくは知り合い……いや、友だち?


 ただし後輩だけは絶対に言えない。

 だってこの人の制服、私や先輩と同じ学校の制服だ。接点を口にするとあとあとバレそうだし、なるべく私の学校生活には関わらないでほしいから後輩だけは言いたくない。


 どうしようか迷って先輩の顔をチラ見すると、先輩は友だちにイジられているのが照れくさいのか隣で慌てふためいている。


「……(どうすんの!)」

 

 すかさずヘルプの合図を肘でげしげしと送った。


 先輩からの返信は、首を友だちの方にクイックイッと2回、頷くようにアイコンタクトしてくるだけ。無駄に必死感だけは伝わってくるけど、ごめん……全然わかんない。


 まあ後輩よりかはマシか。ってことで、とりあえずここは合わせておく。


「あー……先輩の彼女です」


「なんだよマジでさ~! お前ふざけんなよ~!」


「わ、悪い功太! 俺ら行くわ」



 あれ……違った?


 戸惑う私よりも遥かに戸惑っている先輩。そっと私の肩に手を添えて、こっちこっち!と分かりやすくこの場を離れるぞと肩を押す。


 さっき欲しかったよね、その分かりやすさ。


 心の中で呟きながら、足早に歩く先輩のあとを離れないようにして着いて行った。




ーー…ーー




「知り合いでいいだろ、バイト先のさ」



 あれだけ早足だったのに、口を開く少し前から極端に歩くスピードが落ちていた。

 何かあるのかなって思いながら同じように減速してみると、いきなりこれ。


 だって先輩がなんも喋んないであたふたしてるからでしょ? 私のせいじゃないから。


「アルバイトしてるなんて初耳です」


「だからってなんで彼女なんだよ」


「だってあの制服、同じ学校でしょ? 変に後輩とか言ったらいつかあの人にもバレちゃいそうだったから言いたくなかったの!」


「…………」


 黙った。私の勝ち。


 ん?


 先輩は負けた腹いせか、街灯もまばらなこんな薄暗い住宅街のど真ん中で唐突に鞄をあさり始める。


「せ、先輩……?」


「あーちょっと待って」


 こっちが待って。

 まさかこんなところで生徒手帳を渡すつもり?

 タイミングおかしくない?


「ねえ先輩!」


 渡したあと1人で帰るつもりでしょ!


「別にこんなところじゃなくてもさ……!」


 負けでいいからほんとにやめて。

 駅までの道も分からない上に暗くてひたすら怖いし、先輩は気がついてるかわからないけど、さっきからコツコツ後ろから足音が聞こえるんだって!

 

 ほら! どんどん近づいてくる!

 もうすぐ後ろだってば! ねえ先輩っ!!


「っ!!」


 たまらず先輩の腕にしがみつく。顔を隠すように。


「ちょ、な!なんだよ!?」



「隼人、家の前で何してるの?」


「か、母さん……!?」


「あら、あなた彼女なんてできたの?」


 先輩のーーお母さん!?


 驚きと同時に慌てて先輩から離れる。


 街灯でしか認識できないけど、見た目はスーツ姿のバリバリなキャリア・ウーマンって感じで、手提げの買い物袋がとてつもなく似合わないすみれさん以上の超仕事人間ってオーラが漂っている。


「彼女じゃない! 知り合いだって!」


「知り合い? くっついてラブラブだったじゃない」


 確かに。

 腕にくっついた高校生を見たら、誰でもカップルって思いますよね……。


 でも違うんです!

 思わずっていうか……反射的にっていうか……怖かったったいうか……ほんとに違うんです!


「違うんだって! バイト先のーーじゃなくて妹の知り合い!」


 ん?

 今度は妹さんの知り合い?

 てか先輩、妹いたんだ? でも別に妹さんのじゃなくて普通に知り合いでよくない?


「くるみのお友だち? なんであなたが家の前で足止めしてるのよ。早く上がってもらいなさい」


 ほら~!!

 先輩が余計な単語つけるから!

 絶対妹さんいらなかったでしょ!


「マジかよ……!」


「ど、どうするんですか!?」


「ごめん、すぐ帰すからさ、ちょっとだけ上がってもらっていい?」


 ほんとに……?


 すみれさんが冗談半分に言ってた『俺ん家こいよ』ってあの乙女予想、セリフやシチュエーションは少し違うけど、これって結局おんなじことじゃない!


「お、お邪魔します……」


 早く!と手招きされるがまま、気まずさ全快で先輩の家にお邪魔する。


 っていうか先輩の家、目の前だったんだ……。

 急に歩くのがゆっくりになった理由、もう手遅れだけどようやくわかりました……。

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