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5.一般男子の奴隷になった日

☆ ☆ ☆


 放課後、撮影現場ーー



 昨日に引き続きドラマの撮影が行われていった。

 昨日よりも、ほんの少しだけ順調に。


 役を演じる楽しさが3年経ってようやく解ってきたような気がするけれど、同時に、難しさも増してきたような気がする、そんな1日だった……。



『はい!カットー!』



ーー…ーー



「うん!昨日よりずっと良かったじゃん!」

「いい感じだった?」

「バッチリ! でもまだちょっと元気ないよね? さては、バレちゃった男子となんかあったか~?」


 昨日ダメ出しされたときとは違い、笑顔を見せながら楽屋の扉を閉めるすみれさん。


 上手くいった理由は、周りに知られていなくて良かったという安堵感が昨日よりもずっと心を楽にしてくれているからだろうと思う。


 すみれさん、今日は機嫌いいみたい。

 昨日は心配してくれてたし、昼休みに起こった先輩とのこと話してみようかな。


「ねえ、すみれさんーー」


 着替えながら口を開いた。

 


ーー…ーー



「ちょっと、それマジで言ってる?」


「ね。なんでこうなったんだろ」


「いやいや、こっちが聞きたいから。一体どういう展開になったら奴隷になんの?」


 突如カミングアウトした『奴隷になりました宣言』に、すみれさんはあきれながらもかなり心配そうな表情でスケジュール帳を書く手を止める。


 まあ……奴隷だからね。

 でも悔しいけど、自分から言ってしまったことだしもう仕方ないかなって。


「YUIさ、いくら新しい役が『義母に逆らえない連れ子』だからって何もリアルまでそれに近いことやらなくてもいいんじゃない?」


 別にそういうわけじゃ……。

 私、そんなプライベートの使い方してまで役作りしてるように見えるの?


「一応ちゃんと考えたの。先に彼女にでも何にでもなるって言って、そのあとすぐに他人強制みたいな条件を言っちゃえば諦めるかなってさ」


「諦めるどころか揚げ足取られて奴隷指名されてんじゃん」


 正論なだけに何も言い返せない。


 それでもやっぱり、上手くできた演技がそう物語るように、昨日に比べてそわそわ感が全然違う。


 たぶん私自身、正体を拡散されていることの方がきつくて、どこかで奴隷や彼女の方が何十倍もマシだと思っているからだと思う。


 疑似恋愛だろうが奴隷だろうが、平穏な学校生活を守るためならなんだってやる。

 最悪、ムチャなこと頼まれたら断ればいいんだし。


「YUIが本当に嫌だったら口止めしてあげよっか?」

「どうやって?」

「相手高2でしょ? あたしが体張ってさ」

「体を張って……?」 

「そっ! 1回くらい寝てあげたらーー」


「…………」


 そういう体を張る、ね。

 たまにこういうこと平気でいうから、この人。



ーー…ーー



「どうしたの? 今日は乗ってくんでしょ?」


「あっ、ちょっと待って!」


 帰り支度の手が止まった原因は、突然送られてきた先輩からメッセージだった。

 実はあのあと、連絡先としてお互いのL○NEを交換していた。


「え、うそ!」


 あわてて鞄の中を探す。


「どうしたの?」

「ぶつかったときに落としたんだ……」


 すみれさんの問いかけにも反応せず、続けて送られてきた先輩からのメッセージに視点を落とす。


『今日渡すつもりだったんだけど忘れてたわ。明日持って行くから』


 生徒手帳だ……全然気づかなかった。



 ここは悪いと思いながらも、待たせているすみれさんへの事情説明をあと回しにする。


 すぐに返事しなきゃ。



★ ★ ★



 L○NEを送ってから意外にも返信は早かった。


『お疲れ様です。明日は撮影で学校いくの遅れるんです。よかったら今から取りに行ってもいいですか?』



 わざわざ取りにくるほどの物か……生徒手帳って。


 放課後のバイト終わり、そう思って何度かやりとりしていると、眼鏡女子ーーもとい井川奈央の方から、生徒手帳のメモ欄に共演者たちの連絡先などが書いてあると明かされた。


 取りに行きたい理由は、誰かに知られるとマズいとか、もし俺が落として連絡先が拡がったりすると困るからなんだと。


 いや、どの口が言ってんだって感じ。

 そもそもぶつかったのはお互いさまだし、落としたの誰だよ。


 ん?


『先輩も絶対に見ないで下さい』


 ……だからなんなのって。

 人気女優だから仕方ないとは思うけど、昼休みに誰にも『YUI』だと言っていないか確認してきたり、落として連絡先が拡がらないか心配してみたり。


 そんなに俺の信用度0感をゴリ押ししないでほしい。せつなくなるわ。


『見ないって』


 返信ついでに休憩室で愚痴を吐く。


 ま、とはいえ別に拒む理由なんてない。

 生徒手帳は鞄に入ったままだから、そんなに取りにきたいのなら俺も今から帰りだしちょうどいい。


「お疲れ様でしたー」



 待ち合わせ場所を家の近所の駅前に指定し、俺は足早にバイト先をあとにした。

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