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3.衝撃を伴う出会い③

☆ ☆ ☆


「お疲れさまでした」


「お疲れさま~YUIちゃん! 今日もバッチリだったよ!」


「ありがとうございます」


 あれからいつも通り仕事に向かって、いつも通り撮影をこなした。……はずなんだけど、やっぱり放課後の出来事が気が気じゃないだけにどこかテンションが低い。


 監督や共演者、裏方のスタッフさんたちに一通りのあいさつを交わしたあと、重い足をずるずると楽屋へ引きずった。



「あれのどこかバッチリだったのかしらね」


「あ、すみれさん……」


 楽屋の扉まであと少しのところ。

 腕を組ながら通路にもたれかかるマネージャーのすみれさんが、あきれ気味な表情と一緒にため息を吐く。


 テンションが低い。

 全然集中できてない。


 たぶんそう言いたいんでしょ。


「でも、ちゃんとやりましたから」


 楽屋へ入りながら冷たく言い返す。


「なんかあったの? 全然元気ないじゃん」

「学校終わりだからちょっと疲れてるだけ」

「そんなの、いつものことでしょ?」



 そう、いつものことだ。


 今日もいつもと変わらない地味な学校生活と華やかな芸能界を行き来するだけのいつも通りの毎日。


 のはずだった、ただ一つを除いて……。



「なにか悩み事があるんなら言って?」


 すみれさんは優しく顔を覗き込む。


 たぶん、すみれさんからすれば悩み事ってほどのことでもない。けれど私にとっては、中学時代を甦らせるほどの大問題発生中なのだ。


 でもすみれさんに相談しても、どうせ「そんなこと?」とか軽く言われたりするだけだからどうにも乗り気がしない……。




ーー…ーー




「そんなこと?」


 ほらね。わかってたけど。


「男子生徒にバレたんだ? まあでもこの際いいんじゃない? 堂々とする機会に恵まれたと思えばさ!」


 そんなポジティブには考えられないってば。

 着替えを済ませ、帰り支度を黙々と進めながら無言のまま視線だけを合わせてそう言った。


「むしろさ、変に隠すよりよっぽどいい高校生活が待ってるかも知れないでしょ?」


「ないって。それが嫌で地元離れたんだよ? すみれさんだって知ってるでしょ? きついんだから、学校で撮影のこととか聞かれたりするの」


 唯一の平穏、それが私の学校生活だ。


 陰キャでいいし地味でいい。

 誰にも自分がYUIであることを知られたくない。


 それなのに入学してたったの3ヶ月でバレるなんて、これじゃ地元から引っ越した意味がないじゃん!っていう軽い自己嫌悪。


「まっ、あたしがその男子だったら言わない代わりに電話番号教えて!とか、一回遊びに行かない?とか言うよね、絶対」


 思わず帰り支度する手が止まる。

 

 本当だ……。

 考えもしなかったけれど、その可能性があった。

 いや、それどころかもうすでに噂を広められている可能性だってある。


「あら? 真に受けちゃった? 冗談よ! ちょっとからかってみただけだって!」


 真に受けるし、冗談に聞こえない。

 いや、むしろありがとうすみれさんって感じ。可能性の範囲だけど、十分にあり得ることだ。


「お疲れさまでしたーー」


 冗談だからね、と繰り返すすみれさんの方を振り返ることなく、楽屋の扉をそっと閉めた。


 あの男子、明日何か言ってくるかも知れない。


「対策、練らないと……!」

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