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27.作戦会議②

★ ★ ★


「おーい。どうしたのー?」



 事情を知らないせいだろう、沈黙するYUIと兄に対して疑問符を浮かべる妹のくるみ。


「パリパリ、むぐ……っ! んはーっ!」


 聞いておきながら能天気に1人でお菓子を頬張る。その姿から伝わるどうでもいい感が半端ないがここは触れないでおこう。



 眼鏡女子は予想通り固まっている。

 画面には触れていない。ポイっと手渡したスマホに視点を落としたままだ。


 俺は、まだそんなの序の口なんだけどなーって思いつつも黙って眼鏡女子のリアクションを待つ。



「先輩、これ……!」


 

 やっと来たか。

 けど驚くのはまだ早いんだって。



「それまだマシなやつな。下の方とか完全に特定されてるから」


「されてるからって……! な、なんでそんなに落ち着いてるんですか! バレちゃってるんですよ!先輩って!」


「……わかってるよ」



 眼鏡女子は俺の気の抜けた返事に焦りと憤りを重ねる。まあ、当然と言えば当然の反応だな。


 しかしながら俺だって、敢えて感情を逆なでするように冷静沈着に返事をしているわけじゃない。ある程度、想定してたんだ。近い内に個人まで特定されるだろうなって。……ちょっと早すぎる気もするけど。



 ひとまず宥めてから、それでも困惑する眼鏡女子に俺は想定の根拠を説明を口にしはじめた。



「店に仲のいい社員がいるんだけどさ。恭太郎さんーーっていう、歳の割りに頭ちょい薄の」


「そんな情報いらないでしょ。……それで?」


「休憩中にいきなり聞かれたんだよ。画像を押しつけられて、これお前だろ?ってさ」


「……なんて言ったの?」


「なんてって……普通にそうですって答えたけど?」


「もぉ、バカでしょ! なんで肯定するんですか!」



 眼鏡女子は再び怒りを滲ませた。

 待て待て、まだ理由は言ってないだろ。



「仕方ねえだろ? 恭太郎さんは自分の店だってわかってたし、俺の制服だっていつも見てんだからさ。あれ、間違いなく確信あって聞いてきたんだって」


「そ、そうかも知れないけど……!」


「たぶん恭太郎さん以外にもあの写真に映ってるのはバイトの三谷だって、聞いてこなかっただけで気づいてるヤツいたと思うぜ? だから遅かれ早かれ特定はされるんだろうなって半分諦めてたんだよ」


「それはわかるけど……でも……」


「特定って言ってもさ、根拠なんてなんもないじゃん。もうそのまま誤魔化しちゃえば?」



 突然くるみが口を挟んできた。


 その前に一つ気になるんだけど、お前の周りに広がる大量のゴミはなんなんだよ。



「ほぇ? なに?」


「なにって、お前……お菓子は?」


「食べたよ?」



 手品か。お前、晩飯食ったんだろ。言っておくが別腹なんてそんな生易しい量じゃなかったからな。


 俺は疎外感をたっぷり含んだ視線をくるみの周囲に散らした。



「あ、あとで片付けるから!」



 あたり前だ。誰の部屋だと思ってる。


 まあいい、話を戻そう。



「……もう誤魔化しは効かないんだよ」


「なんでー?」



 首を傾げるくるみ。

 ……わからないんだったら入ってくるなよ。と、俺はため息を一つ。



「お前さ、話聞いてなかったのか? もう店の社員たちにもバレてるって言っただろ。恭太郎さんにも白状しちゃってるし、名前まで挙がってんだから学校の連中だってすぐに気づくって言ってんだよ。だから誤魔化すのはもう手遅れなんだって」


「確かに……そうかも」



 求めてもいないのに横から同調して頷く眼鏡女子。……てっきりくるみ寄りかと思っていただけに意外だった。



「問題は学校でYUIとの関係を聞かれたときだな。恭太郎さんのときはなんとか逃げきったけど、学校じゃ無理あるだろうし……」



「「 うーん 」」



 偉そうに腕を組むくるみと、ミニテーブルに肘を乗せて頬に手を添える眼鏡女子。


 部屋は暫しの静寂に、女子2人のお菓子を貪る音だけが鳴り響き、作戦会議は暗礁に乗り上げたーー



 かに思えた……。




ーー…ーー





 20分後ーー



「そんな命令だったら私、絶対に聞きませんから」



 眼鏡女子が眼鏡を外す。

 久々に見た生の素顔……けれど、初めて見る仏頂面でもあった。


 妹のくるみはというと、この雰囲気の元となる俺たちの些細な掛け違いを発端に部屋から立ち去った。いや、正確には立ち去ることしかできなかったと言った方が正しいかも知れない。



「お前さ、マジでなんなの? どうしたいんだよ」


「さっきから言ってるけど? わかんない?」



 醸し出す雰囲気が冗談の一つさえ混ざっていないことを犇々と伝えてくる。しかしそれはこっちも同じ……と、譲らない姿勢は崩さない。



「なんでだよ。意味わかんねえって」


「もう、わかんなくていいよ……」


 

 テレビでは決して見ることのないYUIの、井川奈央の冷めたような怒っているような悲しんでいるような、そんな複雑な表情を見た。


 そしてそれを最後に、井川奈央は何も言わず、視線をゆっくりと逸らして部屋から出て行く……。俺に引き止める言葉はない。



「くそ……っ! なんだよ!」



 俺は静かに閉められた扉の前に立ち尽くし、20分前を振り返ったーー

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